36話 『研究棟の小さな会議』
36話 『研究棟の小さな会議』
翌朝。
研究棟には、珍しく全員が集まっていた。
ジュンの机の上には、
住人たちのメモが並んでいる。
透の“音の地図”。
真昼の“やさしい手話集”。
雫の“気分の天気図”。
宙の“風の観測記録”。
みかの“光の調整メモ”。
そして——
湊の“静かな場所メモ”。
ジュンが言う。
「……せっかくだから、
灯台荘の“安心する工夫”を、ちゃんと形にしたいんだ」
蝦蟇口先生が勢いよく立ち上がる。
「じゅんさ〜ん!!
それだよそれ〜!!
“弱さ研究ノート”にしようよ〜!!」
その瞬間。
ガタンッ!
先生、椅子に足を引っかけて転びそうになる。
綾乃先生。
「……先生。
まず自分の足元を研究してください」
わらわら。
研究棟に笑い声が広がる。
湊は、その空気を見ながら、
少し驚いたように呟いた。
「……“困りごと”を話してるのに、
空気が重くならないんですね」
透が静かに答える。
「ここでは、“困った”は共有するものだからです」
真昼は手話で、
〔ひとりじゃない〕
と伝える。
雫も頷く。
「……抱え込まなくていいんだよ」
そのとき。
宙が窓を開けた。
海風が研究棟に流れ込み、
机の紙をふわりと揺らす。
宙。
「風も会議に参加したいって〜!」
ジュンは笑いながら、
飛びそうになる紙を押さえた。
「……じゃあ、風の意見も採用しようか」
絵凛がランタンを机に置く。
「jun さん。
灯台荘って、“生きづらさを研究する家”なのかもしれないね」
キーボードの音が、
静かな研究棟に優しく響いていた。




