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猫と少女と原子炉と宙と  作者: ぽんた7
終章 旅立ち
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第四節 村長

 手紙を出して半月ほどでナディムさんから返事が来た。細かい状況の説明の最後に、


「いつでも来てくれ、歓迎するよ」


とあった。


 出発の朝。夏の朝の日差しが庭にくっきりした影を作る。私は陽が当たり始めたタマのお墓の前に小魚を一匹置く。座って手をあわせる。


「...タマ。5年もかかっちゃったけど私もう一度敦賀に行くよ」


 それから墓の回りに生えてる雑草を丁寧に抜く。根っこから抜いても抜いても生えてくるんだこれが。お母さん、私がいない間少しはお墓の手入れしてくれるかな。


「絶対帰ってくるからね。見守っててね」


 明石を出て北へ向かう。今回は一人で歩く。タマと違ってミカンは自分で歩いている。全く疲れを見せないあたりさすがに若い。筋肉もずいぶん付き始めている。

 私みたいな女の子、って年じゃないな、なんだろう、若い女性?の一人旅なんて危ないと思われがちだが、ここら辺で光る猫連れを襲おうなんて馬鹿はいない。ナイフや拳銃はもちろん、対戦車ライフルだって効かないのだ。食らった事ないけど。そんな獲物、儲からないにもほどがある。

 もし相手も契約者だったら? という懸念はあるけど、悪人が契約者である確率は低かった。噂だと悪い人は何故か契約できないらしい。明石にも不良っぽい人たちはそこそこいるけど、契約できたやつは一人もない。猫が人の善性なんて見分けてるのかかなり疑問なんだけど、どういう仕組なんだろう。まあ助かるからいいか。


---


 てくてく歩いてまずは丹波に到着。琵琶湖経由は避けた。知ってる道の方が安全だよね。それにミカンは自分で歩いてくれるから前回よりかなり楽ちんだった。


 見えてきた集落の手前には、おお、柵に囲まれた草地があって、牛がいる! なんか網で囲まれた鶏もいる! これ祥子さんの仕業だろうなあ。ほんと欲望に一直線な人だ。


 集落に入っていくと、当の本人がいた。


「え、もしかしてユキちゃん!? 久しぶりねえ、大きくなったねえ。今日はどうしたの?」


 そうか私大きくなったか。自分では良くわからない。あんまり身長は伸びてないから。


「いや、ナディムさんに誘われて敦賀まで行くとこです。せっかくなんで丹波に寄って行こうかと。


「あー。こっちにも連絡来たよ。でも私この村の村長だからさ、そうそう離れるわけにはいかないんだよねえ」


 なんと。


「え、祥子さんが村長さん? 前の村長さんは?というか他に年配の人沢山いましたよね?」


「それがねー。フォージを撃退した英雄って持ち上げられちゃって、さらに電気引いたり牛飼い出したりしたもんやからもう完全に村長代理な雰囲気になっちゃって。んで去年、前の村長が『私は普通の農夫に戻ります』とか言い出して村長やめちゃったんだよねえ」


 村長って勝手に辞められるんだ。丹波って割と無法地帯だな。あれ? そう言えば私、明石の村長って誰だか知らないな、まあいいけど。


「うーん、でもそっかー、ユキちゃん行くのかー。どうするかなー」


「いや、どうするのかなーって。村長いなくなったらダメなんじゃないですか?」


「でもなりたくてなった訳じゃないし、そもそも選挙とかしてないから正式な村長でも無いんだよね。もうプリンの道筋も付いたから、あとは誰かに押し付けるのも手だなあ」


 それでいいんだ?


「ところでユキちゃん、その足元の床で爪とぎしてるのは?」


 あ、そんな所で何してるミカン!


「ああー、ごめんなさい。こら!ミカン!そんなとこで爪とぎしちゃダメ!」


 ミカンはきょとんとした顔でこちらを見上げる。全然悪事の意識ないよねこいつ。


「ミカンって言うんだ、見た目そのものだね。いやボロい床だから爪とぎくらい今更いいんだけど。新しい契約猫? タマちゃんは?」


「はい、なんか契約はなし崩し的に。タマは5年前に」


「そっか。...安らかだった?」


「はい。苦しまなかったです」


「それは良かった。まあ苦しんでるタマちゃんなんて想像できないけどね。強かったからなあ、あいつ」


 しばし言葉が途切れる。


「あれ?そう言えばクロちゃんは?」


 祥子さんの契約猫のクロちゃんが見えない。


「ああ、あいつ割と自由行動してるよ。因子の力使う機会なんてそう無いからね。今はどこかでネズミ狩りでもしてるんじゃないかな」


 そっか、この辺は畑ばっかりで明石みたいに廃墟群とか無いもんね。解体屋の需要は少ないのか。


「まあ、今日はゆっくり泊まってってよ。色々話したい事も溜まってるし」


「はい、私もです」


 その晩は祥子さんの家に泊めてもらった。話す事は5年分いくらでもあった。試作品のプリンもご馳走になった。今の課題は甘みとカラメルのための砂糖安定供給だそうだ。さすがだ、ブレない。


 途中でクロちゃんが帰ってきた。部屋にいる見知らぬ猫を見つけると後ずさり警戒して毛を逆立てるが、ミカンは腹を見せてゴロン、と転がる。クロちゃんは恐る恐るミカンに近づいてくんくん匂いを嗅ぎ、その間ミカンは嗅がれっぱなし。納得したのかクロちゃんは祥子さんの後ろに座った。


「ミカンちゃん、大物ね」


「最初出会ったときからこんな感じでした」


「クロももう少しおおらかになるとなあ。人見知りでたまに困るわ」


「程度問題だと思います。ミカンまで行くとちょっと」


 夜は更けていくが、話は途切れない。明日出発できるかな。


---


 翌朝。集会場に村の主要なメンバーが集められた。


「よし。やっぱ私も敦賀行くわ」


「「「ええー!」」」


 驚き反発する村民。そりゃそうだ。


「地球を救ったら帰ってくるから。電気は二見、牛は高砂、ニワトリは長田に任せた! よろ!」


「「「そんなー!」」」


 ...そんな揃った声出すとか、みんな意外に仲いいな?




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