17話「静かにうまくいった日」
17話「静かにうまくいった日」
地域支援センターの一室。
あの“小さな灯りの場所”は、
もう特別なものではなくなっていた。
そこにあるのが、自然になっている。
ランタン。
やわらかい光。
少し距離を取った椅子。
人も、増えすぎず、減りすぎず。
——ちょうどいい密度。
宙が言う。
「風がね、“今日は整ってる〜”って」
透が耳を澄ます。
「音の重なりが少ないですね。
会話も、無理に交わされていない」
真昼(手話)
「自然」
雫
「……いい感じ」
その日、ひとりの男性が来ていた。
年配の方。
少し背中が丸い。
最初は入口で迷っていたけれど、
ゆっくり中に入ってきて、椅子に座る。
しばらく、何も話さない。
ただ、座っている。
文子さんがそっとお茶を置く。
「どうぞ〜」
男性は小さく頷く。
数分後——
ぽつりと話し出す。
「……家にいるとね」
少し間。
「音が、うるさくてね」
透が静かに聞く。
「どんな音ですか?」
男性
「……テレビの音も、人の声も、全部重なるんだ」
湊がそっと言う。
「……わかります」
みんなが湊を見る。
湊は続ける。
「……僕も、そうでした」
男性は少し驚いた顔をする。
「……そうかい」
それだけの会話。
でも——
それで十分だった。
無理に広がらない。
深くもならない。
ただ、“通じた”だけ。
宙が小さく言う。
「風がね、“ちゃんと届いた〜”って」
絵凛がランタンを揺らす。
「……こういうのでいいんだよ」
ジュンは記録する。
——解決しなくてもいい
——通じるだけで、人は少し楽になる
その日、
大きな出来事は何もなかった。
でも——
確かに、うまくいった日だった。




