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猫と少女と原子炉と宙と  作者: ぽんた7
第一部 枯れた剣
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第六節 同類

 その後何日か歩き続け、一行は丹波市に到着した。


 ご丁寧な事に、集落への道を示す看板が至る所にあった。キャストは文字を読んでいないようだから大丈夫なのだろう。他所から来る人は迎え入れる意向のようだ。外の情報は大事だからね。ましてやこんな山あいなら尚更。


 集落はV字型の谷の出口にあった。周りは良く整備された畑。キャストが来た時は谷に逃れれば挟み撃ちの心配も無く戦える。明石みたいに分散されて各個撃破、なんて事を避けるには良い立地だ。ただ多数で来られると逃げ場を失う可能性もあり痛し痒しだろう。


 我々偵察隊は歓迎された。手土産の干し蛸も喜ばれた。むしろ歓迎されたのは平べったくのされたタコのほうかもしれないが。


 村長と呼ばれてる中年の男性と共に夕食をご馳走になる。


「遠いところから良く来られた。今日はゆっくり休むと良い」


 こちらの隊長である年長の中野が挨拶する。


「暖かい歓迎ありがとうございます。今回は移住の可能性の打診に参りました」


「ほうほう。人手はいくらでも欲しいのでありがたいのですが、訳を聞いても?」


 村長としても理由は確認しておく必要がある。犯罪者集団みたいなのが来た日には面倒だ。


「実は...」


 中野は明石の村がキャストの群れに襲撃されたこと、契約者が減ってしまって今後の防衛に不安があること、などを伝える。


「なるほど。それは大変でしたね。うちとしては皆の意見も聞いてみなければいけませんが、契約者が増えるのは大歓迎です、反対はされないでしょう。畑の作業も人が足りない状況なので、そちらもありがたい」


「ありがとうございます」


 村長はユキの方を向くと、


「そうしたら、ユキさん、でしたっけ?こちらの契約者に紹介しましょう」


 と言って立ち上がった。ユキはその後をついて行く。


---


「この3人がうちの契約者です。もう1組いますが今は哨戒で出ていますので後ほど紹介しますね。宗男君、こちら明石から来たユキさん」


「初めましてです」ユキは腰を曲げて挨拶する。タマは腕の中で寝ている。


「初めまして、私がリーダーをやらせてもらってる加賀宗男って言います。そこで寝てるのがペアのハチ。宜しくね、ユキさん」


 物腰の柔らかい人だ。少しユキの緊張が解ける。宗男は隣を指さして、


「こっちが正とトラ、その隣が亮太とミケ。どちらも攻撃担当だ。あ、私は撹乱担当」


 アタッカーが二人か。いいなあ。


「あと今いないけど祥子とクロのペア。探査系だ。でも腕っぷしもなかなか」


「なかなかなんてもんじゃねえよ、あれは」


 正がぼやく。色々ありそうだな。


 村長がまあまあ、と3人を抑える。


「こちらの会議の結論が出るまでは、ユキさんにはこのメンバーと一緒に哨戒任務についてもらえないでしょうか。お互い実力も見たいでしょうし明石の皆さんが丹波に合流するなら尚更ですね」


 ユキは首をぶんぶん縦に振った。契約者の戦いは巌の力技しか見た事がない。他の契約者の行動を見られるなら願ってもなかった。


「ユキとタマです、宜しくお願いします!」


 もちろん挨拶したのはユキだけで、タマは爆睡していたが。


 その晩は元民宿らしいゲストハウスを貸してくれた。久しぶりに屋根の下だ。タマは干物を戻した魚を食べると、布団に潜り込んでさっさと寝てしまった。


---


 次の日。谷の出口に契約者4組とユキが集まった。


「ユキさん、こちらが昨日いなかったもう一組、祥子とクロ」


「宜しくお願いします」


 黒髪ロング、細身の長身だが筋肉のありそうなお姉さんだ。なんだか首太くない?


「祥子よ。宜しくね」


 ちょっと低い声。何か凄みを感じる。


「その猫、タマだっけ?ずいぶん年寄りに見えるけどいくつなの?」


 そりゃあ気になるよね。


「18才って聞いてます」


 正が目を瞠る。


「そりゃまたお婆ちゃんやな。って、メスよね?」


「はい。三毛のメスです」


 祥子がユキに


「ふーん、出力は大丈夫なのかしらね。能力のタイプは?」


 答えにくい質問が来た。


「すみません、良く分からないんです。私はまだ契約者になったばっかりでちゃんと戦ったのは2回きりで...」


「うーん、そうなんだ」


 宗男も難しい顔になる。


「同期も自由にはできなくて。キャストが近くにいると勝手に同期されちゃう感じで。あ、でもタマの前の契約者は私の祖父で、その時はアタッカーだったって言ってました」


 祥子は宗男に耳打ちする。


「この子、使い物にならないんじゃない?偵察もできない、出力も低そう」


 聞こえてるよ。でもその通りかも。


「そうだね、でもまだ契約したてだって言うんならまだ分からないよ。ユキさん、しばらく私たちに付いて来て、仕事を見ていてもらう。って事でいいかな?」


「はい、お世話になります」


 肩身が狭い。元凶の猫様は腕の中であくびしてる。いい気なもんだよ。


---


 更に次の日。会議の結果が出て、ユキ以外が明石に戻る事になった。


 丹波に移住する有志を募るためだ。全員が来るとは期待していないし、逆に丹波と明石で物々交換で交流できれば御の字だ。キャストの脅威がなくなる訳では無いが、人数が減れば避難もしやすくなるだろう、と楽観的に考える人も多そうだ。


