第一節 冬
フォージとの戦いが終わり、タマが死んでから5年が過ぎた冬。
私は村の復興のために働く毎日。と言っても相変わらずタコを干したり畑の手伝いをしてるのはおんなじだ。そうそう、最近は建物や道路を整備してる人のための炊き出しなんかも手伝っている。でっかい鍋で魚と野菜と塩を煮る。魚を捌くのも慣れてきた。我ながら結構おいしく作れている。鉄道の復活はまだまだ先みたいだけど、駅周辺はだいぶ綺麗になりつつある。
村の人たちは、こんな私を気遣ってくれている。最初のうちは契約者を亡くした英雄、という扱いづらい奴だったが今ではちょっと過去のある村娘、程度まで落ち着いた。まあ要するに普通に戻ったって事だろう。もう私も20才だしね。
ゴン太と仁志さんは解体業者になっている。衝撃波を使って廃墟となった建物とかを破壊している。キャストに比べれば人間の建物なんて柔らかいから楽勝だそうだ。そう言えば結局ゴン太は丹波には戻らなかった。丹波の方が魚以外は旨いし暮らしやすいとは思うけど、改めて明石を見て思う所があったのだろう。故郷だしね。
そうそう、因子が発動したマダラ模様のムギの子供は、仁志さんの娘と契約した。とは言え仁志さんの娘はまだ10才だ。今は力を正しく活かすために日々勉強中である。私みたいにマンガばっかり読んでちゃダメですよ。それはともかく村に契約者が増えるのは良い事だ。
あとは今年の夏ごろから郵便が復活している。まあ郵便というか飛脚なんだけど。荒木さんとこの対馬みたいに光ファイバーが生きてる所はやっぱり少なくて、特に京阪神は全滅している。でも不足している情報を互いに融通しないと復興のスピードも上がらない。そこで飛脚というわけだ。
瀬戸内と神戸大阪の間はだいたい自転車。山の方向へは徒歩だ。勿論全行程を一人で歩くわけではない。途中で何人か中継しながらリレーする。例えば明石から丹波までなら、明石-三木を往復する人、三木-西脇を往復する人、西脇-丹波を往復する人、という具合。敦賀なら丹波-福知山-舞鶴-小浜-敦賀、な感じだ。琵琶湖経由もあるみたいだけど何故か料金が若干高い。支払うための通貨はもうないから農作物とかの支払いだけど。
さすがに名古屋や東京まではまだ通じていない。でも通信回線の復旧は優先されてるから通じるのは時間の問題なんだろう。
そんな中、敦賀から手紙が2通届いた。家の縁側で広げて読む。
一通は源三さんから。
その後の原子炉は順調に稼働していて、その電力で工場が動いて敦賀市街地の反対側にある火力発電所が復旧したらしい。それによって余力が増した電力で琵琶湖の精密機械の工場の稼働が活発になり、通信の復旧も進む事になったと。さらに冷却してるだけだった半島の反対側にある美浜発電所の6号機も再起動の準備ができて稼働秒読みらしい。送電線の復旧も進んでいて、あと数年もあれば関西エリアへの送電が一部復活するだろう、とのこと。丹波へはもう送電できるようになっているそう。祥子さんが踊りまくる姿がリアルに想像できる。源三さんは最後に「お前達が守った敦賀は立派に復活しつつある。一度見に来い」と追記していた。
もう一通はナディムさん。結局骨折が治っても国には帰らなかったそうだ。イーシャさんが目覚めて、フォージの言語や技術の解析をしていてそれを手伝ってる。フォージに対する造詣が一番深いのは間違いなくイーシャさんだが、あの戦いで代行者に接した契約者は多かれ少なかれフォージ言語が頭に残っている。それで手分けして作業してるようだ。レラさんも一度小樽に帰ったものの、すぐに戻ってきて嬉々としてキャストの制御機構を分解して解析してるらしい。なんだか目に浮かぶようだ。
クマールさん、荒木さん、詩織さんはそれぞれ生まれ故郷に戻っていた。まあそう言ってたもんね。西表島のカニが全滅しないよう祈ってます。
そして驚きなのが5年間の研究の成果。フォージの航行技術が明らかになり、船が建造されていると。
なにせ5年前の戦いの相手はフォージ本体ではなくただの「代行者」。あれだけ苦労してようやく倒した相手よりも本体はきっと強い。もし遠くない未来に本体が来たら。今度こそ地球は蹂躙されてしまうだろう。そして地球が畑である以上、戻ってくるのは確実だ。早いか遅いかだけの問題。
そこで宇宙を渡るための船だ。いつだったかレラさんが伝えたフォージの情報の一節、
「地球以外の培養地で因子の想定外の変異が報告されている記録がある」
がここで生きてくる。つまり他の星にもフォージに抗う戦力があるかもしれないのだ。そんな勢力とコンタクトできて、もし共同で戦えるならどんなに心強いかナディムさんは力説していた。もし契約者と同じ存在がいるなら、フォージの言語を理解してるはずだから、因子経由でコミュニケーションが取れるかもしれない。そういう仲間を増やせれば、あるいは生き残る道も見えるかもしれなかった。手紙は、
「遠征が計画されている。ユキも来ないか?」
と締めくくられていた。
手紙の内容は良く分かった。
でも、今更私に何が出来るわけもない。手紙を畳んで封筒に戻す。タマのお墓の前に座って空を見上げた。もう夕方になっている。お墓の上に一番星が瞬いていた。




