第二十話 終端
雨が明けた日。
五月独特のジメジメした感覚が私の身を包む。
生徒会選挙もいよいよ明日に全校生徒の前でスピーチをして、投票があって決まる。
今日まで佐藤くんは、朝の挨拶を欠かすことはなかったし、お昼休みの時に、各教室を回って、演説もしていた。
『生徒会なんて、誰がなっても変わらない』
そういっていた人もいた。
でも、彼の頑張りを見てきた私は、誰よりも彼になって欲しいと思っている。
彼なら、きっと言葉だけではなく、しっかりと掲げた公約を果たしてくれるだろう。
そう思って、空を見上げてみると、少し雲が残りながらも晴れていた。
今日は小柳先輩が「少し用事があるから、今日は部活はできそうにないけど、やる?」とグループに送っていた。
私も特にゴールデンウィーク締め切りのイラストの作業が終わり、特に部活動でやらなきゃいけないこともあったので「やらなくて大丈夫です」と送ったので、今日は部活はお休みだ。
少し図書室に寄った後に、帰ろうと学校を出た。
出たすぐのところのベンチに座っている彼がいた。
彼は、こないだ生徒会選挙に向けて書き込んでいたノート片手にうんうん悩んでいた。
急に強い風が吹きつけてきた。
すると彼が手に持っていたノートはふっと舞い上がり、私の足の前に落ちてきた。
なので、私はそれを拾い上げて、彼に手渡した。
「はい、佐藤くん」
「ありがとう、急に強い風が吹いて、びっくりした」
彼は普段、話す分には普通なのだ。まるで物語のモブのように。
時たま変わっていたり、ちょっとおかしなことに巻き込まれるだけで。
でも、私が少しわかるようになってきた彼の様子の中で一つだけ、気になることがある。
それは……。
「ねぇ、どうして、佐藤くんはそんなに頑張れるの?」
「えっ?急にどうした?何を?」
「生徒会の選挙だったり、いま佐藤くんが座っている椅子を綺麗にしたり。ずっと頑張ってきたじゃないかな」
「それは主人公になるためだ」
彼は少し胸を張るように私に目を合わせて答えた。そしてこう続けた。
「この世界には、空気抵抗があるから、すごく高くから落ちると、どんなに速く落ちても、ゆっくりと落ちていっても、最後はみんな同じ速度に落ち着くんだ」
彼は少し目をグラウンドに向け、私も釣られて目を向ける。
「……それは人も同じ。年をとれば、大人になれば、みんな似たような速度で歩いて、似たような顔になっていく。それが怖いんだ」
その時に私はちらっと彼の横顔を見た。
「だから俺は、抗いたい。一度だけでも、俺だけの速度で走る主人公になりたいんだ」
そう言い切る瞬間「フッ」と最初に彼が呟いた横顔と同じように、少しギザに決まっていた。
「そのために、主人公のように、どんなことにも挑戦するし、色々なことを経験していきたい。それが頑張ってきた理由だ」
最後の瞬間は普段の彼に戻っていた。
「そっか……。じゃあ、明日演説頑張ってね」
そう私が言うと、彼は笑顔で「もちろんだ」と返し、私は彼の邪魔にならないように足早にその場を後にした。
タイトルの終端は「終端速度」からとりました。




