第十二話 ベンチ
まえがき
先輩はどうやら最近少し忙しいようだが…?
入学してから、三週間が終わろうとしている。
今日は金曜日なので漫画研究部に行く。
里奈は少し他の用事を済ませてから漫研に来るらしい。
少し見慣れたクルッポンのイラストが描かれた扉を開ける。
すると見えたのは先輩が椅子を三つ繋げて横たわっている姿だった。
しかも入り口側に足を向けて。
これじゃあ、この間よりやばい。見えちゃいけないものが見えそうになってる。
「先輩!その姿勢はやばいですよ」
先輩は私の呼びかけに「んあ〜?へにゃ?」と寝ぼけたままごろんと寝返りを打ったのですかさず、先輩を支える。
「先輩!危ないですよ!起きてください」
少し揺さぶると「へっ!わっ、え?おはよう?」と目が覚めたようなので私も笑顔で「おはようございます」と返した。
「それで、今回の件はどう申し開きがあるのでしょうか(笑顔の圧)」
「いや、最初は出来心で、椅子に寝転んで仮眠をとるシーンがあったのを思い出して……。それでちょっと横になるだけだからと思ってね、少し横になっただよ、うん。それで昨日の寝る時間が遅かったから熟睡しちゃったって訳なんだよ。……ねぇ、ちょっと笑顔が怖いから、そろそろ許してくれないかなぁって」
「先に約束することがあるんじゃないですか。小柳先輩?(圧上昇)」
「うん。そ、そうだね。部室で椅子に寝転んで仮眠をとることはもうしないよ。だからその笑顔の圧を解いて欲しいなぁ」
「他には、ないんですか?」
「さて、何のことでしょうか(キョトン)」
「胸に手を当てて考えて見てください」
そういうと、先輩は少し固まると、手を開いたり閉じたりして、そしておずおずと私に近づいてきた。
「それじゃあ、失礼するよ」
「ちょっと先輩、誤解していますよ誤解。慣用的なhy」
私が言い終えるより早く、先輩がぺたりと私の胸に手を当てると同時に、ガチャリという音とともに扉が開いた。
「こんにちはなのです。ここって、漫画けん、きゅ、…!?失礼しましたぁ」
「ちょっと待って!誤解、誤解だからぁ」
そう叫びながら、私は先輩を引き剥がし、扉から入ってきた女子生徒を急いで追いかけた。
◇◇◇◇
例の女子生徒を慌てて追いかけるも、足が早く引き止めるのが大変だった。
前後の文脈はぼかしつつ、あのシーンがとにかく誤解によるものだと納得してもらい、一切変なことをしようとしていたわけでないことを説明した。
そして、彼女の要件を聞くと、小柳先輩に用事があったらしい。
「小柳先輩のクラスを伺ったのですが、先輩は漫画研究部にいらっしゃると聞いて、この部室を尋ねたのです」
「えーっと、どこの子かな?」
先輩は少し彼女の要件を掴みかねて混乱しているようだった。
「失礼したのです。環境整備委員に所属している1年の戸澤です。小柳先輩は委員長であっているのですよね」
「あっ、環境整備委員の子か!そそっか、じゃあもしかしてだけど例の件の開始の報告を先生にするところかな?」
「あっ、そうなのです。流石に彼一人に全て押し付けるわけにもいかないのです」
「まあ、うちの委員会少し外れくじみたいに見られているところがあるから誰も余計なこと引き受けてくれないからね。それじゃあ、私も一緒に行くよ。それじゃあ、私は少し一時間ぐらい外すから、好きに活動してていいよ」
「わかったのです」
そう言って、先輩と戸澤という子は部室から出て行った。
一人になってしまったので、私はカバンの中から先輩から借りた洋書を取り出し、読み始めた。
◇◇◇◇
小一時間が経った頃、里奈がやってきて、ちょうど先輩も部室に戻ってきた。
そこで少し気になったことを先輩に聞いてみる。
「先輩っていつも私たちより先に部室にいるじゃないですか?あれってどうしてなんですか?」
「あ〜、それはね。選択科目の都合でね。二年生から文系理系に分かれるじゃない?そのうちでも理系なら理科の選択科目によって午後の一コマがあったりなかったりするんだよ。それだから月曜日と金曜日は六コマ目が毎週休みだから一年生より早く部室に着いているってわけだね。水曜日は、頑張って一番に着いているんだけどね」
「先輩は理系だったんですか?」
「そうだよ。一応文系にしようかと迷ったんだけど、特に科目の好き嫌いもなかったし、どちらがいいかなって考えた時、理系の物理とか化学を学んでおくとSFものっぽいことができるのかなって思ったから理系にしたんだよ」
私は里奈と先輩の話に相槌を打ちながら「地味にどの科目も満遍なくこなせている小柳先輩ってすごいよね」「そうよわね」と小声で言い合った。
「それじゃあ、今日来る人も全員揃ったことだし、漫研らしく絵を描こうかね。みんな文化祭用のイラストを完成したら教えて、データ書き出すから」
「私、もう完成しています」
「それじゃあ、どこにファイルどこに置いているか教えて」
「はい」
そうして、データを送ったり、里奈がゴールデンウィーク前最後であることもあって、頑張って描き切ったりして、部活動は行われた
◇◇◇◇
六時を過ぎ、外もそこそこ暗くなってきたとき、先輩が「今日はこれぐらいにしよっか」と言ったので、みんなで片付けをし、部室を閉じて、先輩が「私が部室の鍵と先生に活動報告に行ってくるから」と言ったので「それでは校舎の少し出たところで待っていますね」返した。
私は里奈と一緒にゆっくりと校舎を出て、先輩を待った。
ふと校舎と反対の方に目を向けると、こないだのベンチとそれを磨いている人がいた。
少し磨いている人物に少し見覚えがあったので目を凝らしてみると、佐藤くんであった。
「ねえ、里奈見て。佐藤くんがこないだの少し汚れていたベンチを磨いているよ」
「そうね。あそこはベンチ以外は綺麗だったものね。ベンチが綺麗になれば居心地が良くなるわね」
「二人ともお待たせ!鍵も返したし、活動の終了報告もしてきたよ。何見ているの?」
「ええっと、佐藤くんがベンチを磨いているのを」
「ああ〜、それね。今週の月曜日の最初の環境整備委員で彼が最初に提案したんだよ。それで一部の子が参加して学校のいろいろな設備を綺麗にして一時間ぐらいで解散にしたんだけど、彼がなんだっけ『この椅子を磨くまで終われない』とか言ってずっと続けてたから、好きにやらせてあげたんだよね」
「だから先輩は最初の一時間は漫研にいなかったんですね」
「そうだよ。まあ、彼の提案がなければ私も含めて誰も綺麗にしようだなんて思わなかっただろうけどね」
掃除する前は少し黒ずんでいたベンチも彼の妥協のない清掃により、新品同様の輝きを取り戻しつつあった。
夕暮れの光を浴びて輝いているベンチと佐藤くんの背中を、私は少しだけ誇らしい気持ちで見守りながら、家路についた。
クリーンアップ!




