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33話「泊まる理由」
33話「泊まる理由」
夕方。
小雨。
灯台荘の玄関に、一人の男性が立っていた。
疲れた顔。
年齢は五十代くらい。
大きな荷物はない。
「……一泊、できますか」
ジュンは静かに頷く。
「どうぞ」
男は少し驚いた顔をする。
「理由、聞かないんですね」
絵凛が笑う。
「話したくなったらでいいんです」
部屋へ案内される。
その背中は、どこか“逃げ切れていない人”の背中だった。
夜。
食堂。
男はぽつりと言った。
「仕事、なくしましてね」
誰も急いで返事をしない。
沈黙を怖がらない空気。
それが灯台荘にはあった。
透が湯呑みを置く。
「人は、壊れる前に休めるといいんですが……」
男は苦笑する。
「壊れてから来ました」
文子さんが小さく言う。
「……それでも、来られたなら大丈夫よ」
わらわら。
宙が男の前に飴を置いた。
「これ、つよくなるやつ!」
皆が吹き出す。
男も、少しだけ笑った。
灯台の光が窓を横切る。
誰かを救うほど大きくなくても。
“今夜を越える”くらいの灯りには、なれるのかもしれなかった。




