12話「灯台の届く距離」
12話「灯台の届く距離」
数日後。
研究棟。
ジュンのもとに、もう一通の連絡が届く。
今度は——
「地域連携のご相談」
絵凛が言う。
「jun さん、来たね。“次の段階”」
透が静かに続ける。
「見学で終わらなかった、ということですね」
メールにはこう書かれていた。
——灯台荘のような環境を、地域の中にも作れないか
——連携という形で、一緒に考えさせていただけませんか
ジュンは少しだけ考える。
「……外に、広げる?」
雫が言う。
「……広げる、というより……」
少し間を置いて、
「……つながる、かな」
真昼(手話)
「同じ形じゃなくていい」
文子さん
「それぞれの場所で、やればいいのよ〜」
宙
「風も“いろんなとこで吹く〜!”って言ってる!」
わらわら。
絵凛がランタンを揺らす。
「灯台ってね、来る人だけ照らすんじゃないんだよ」
「遠くにも、“あっちに光があるよ”って伝えるもの」
ジュンは静かに頷く。
「……灯台荘そのものを増やすんじゃなくて」
「“考え方”を届ける、か」
透
「はい。それなら無理がありません」
その日、
小さな打ち合わせが行われた。
訪問してきた支援センターの人たちと、
灯台荘の住人たち。
テーマはシンプルだった。
「どうすれば、“無理しない場所”が増えるか」
湊も、少しだけ参加していた。
最初は黙っていたけれど、
ぽつりと口を開く。
「……音が怖い人、外にもたくさんいます」
みんなが静かに聞く。
「でも、“逃げる場所”がないと……」
言葉が止まる。
雫が続ける。
「……しんどいよね」
湊が頷く。
「……はい」
その一言が、
場の空気を現実につなぐ。
訪問者がメモを取る手を止めて言う。
「……それ、すごく大事な視点です」
透が補足する。
「環境で変わることは多いです」
真昼(手話)
「伝わる」
文子さん
「お茶、冷めちゃうわよ〜」
わらわら。
少しだけ笑いが起きる。
でも、
話は確実に“社会”に届いていた。
夕方。
打ち合わせが終わり、
灯台荘に静けさが戻る。
ジュンは研究棟で記録を書く。
・見学から連携へ
・“支援”ではなく“生活”という視点
・環境が人を助けるという実感
キーボードの音が響く。
絵凛がランタンを置く。
「jun さん、灯台荘……外につながったね」
ジュンは少し考えてから言う。
「うん。でも、広がったっていうより……」
窓の外を見る。
灯台の光が回っている。
「届いた、って感じかな」
絵凛が微笑む。
「それでいいんだよ」
夜。
灯台の光は、いつも通り回っている。
でもその光は、
もう灯台荘の中だけじゃない。
どこか遠くの誰かにも、
小さく届き始めていた。




