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猫と少女と原子炉と宙と  作者: ぽんた7
終章 旅立ち
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第五節 最後の名前

 そんな感じで二人で丹波を強引に出発した。二見さん泣いていた。かわいそ。


 私たち二人は前回と同じ道のりで敦賀を目指す。ここを通るのも3回目だ。勝手知ったる舞鶴道なり。でもまあ慣れてても遠いことは遠い。早く自動車に復活して欲しいものだ。


 途中の道中略。バカ話してるうちに敦賀に到着した。発電所の敷地に入る。門番とかいないんだけど、キャストが居なくなった今は人間が一番怖いだろうに。いいのかな?


 とりあえずいつもの会議室に向かう。すると廊下の向こうから見知った顔が走ってきた。満永さんだ。ってことは私たちが入ってきたのは監視されてたってことか。そりゃあそうだね。祥子さんが手を振る。


「来たよー。みっちゃん、ゴリ、おひさ」


「わあ、藤堂さん、朝霧さん、お久しぶり! よく来たね。みんな待ってたよ!」


 足下にはゴリも一緒だ。そろそろいい年のはずだけど、模様は健在。変わらないなあ。


「ご無沙汰してます」


満永さん、少し太ったかな?


「いやー二人ともあんまり変わらないようで安心したよ。あれ、タマちゃんは?」


「5年前に、多分老衰で」


「そっか。寿命を全うしたんだね。凄い猫だったなあ。お悔やみ申し上げるよ」


「ありがとうございます」


「今頃それぞれの部署に連絡が行ってる頃だから、そのうち皆集まってくるかな。ちょっと会議室で待ってて。お茶サーバーも入ったから、自由に飲んでてね」


 おちゃさーばー? 祥子さんも私も頭が?になる。まあきっと電気な急須とかだろう。


---


 お茶サーバーとやらと格闘しながら会議室で待っていると、次第に人が集まってきた。懐かしい面々が寄ってきて肩をたたかれたり頭をなでられたり。いや私もう20才なんですよ、まだ子供扱いですか。でもそれも心地よい感じがするのは、皆が命のやりとりを共にした間柄だからなんだろう。戦友ってやつか。


 ミカンはこんなに沢山の猫を一度に見るのは初めてなんだろう。興奮して部屋の中を走り回り、ある猫には近づきすぎてパンチを食らい、別の猫には威嚇され、また別の猫には腹を見せたりしていた。ほんと落ち着かないやつだ。


 一通り挨拶が終わった後、満永さんが前に立つ。


「えー旧交はおいおい温めてもらうとして、二人への説明会ついでに各部署の報告をお願いしましょうか。まずは源三さんから発電所まわりの概況をお願いします」


 いつもの椅子に座っていた源三さんが立ち上がる。


「嬢ちゃんたち、よく戻ってきてくれたな。お互い少しだけ年取っちまったが、また宜しくな」


 うなずく祥子さんと私。


「で状況な。まずは5号炉は去年から停止中でオーバーホールの最中だ。30年以上酷使したからな。5年前の戦闘で壊れなかったのは奇跡だった。おかげで敦賀の市街地の反対側にある火力発電所と美浜の原子力発電所が復旧して、今この辺はもちろん、福井の南部、滋賀県と京都の北部、あと兵庫の一部に送電が始まってる。送電線自体はブラックアウトでも無事だったから、あとは変電所の接続を復旧すればいいって寸法だ。と簡単に言ってもまだ京都や兵庫の市街地に供給するほどの発電量はないから、その先は太平洋側の復興がどうなるか次第だな」


 たった5年でそこまで復活してるんだ。とはいえ今の話だと明石に電気が来るのは当分先だなあ。ま仕方ない。


「次はボクね」


源三さんが座ると、今度はナディムさんが立ち上がった。


「二人ともようこそ。また会えてうれしいよ。ボクは今、フォージの技術を解析して応用する研究の統括をしている。大陸からも沢山契約者が研究者として集まってくれている。アメリカとか欧州とかはさすがにまだ来られないみたいだけどね。ま、統括なんて格好良い名前だけど実際は雑用係だね」


 ...ナディムさん、日本語メッチャ流暢になってる。さすが。


「でフォージの研究だけど、主に3つに分かれてる。一つは船の動力と船体だ。これは主にレラさんと源三さんチームが担当してる。船体についてはキャストの外殻を重ねて十分な強度と遮蔽ができている。猫の障壁の原理も分かってきて、それも使えるし。そこは大丈夫。次にエンジンだけど、フォージの推進機関の構造はほぼ判明してる。小規模な試作品の製造にも成功した。これが凄くてね。起動するのにはもの凄くエネルギーを食うんだが、いったん動き始めたらほぼ無限に動作する。空間からエネルギーをくみ出してるんだ」


 あれ?


「一つ質問してもいいですか?」


「うん、なんだいユキちゃん」


 なんかナディムさんニコニコしてる。何聞きたいか先回りされてるな?


「無限にエネルギー出てくるなら、それ発電所代わりにして世界中にばらまけば色々解決するんじゃないですか?」


「さすが。すぐに気づいたね。その通りなんだけど、やっかいな問題があるんだ」


 やっかい?


