9話「音の正体」
9話「音の正体」
朝の光が少し高くなったころ、
灯台荘にはいつもの穏やかな空気が流れていた。
みかの光が“午前の帯”を作り、
文子さんの湯気がふわりと廊下を満たす。
宙は庭で風を追いかけている。
「風がね、今日はちょっと騒がしいよ〜!」
そのとき——
遠くから、低く重たい音が響いた。
ゴォォォ……ン……
透が顔を上げる。
「……工事の音ですね。少し大きい。」
その音は、ゆっくりと灯台荘に近づいてくる。
湊の肩が、わずかに強張った。
「……っ」
雫が気づく。
「……大丈夫?」
湊は小さく頷こうとするけれど、
呼吸が少し浅くなる。
ゴォォォン……
真昼がすぐに手話で伝える。
「外、音、大きい」
みかが光を少し落として、
“安心の帯”に変える。
文子さんが静かに言う。
「お茶、いれておくわねぇ」
でも——
音は止まらない。
むしろ、一定のリズムで続く。
ゴン……ゴン……ゴン……
湊は、耳をふさぐ。
「……これ……ダメなやつです……」
その瞬間、
宙がふっと立ち止まる。
「……あれ?風が言ってる」
みんなが宙を見る。
「この音、“怒ってる音じゃない”って」
透が静かに続ける。
「……規則的です。ランダムじゃない。
つまり“作業音”です」
ジュンがゆっくり言う。
「湊さん、この音……“意味のある音”なんだ」
湊は、少し戸惑いながら聞く。
「……意味?」
透が優しく説明する。
「はい。
これは“何かを作っている音”です」
雫も続ける。
「……壊す音じゃない。
作ってる音」
真昼(手話)
「安全」
みかの光が、少しだけ明るくなる。
宙が笑う。
「風も“働いてる音だよ〜”って言ってる!」
湊は、耳をふさいだ手を、少しだけゆるめた。
ゴン……ゴン……
同じ音なのに、
さっきより少しだけ、怖さが薄れている。
「……これ……同じ音なのに……」
ジュン
「うん。
意味が変わると、感じ方も変わる」
湊は、ゆっくり息を吐いた。
「……少し、大丈夫かも」
絵凛が静かに微笑む。
「湊さん、灯台荘はね、
“音の意味も、一緒にほどく場所”なんだよ」
外の工事音は続いている。
でも灯台荘の中では、
その音はもう“攻撃”ではなかった。
——ただの、暮らしの音になっていた。
久しぶりに再起動です。小さな愛が灯る灯台荘も宜しくお願いいたします。ありがとうございました。




