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猫と少女と原子炉と宙と  作者: ぽんた7
第一部 枯れた剣
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第四節 波の音

 その後駅と明石城に向かった二人だが、駅で見たのは明夫とゴマだった肉塊。

 駅の北口から出て明石城に行く道には、ほうぼうに村民の屍。明石公園の中は血の湖だった。絶句するユキ。巌の顔も真っ青だ。


 巌とユキは、残っていた5体のキャストを始末した。ディフェンダーが村民を処分するために散開していたのが幸いした。ごく弱い振動波しか出せなくなっていたタマだが、その振動波で一体ずつディフェンダーの注意を引き、そこを背後からチーズが大出力の振動波で仕留める。最後のサーチャーは少しだけ元気が復活したタマが仕留めた。出力が低く収束も緩い攻撃だったが、ディフェンダーほど硬くないサーチャーは貫通できた。


 翌日。


 住民の半分近くが明石城で死亡。明石公園自体は広いので、散らばって逃げた村民で助かった者も多かったが、それでも老人を中心に死者は多かった。


 幸い村自体はあまり破壊されていない。戻った人々は食料の確保や分配、負傷者の手当などで忙しく立ち回る。

 死者については、余りに数が多く当面埋葬は不可能と判断された。無念だが仕方がない、誰もが悲しみにうつむく。


 ユキの母親も無事だった。ユキが市役所の方に戻った時にはそこにいなかったので焦って探したが、戦闘が終わったと判断した母親は自分で村に戻ってきていた。


「もー。おらんかったからビックリしたやんか」


「ごめんごめん、でもタマと一緒やったから大丈夫やと思て」


「タマってそんなに強かったん?」


「そりゃあもう。じいちゃんと一緒の時はもう無敵やったんよ」


 そうなんだ。確かにあの絞った攻撃は強かったとは思う。でも数発しか撃てないんじゃあ次はどうなるだろう。


 そのタマは、家に帰るなりお気に入りの箱に入って寝てしまった。そうしていると本当にただの老猫で、戦闘の凛々しさが嘘のようだ。


---


 何日か経った。


 もともと建物に被害が少なかった事もあり、普段の日常が戻って来ていた。人手の減少も若い人間の死者が比較的少なかった事もあり表面的にはそれほど問題にはなっていない。もちろん遺族にとっては何の慰めにもならないが。


 そして最大の問題は村の契約者が減ってしまったこと。戦えるのは巌と仁志の二人だけになってしまった。ユキは契約者になったと思われたが、しかしその後何度試してもタマとまともに同期する事は出来なかった。


 タマに触れていると、断片的にタマの感覚が流れ込んでは来る。同期自体はしているのだろう。しかしその先の制御はできず、進もうとすると酷い頭痛と吐き気に襲われた。タマもタマで気まぐれに近づいて来たりそっけなく無視したり。


 巌や仁志、それに元契約者の家族に話を聞いた。彼らも同期の原理が分かっているわけではない。経験的な同期の深度の話、深度に比例して人も猫も消耗する話、障壁の強度の話。ただ共通していたのは、「猫に逆らうな」「猫に合わせろ」という点。主体はあくまで猫。人間は因子を放出するバレルでしかない、という認識だ。うーん、良く分からないユキだった。でもそれじゃあ連携して戦闘とか無理じゃない?


 キャストについても話を聞いた。連中はあんなメタリックな見た目をしているが、ロボットではなく中身は生体だ。それも明らかに哺乳類の内臓や筋肉が使われているらしい。つまり捕獲された地球の生き物が兵器化されているという事だ。なんとも残酷な話。


 どちらにしても、今回のような襲撃があったら今度は村を守れない。ユキとタマは当てにならない。巌と仁志だけでは戦力が足りない。年長者の間で村を捨てる検討が始まった。北のほうにまだ契約者の残る集落があると聞く。そこと合流できれば戦力が揃うかもしれない。問題は食料だが。議論は続く。


---


 夜、一人で浜辺に座っているユキ。瀬戸内の穏やかな波が防波堤にぶつかり小さなしぶきを上げる。上空は快晴、西の空に三日月が沈んだ直後。東の空に向かうほど闇が深まり、頭の上は満天の星。電気文明の頃には考えられなかった透明な星空。まだ夜風も強くない。日中の作業に疲れたユキはゆったりと空を眺める。


 その脇にタマが来て、海を向いて座った。ユキは特に何もしようとしない。ぼーっと海と空を眺めている。隣のタマの体温が空気越しに伝わってくる。暖かい。


 そんなタマの温かさを感じていると、不意に同期が深まる。タマの知覚を通じて、夜の海と風と星の気配が流れ込んでくる。海の温度、魚の所在、一等星の配置。情報が手に取るように目の前に展開する。


「ああ、こういう事なんだ」


 同期を強制しない時にだけ、タマはユキを受け入れる。「猫に合わせろ」──死んだ契約者の家族が言っていた言葉の意味を、ユキは体で理解し始めた。人間が連携を操作するんじゃない。一つの意思の塊として行動するんだ。私でもタマでもなく一体の生き物として。


 そのまま一人と一匹は春の海を眺め続けていた。




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