32/41
32話「揺れる日の食卓」
32話「揺れる日の食卓」
朝。
少し強い風。
灯台荘の窓が、ことりと鳴る。
文子さんが味噌汁をよそう。
湯気。
静かな匂い。
宙は椅子の上で揺れている。
「今日は、海が怒ってる?」
雫が窓を見る。
「怒ってるというより……機嫌が悪い感じかな」
透は外の空を確認する。
低い雲。
少し荒れた波。
ジュンは机に小さなメモを書く。
——不安は、突然やって来る
——だからこそ、日常を切らさない
絵凛が配膳しながら笑う。
「結局ね、“普通にご飯食べられる”って大事なんだよ」
真昼(手話)
「安心の形」
文子さんは、少し照れながら言う。
「昔はねぇ……不安になると、食べられなくなってたのよ」
静かになる。
だが、重くはならない。
灯台荘では、誰かの過去を無理に掘らない。
ただ、隣に置いておく。
宙が味噌汁を飲む。
「あったかい〜」
その声に、皆が少し笑った。
外の風はまだ強い。
けれど、食卓の灯りは揺れながら残っていた。




