11話「ひらいた窓」
11話「ひらいた窓」
朝。
灯台荘の空気は、いつもより少しだけ動いていた。
宙が庭で言う。
「風がね、今日は“外とつながる日”って言ってるよ〜!」
ジュンが研究棟でMacを開くと、
一通のメールが届いていた。
件名:
「灯台荘の取り組みについて、見学のお願い」
ジュンは小さく声に出す。
「……見学?」
絵凛がランタンを揺らす。
「jun さん、“外から来る風”だね」
透が静かに言う。
「社会の側から、こちらを見に来る……ということですね」
真昼(手話)
「少し、緊張」
雫
「……でも、いいと思う」
文子さんが湯気を揺らす。
「お茶、多めに用意しないとねぇ」
メールにはこう書かれていた。
——地域支援センターの者です。
——生活に困難を抱える方の支援のあり方を学びたく、
——灯台荘の見学をお願いできないでしょうか。
ジュンはゆっくり息を吐く。
「……どうする?」
少しの沈黙。
そして、絵凛が言う。
「受けよう」
やわらかい声だった。
「灯台荘は“隠す場所”じゃないから」
透が頷く。
「はい。見てもらっていいと思います」
雫も小さく言う。
「……無理しない範囲でなら」
真昼(手話)
「そのまま見せる」
宙
「風も“そのままいけ〜!”って言ってる!」
わらわら。
ジュンはキーボードを打つ。
「……じゃあ、受けます」
送信。
その瞬間、
灯台の光が、昼の海にひとすじ伸びた。
——灯台荘の窓が、ひとつ外へひらいた。
見学当日。
玄関に立ったのは、三人の訪問者。
落ち着いた表情の女性と、若い職員、
そしてノートを持った男性。
絵凛が扉を開ける。
「こんにちは。灯台荘へようこそ」
訪問者は少し驚いたように周りを見る。
「……想像より、静かですね」
透が微笑む。
「はい。静かなほうが、暮らしやすい人もいるので」
真昼が手話で「ようこそ」と伝える。
みかが光を少し調整して、“やわらかい帯”を作る。
文子さん
「お茶、どうぞ〜」
宙
「風も歓迎してるよ〜!」
訪問者たちは、少しずつ肩の力を抜いていく。
ジュンが言う。
「ここは、特別なことはしていません」
「ただ、“その人に合う形”で暮らしているだけです」
訪問者の女性が静かに聞く。
「……それが、一番難しいことなんです」
灯台荘の中を歩きながら、
透の“音の世界”
真昼の“手話の会話”
雫の“無理しない一日”
湊の“音との向き合い方”
それぞれが、そのまま見えていく。
訪問者の男性がぽつりと言う。
「……支援、というより……生活ですね」
絵凛が答える。
「うん。灯台荘は“生活の場所”だから」
その言葉に、空気が少し変わる。
見学は、静かに終わった。
帰り際、女性が振り返る。
「……今日見たこと、持ち帰ります」
「支援の形、少し考え直せそうです」
ジュンは軽く頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとうございました」
扉が閉まる。
静けさが戻る。
でも——
どこか、空気が広がっていた。
宙が言う。
「風、外に持ってったよ〜!」
灯台の光が、遠くまで届いていた。




