35話 『手紙の続きを読む夜』
35話 『手紙の続きを読む夜』
夕方の海は、昼よりも少し静かだった。
灯台の光がゆっくり回り始め、
研究棟の窓にも、淡い円を描いている。
湊は縁側に座り、
昼に届いた手紙をもう一度読み返していた。
貝殻のペンダントを指先でなぞりながら、
小さく息を吐く。
雫が隣に腰を下ろした。
「……まだ、少し怖い?」
湊は苦笑する。
「……うん。
でも、“怖い”って言ってもいい場所があるって、
こんなに違うんですね」
雫は、海を見ながら小さく頷いた。
「……灯台荘ってね。
“無理して元気にならなくていい”場所だから」
そのとき。
庭のほうから、
宙の声が響いた。
「風がね〜!
今日は“ゆっくり読め〜!”って言ってるよ〜!」
透が静かに笑う。
「宙くんの風は、時々ちゃんと意味がありますね」
真昼は手話で、
〔大丈夫〕
と胸の前でゆっくり手を開いた。
みかは光を少し落として、
湊の周りだけ眩しさを和らげる。
文子さんは湯気を揺らしながら、
「夜のお茶、入ったわよ〜」
と優しく声をかけた。
ジュンは研究棟から戻ってきて、
縁側の空気を見て、少し微笑む。
「……今日は、静かな夜だね」
絵凛がランタンを揺らした。
「jun さん。
静かな夜ってね、“心が追いつく夜”なんだよ」
湊は、もう一度手紙を見る。
そこには、短くこう書かれていた。
――また海を見に行こう。
――急がなくていいから。
その文字を見た瞬間、
湊の肩から、少しだけ力が抜けた。
灯台の光が、
その手紙をそっと照らしていた。