「この推進機関は空間を歪曲させて光速を超える。この歪みが波になって何光年も先まで届いちゃうんだ。つまり...」


「あ」


「そう。ちょっとだけなら代行者の出力と大差ないから感知されないだろうけど、地球全体で使い始めたらフォージに『ここで技術盗まれてますよー』って宣伝するようなものなんだ。だから船みたいな小さな出力しか要らないもの以外には使えない。フォージ問題が片付くまでは昔ながらの発電所を使うしかないんだ」


 なるほど。それはまずいね。


「逆に指向性を絞って使えば通信機にもなるかもしれないけど、それは今のところ実現していない。実験に失敗してバレるの怖いしね」


 確かに。


「で話を戻すと、3つの分野のうちもう1つが畑化された星の捜索。宇宙船ができたからって、闇雲に探し回る訳にはいかないからね。どこに行けばよいのか調べてた。これはボクが担当してる。代行者の通信記録は何故か結構キャストと共有されてて、そこから情報を抽出しようとしてる。地球が「第76培養地」って呼ばれてたのは以前聞いたと思うけど、どうやら第82培養地ってのがあって、そこがやはりイレギュラーを生んでるようなんだ。もしかしたら協力関係が築けるかもしれない。なので最初の目的地はここ。位置もわかってる。意外と近くて、SF小説でも定番のエリダヌス座オミクロン2。たった16光年先だ。長寿と繁栄の星、って言ってもユキちゃんの世代じゃわからないか」


「たった16光年? 16光年って光が16年かかる距離って事ですよね?」


「そう、たった16光年。フォージの船なら半月もかからない距離だ」


 マジか。いや、そんな技術を持つ奴ら相手に戦うのか。体が震える。勝てる気がしないな。


「で最後の一つが、フォージそのものの研究。連中の体はどうなってるのか、社会構造は、兵器として猫を培養してるなら敵対勢力がいるはずだがそれは何か。話し合いはできるのか、戦うとして弱点は、みたいなことだね。これはイーシャさんのチームが担当してる」


「ああ、代行者相手にした時もイーシャさんヤツの構造の糸を引っこ抜きながら障壁張ってましたもんね。一番内容を理解してるのはわかります」


 会議室の皆が驚いたような顔で私を見てる。イーシャさんも目を見開いてこっち見てる。え? そんなに変な事言った?


「あの時にそんなとこまで見えてたんだ、じゃあユキちゃんがイーシャさんに加われば一層研究が加速するんじゃ」


「いやいやー、それは買いかぶりです。理解してたのはあくまでタマであって、私はそれを横から見てただけで。もうタマはこの世にいませんし」


 イーシャさんが立ち上がる。


「ユキ。あなた決戦の時タマの因子が神経系に刻印されなかった?」


 え。


「その通りです。よく分かりましたね」


「やっぱりそう。私もなのよ。シェンはあの最後の障壁維持で因子を失ったけど、その力の一部が私に転移してるの。あそこで代行者の圧力を私より浴びたタマとユキならもしかして、と思ってたわ」


 そういう事なんだ。あの眠れない夜にはちゃんと理由があったんだ。


 イーシャさんが両手で私の手を握って目を見つめる。


「ユキ、私を手伝って。そして一緒に宇宙に来て」


---


 その後細かい事務連絡とかあって会議室は解散した。祥子さんは船の生命維持系の手伝いをする事になった。食事の管理に彼女は適任だろう。


「ユキ嬢ちゃん」


 源三さんが私を手招きする。ちょっと白髪が増えたかな。ずっと苦労してきた人だもんな。


「ちょっと制御室に来てくれんか」


「? はい。何でしょう、というか私もうハタチなんですよ。まだ『嬢ちゃん』なんですかあ?」


「はん。20なんて子供だよ。オレの三分の一だ」


「それは比べればそうかもですけど」


 歩き出す源三さんの後を追って中央制御室に入る。


 ミカンが部屋の中へ走り出す。壁から出ている配線にパンチを食らわせ所員に怒られる。キーボードの上に飛び乗り作業の邪魔をする。やりたい放題だ。


「こら! ミカン!」


 叱りながらミカンを追いかける。ちっとも大人しくしててくれないよこの猫は。


 ようやく捕まえてがっしり肩にかつぐ。なんだか今頃ゴロゴロ言ってるけど遅いよもう。


「源三さんすみません...」


「あっはっは。あんたの新しい猫えらい元気だな、良いことだよ。でも危ないケーブルもあるからな、気をつけろよ」


 源三さんは制御卓前の壁の前に私たちを連れてきた。そこに書かれていたのは氏名のリスト。


「これって」


「そう、あの時炉を守るために殉職した14人の職員の名前だ。ここにタマの名前を加えさせてくれないか」


 私はこくりとうなずく。ああ、タマは忘れられてなかったんだなあ。

 なんとなく、神経系の奥で何かが身じろぎしたような気がした。


 源三さんは壁に記された14の名前の最後に「タマ」と書き加えた。ゆっくりと丁寧に。


「ありがとうございます。タマも喜ぶと思います」




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