10話「灯台荘の受け止め方」
10話「灯台荘の受け止め方」
夕方。
工事の音はいつの間にか止み、
灯台荘にはいつもの静けさが戻っていた。
廊下には、長い夕陽。
湊は縁側に座って、海を見ている。
雫が隣に座る。
「……どうだった?」
湊は少し考えてから言う。
「……怖かったです。最初は」
「でも……途中から、
“怖くないかもしれない”って思えた」
透が少し離れた場所から言う。
「それで十分ですよ」
真昼(手話)
「前進」
宙が庭から叫ぶ。
「風がね、“すごい進歩だ〜!”って言ってる!」
文子さんが湯気を運んでくる。
「はい、お茶。こういう日はね、体がびっくりしてるから」
湊は湯気を見つめながら言う。
「……前は、こういうとき、
逃げるしかなかったんです」
「でも今日は……」
少しだけ笑う。
「逃げなくてもよかった」
ジュンが静かに言う。
「それ、すごく大きいよ」
絵凛がランタンを灯す。
「灯台荘はね、“できることを増やす場所”じゃないんだ」
みんなが少しだけ意外そうに見る。
「“できなくても大丈夫”を増やす場所」
その言葉に、空気がふっとやわらぐ。
雫が小さく頷く。
「……それ、いいね」
透も続ける。
「はい。できないままでも、
暮らせる方法を見つける場所ですね」
真昼(手話)
「そのまま」
宙
「風も“そのままでいい〜!”って言ってるよ〜!」
わらわら。
湊は、ゆっくり深呼吸した。
「……ここ、変ですね」
ジュンが笑う。
「うん。変だよ」
絵凛も笑う。
「でもね、いい変さなんだ」
灯台の光が回る。
その光が、湊の横顔を照らす。
湊
「……来てよかった」
夜。
研究棟。
ジュンは今日の記録を書いている。
・湊の音の体験
・“意味のある音”という再解釈
・逃げなかった一日
キーボードの音が静かに響く。
絵凛がランタンを置く。
「jun さん、今日の灯台荘も大丈夫だったね」
ジュンは小さく頷く。
「うん。ちゃんと“受け止めた日”だった」
灯台の光が、ゆっくり回る。
その光は、変わらず、誰かを照らしている。




