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猫と少女と原子炉と宙と  作者: ぽんた7
第一部 枯れた剣
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第五節 北へ

 村の年長者の間での議論に結論が出た。


 沿岸にとどまる事は危険となった。一度キャストが来てしまった以上、次もあるだろう。


 しかし村全体での移動は難しい。反対する者もいるし移動中や先方での食料の確保が困難。そもそも行った先の集落に十分な契約者の戦力があるかが未確定だ。

 加古川や神戸方面への移動は考慮されなかった。契約者がいない事が以前から分かっているからだ。戦力がないまま人口密度だけが上がれば全滅の危険も増す。


 そこで、まずは小人数で先行偵察隊を組織する事になった。巌と仁志は村の守りに欠かせない。偵察隊唯一の戦力はユキとタマとなった。

 ユキの他には、比較的若い男女が5名、先方との交渉役として年長者が1名。計7人+1匹のメンバーでパーティが組まれた。


 出発の朝。多くの見送りがユキたちを取り囲む。


 ユキの母親がタマの頭を撫でる。


「タマ、ユキを宜しくね」


「にゃ」


 ユキは半眼になる。


「そこはまず娘の心配ちゃうの」


「いや、あんたはタマありきだし。まずはタマの心配やん」


「親がつめたい」


 巌と仁志も声を掛けてくる。


「ユキ、付いて行けなくてすまん」


「ゴン太。まあしゃあないわ」


「...もうそれでいいや。死ぬなよ。村は任しとけ」


 実際はもう一度大規模な襲撃があったらまず助からないのは二人とも分かってはいるが、そこに触れないのは暗黙の了解だ。


「うん、じゃあまたね」


 手を振るユキ。振り返す母親たち。


 出発した一行は、明石公園を西に迂回し旧国道175号線を北上する。目指すは丹波市、行程およそ70km。加古川沿いなので給水には苦労しないはずだ。トラブルがなければ、一週間程度で到着できるだろう。


 それぞれは背負子に袋をくくりつけて背負っている。明石には大きなアウトドアショップもあったが、登山用のリュックなど化繊の製品は30年の間でとうに加水分解して使い物にならなくなっている。そこでアルミフレームだけ拝借して縄を結び、背負子として使う。


 倉庫の奥に残っていた皮の登山靴はそれほど劣化しておらず履く事ができた。ありがたい。よく盗まれてなかったもんだ。神戸まで行けば靴の街もあるから、わざわざ登山靴なんて普段使いには面倒な靴を盗る必要も無かったんだろうか。


 タマは歩くユキの背負子の横に特別に用意した猫ハンモックの中で丸くなっている。


「猫うらやましいなあ」


 隣を歩く青年が声を掛けてくる。いや本当に。老猫だから仕方ないとは言え、良い身分である。


 175号線をひたすら北に歩き続ける。ひび割れた道路にはあちこちから木や草が生い茂っている。その間に朽ちた車の残骸が転がっている。それでも道路として判別はできた。歩く分には問題ない。


 進んでいくと、ところどころに小さな畑や人が住んでいそうな住居が点在している。明石村でもそういうところとの交流はあるが、限られたものだ。どの程度の人間が生き残っているかは分からない。


 そのまま進んで三木市に到着する。初日で元気があったせいか少しペースが早く日が高いうちに到着できた。スーパーマーケットで野営。次の日は手前の川で給水してから出発した。


 その日の目的地は加東市。だがその道中、小野市付近に差し掛かると急にタマがユキとの同期を開始する。


「え、え、何?」


 突然の同期に狼狽するユキ。視界に重なって地図が表示される。南北に走る線は国道だろう。その先に赤い点。これって。

 光りだしたユキとタマを不審に思ってこちらを見ているメンバーに、ユキは話す。


「この先、1kmくらい先にキャストがいます。恐らくサーチャー。迂回しましょう」


「1km先を探知できるのか。昔の話は聞いてたけど、タマって本当に凄いんやな」


 仁志の白猫・ムギでさえ探知範囲は数百メートルだ。確かにロングレンジだ。タマの攻撃の回数が限られている以上、いち早く探知して会敵を避けられるのはありがたい。


 幸い市内なので迂回路は沢山ある。大周りして敵を迂回する。

 しかし、敵の500mほど横を通り過ぎたところで別のキャストの反応があった。近い。停止していたのでタマの振動感知に引っかからなかったみたいだ。幸い こちらも一体しかいない。


「50m先、別のキャスト!」


 起動してこちらに向かって来た。これは逃げられない。タマから交戦の意思を感じる。


「皆さんは隠れていてください。やっつけます」


 背負子を下ろしタマを袋から出す。一人と一匹で走り出す。キャストをメンバーから引き離さなければ。


 現れたキャストもサーチャーだった。これなら一撃で屠れるはずだった。


 しかし、タマとの同期が安定しない。第2段階に同期があがらない。サーチャーが迫り腕を振り回してくる。さっさと倒さないと増援を呼ばれかねない。というかも呼ばれているかもしれない。


 手を伸ばし衝撃波を放とうとするが、うまく行かない。頭痛がする。何故。


「ふしゃー」


 タマが怒っている。因子の操作を手放すと、手から勝手に衝撃波が放出された。ああ、そうだ、タマに任せなければ、だっけ。怖くて焦ってしまった。


 直撃はしたが、しかし同期段階が低いので威力も弱い。これはダメか...と諦めかけたユキだが、何故かサーチャーは動きを止めた。死んだわけでは無さそうでブルブル震えている。なんだろう。


 とにかくチャンスだ。隠れているメンバーに声を上げる。


「今です、脇を抜けて逃げましょう!」


 動かないサーチャーの横を皆で走り抜ける。見えなくなる所まで走って一息つく。追っては来ていないようだ。いったい何だったんだろうあれ。


 背負子を背負い直して、タマが猫ハンモックに収まる。同期は解除されていて、どうやらこの先にはしばらくキャストはいないらしい。

 今回は回避できたが、こんな調子で今後大丈夫だろうか。不安なユキだった。


 それにしても、何故あんな弱い攻撃でサーチャーは動きを止めたのか。明石の誰からもそんな話は聞かなかった。タマには何か隠れた力があるとか?



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