農夫の帰還
収穫期が来た。「それ」は第76培養地に近づく。前回ここに立ち寄ってからこの惑星は恒星を40万周回ほどしている。種を蒔いてから所定の期間が経過し、刈り取りの時期となっている。
「それ」はまず作物の状態を確認する。結果は良好だ。四本脚で温血動物の頂点に君臨する肉食生物に埋め込まれた戦闘因子は設計通りに熟成されている。宿主ゲノムとの結合度は平均して80%を越え、中には播種時の設計値を大きく上回る領域に達している個体も複数確認された。
特に大型種の因子は出力・安定性ともに優秀な品質。小型種はそれらには劣るが個体数が大きく増えており収量に期待できた。
ただ、一つ懸念されるデータもあった。
作物の一部で、この星の数的最大種である二足歩行の温血動物と神経系を接続している例が確認されている。この二足歩行種は体毛が薄く肉体は脆弱だが知性が高い。星のいたるところで優位種となっており目的の宿主種とは半ば共生関係のようになっていた。
このような神経接続は設計書には記載されていない。宿主が自発的に他種との共生を受け入れ因子を「開放」したのか、それとも二足歩行種の側が何らかの手段で因子に介入したのかは、現時点では不明。
「それ」はこの現象を分析した。そして「回収に支障はない」と結論を出す。
作物の品質は基準を満たしている。宿主と二足歩行種の結合は、因子そのものの品質を劣化させていない。むしろ外部からの操作が因子の出力パターンを多様化させており、兵器としての運用に柔軟性が加わっている。これは想定外だが利点と言える。
次に「それ」は培養地の環境を検査する。この惑星の生態系は複雑に発展しており、作物以外の生物種が膨大に存在する。回収作業を効率的に行うためには不要な生態系を除去する必要がある。
先遣波による電磁パルスで二足歩行種の稚拙な技術文明は90%以上が機能停止した。次の段階でドローンを展開して残存する生態系を整理し、最終段階で因子を宿主ごと回収する。
二足歩行種との結合体は回収の障害になりうる。しかし結合している個体数は少なく組織的な抵抗能力も限定的と推定される。計画の修正は不要と判断。
「それ」は意識の大半をこの惑星から引き上げる。第76培養地の収穫は数千の業務のうちの一つにすぎない。別の培養地──第82培養地で予想外の因子変異が報告されている──の方が優先度が高い。
「それ」は意識の断片を切り離し惑星に残して恒星系を去った。これが代行者として回収作業を遂行する。単純作業に高度な知性は必要ない。探査、整地、回収。代行者と展開した作業員であるドローンで十分だ。
この惑星の二足歩行種、霊長類・人類。
人間たちは四足歩行の宿主種を猫科、代行者をフォージ、ドローンをキャストと呼称している事を「それ」は知らない。
収穫の過程を「侵略」や「戦争」と呼んでいることも知らない。
農夫は雑草の意見を聞こうとはしないものだ。除草するのみ。