 そんな訳ない、と実際にキャストと戦ったユキは思う。思うが、現実問題明石の全員を受け入れられるほど丹波集落は広くない。現実的な線だろう。


 ユキは毎日契約者見習いとして哨戒任務についていく。同期していないので、たんなる猫と散歩する少女にしか見えないが。


 丹波の春は遅い。ようやく暖かくなってきた山間で農作業をしている人々。山の麓ではまだ桜が咲いている。


「いいところですね」


 風景を見やって正に言う。


「うん、そうだろう。この辺は寒暖の差が激しくて水も使い放題だから、作物の出来は良いんだ」


「へー。そんなもんなんですか。明石は暖かいだけで魚を採るのが仕事だったので良くわかりません」


「他所から見ればそうかもな。丹波って言えば黒豆、って言う人が多いけど、米も小豆も芋も沢山採れるんだ。あとは栗とかブドウとかブルーベリーとか。食い物には困らない。鴨も多いし、野生のイノシシもブラックアウト以降増えてるから肉もそこそこ食える。イノシシ、食った事あるか?豚より旨いんだぜ」


 それはいいなあ。明石ではひたすら魚だったから羨ましい。お互いないものねだりなんだろうけど。


 そんな話をしながら歩いていると、また突然タマが同期してきた。


「え、タマ?」


「どうした」


「タマが同期してきました。ちょっと待って...」


 脳内に地図が展開する。赤く光る点がいくつかある。ユキは借りている紙の地図を広げた。宗男と亮太と祥子も覗き込んでくる。


 ユキは地図を指差す。


「えーっと、ここにサーチャー1体とアタッカー3体が北上しています。こっちにはサーチャー1体とディフェンダー1体アタッカー1体が北から南東、つまりこちらに向かっています」


 宗男が絶句する。祥子は半信半疑で


「え、本当に?そこまで3kmはあるわよ?」


「はい、間違いありません。最初の集団も2番目も、この地図の「7」って書いてある道路を進んでいて、たぶん廃屋が途切れる畑のこのあたりからこちらに向かってくるだろう、とタマは予測しています」


 4人は言葉を失った。なんだこの猫。出力は低そうなのに。18年も生き残るとここまでになるのか。


「よし、脅威度の高い方から叩こう。全員で南の集団に攻撃をかける」


 宗男が宣言し、一同は県道7号線に向けて駆け出す。


 戦闘はすぐに集結した。攻撃は巌一人だった明石と違い、こちらはアタッカー二人と探査係のふりをした隠れアタッカー一人。宗男がキャスト全体を撹乱したところを残り3人で襲いかかる。若い猫の攻撃力はすさまじかった。もう一方の集団も危なげなく葬り去る。タマの同期が解除される。


「いやー、こんなに楽な戦闘初めてだわ」


 亮太が感嘆する。祥子も、


「私もいつもの探知より殴るほうが性に合ってるわ」


「こえー」


「でもキャストの種別と進行方向まで分かるなんて、凄まじい性能ね、タマちゃん」


 そうなんだ?今まで比較対象がいなかったから知らなかった。


「そうなんですか。クロちゃんのはどんな感じなんです?」


「おおまかな方向と規模、距離がなんとなく分かる、って感じで細かい数とか種別とか全然よ。距離も300mくらいまでだし」


 それは厳しいな。探知した時には向こうにもこちらの位置がバレていそうだ。


「これで畑に被害出さずに場所を選んで戦えるようになりそうやな。ありがとう、ユキちゃん、タマちゃん」


 宗男が礼を言ってくる。役に立てた。良かった。


---


 更に更に次の日。夕食の席で宗男がユキに話しかけた。


「そう言えば、北のほうにまだ電気が生き残ってる土地があるって聞いた事あるかい?」


「電気ですか?」


 箸を片手に宗男は頷く。ユキは煮豆を一個ずつ摘んで口に運んでいる。


「そう。以前ここを通りすがった男がいてな。そいつは瀬戸内に親戚がいるとかですぐに去っていったんだが、そいつが言うには、敦賀にある原子力発電所がまだ動いてるんだと」


「げんしりょくはつでんしょ、って何ですか?」


「ああそうか、そこからだよな、俺はブラックアウト以前の生まれだからつい。原子力発電所っていうのは、なんと言うか電気を作る大きな工場だ」


 良く理解できないが、電気って明るくしたり暖かくしたりする見えない力なんだよね。全て無くなったって聞いてたけど。


「なんとか合流したいんだが、なにせ此処から北は山越えだ。距離自体は150kmくらいだから歩けない事もないんだが、なにせ高低差が大きい。冬は豪雪だし。まあ丹波の人間の中でも歩き切れるのはごく一部だろうなあ」


「そこって、キャストに襲われないんですか?電気があるって多分目立ちますよね?」


 当然の疑問。


「まあ多分な。でも敦賀はこことは比べ物にならないくらい大きな都市だから、契約者も多いんじゃないか?ようしらんけど」


 電気。文明。ユキが知らないもの。それの言葉はユキの胸に染み込んだ。母や祖父が言っていた電気というものを見てみたい。明るい夜ってどんなんだろう。満月よりも明るいんだろうか。見たい。とても見たい。




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