14話「うまくいかない日」
14話「うまくいかない日」
翌週。
同じ場所。
でも——
今日は少し違っていた。
人が増えていた。
ざわざわした空気。
重なる声。
動きの多さ。
宙が言う。
「風がね、“今日はごちゃごちゃしてる〜”って」
透が眉をわずかに動かす。
「音が混ざっています……少しきついですね」
真昼(手話)
「多い」
みかが光を調整するが、
追いつかない。
そのとき、
あの女性がまた来る。
でも——
入口で立ち止まる。
「……今日は……無理かも」
その一言。
空気が止まる。
職員が戸惑う。
「……どう対応すれば……」
ジュンも言葉を探す。
そのとき、
雫が言う。
「……いいんじゃない?」
みんなが見る。
「入らなくても」
静かな声だった。
「ここ、“来なきゃいけない場所”じゃないでしょ」
女性は少し驚く。
「……いいんですか?」
絵凛がやさしく言う。
「うん。灯台はね、“来る人を待つもの”だから」
透も続ける。
「無理に近づく必要はありません」
真昼(手話)
「また今度」
文子さん
「お茶、持ち帰る?」
女性は、少しだけ笑う。
「……今日は、外で飲みます」
宙が手を振る。
「風も“それでいい〜!”って言ってる!」
女性は外へ出る。
その背中は、
前よりも少し軽かった。
室内。
少しの沈黙。
職員がぽつりと言う。
「……うまくいきませんね」
ジュンが答える。
「うん。うまくいかない日もある」
でも、少しだけ笑う。
「でも、それでいいと思う」
絵凛がランタンを揺らす。
「“うまくいかないことを許せる場所”が、必要なんだよ」
透
「安定より、許容ですね」
雫
「……失敗しても、大丈夫な場所」
真昼(手話)
「続ける」
宙
「風も“続けろ〜!”って言ってる!」
わらわら。
その日、
“完璧ではない灯り”が、そこにあった。
夕方。
灯台荘に戻る。
いつもの空気。
いつもの光。
ジュンは研究棟で記録を書く。
・うまくいかない日の価値
・来ない選択も“前進”
・場所は、人と時間で育つ
キーボードの音が静かに響く。
絵凛が言う。
「jun さん、今日も大丈夫だったね」
ジュンは頷く。
「うん。“ちゃんと揺れた日”だった」
灯台の光が回る。
変わらず。
でも確かに、少しずつ届いている。




