第五節 陽だまり
初冬の朝。雲一つ無い晴れ渡った青空が広がっていた。
風がなくて、冬なのに少し暖かい。日光が縁側を温める。いつものようにタマを抱いて縁側に行き、膝の上に載せる。陽の光が二人を温める。でもタマの体は軽い。いつもより体温も上がらない。
タマは目を開けている。庭を向いているが何を見ているかは分からない。庭の草、お気に入りのビール箱、並んだ庭石。それとも何も見ていないのかもしれない。
タマの背中に手をあててゆっくり動かし続ける。いつもの力加減で、いつもの向きで。感じられるタマの呼吸は少し早めで、とても浅い。
時間が過ぎていく。太陽が動いて影が移動するのが見える。日向がゆっくりと縁側を横切っていく。
タマの喉がかすかに鳴った。弱くて短くて途切れがち、鳴ったのか呼吸の音なのか分からないほど。私の手のひらにその小さな振動が伝わる。同期ではない、因子ではない、ただの猫の、ただの喉鳴り。
そして喉が止まった。
呼吸が止まる。膝に載った体が急に軽くなったような気がした。手に感じていた振動が感じられなくなる。上下していた背中が動くのをやめる。暖かかった毛皮が少しずつ冷えて行く。聞こえるのは風が庭の草を揺らすささめきと、遠くからかすかに聞こえる波の音だけ。
私は動けない。タマの背に手を載せたまま縁側に座り続けた。
いつのまにか、隣にお母さんが座っていた。何も言わない。黙って二人で座り続けた。
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次の日、私はお母さんといっしょにタマを庭に埋めた。ビール箱をどけて、じいちゃんのお気に入りだった一番陽だまりが暖かい場所、タマが好きだった場所へ。
土をかける。埋めるのに道具は使わない。最後まで手で触れていたかった。
土を掛け終わって、庭に座り込む。目の前には真新しい土の盛り上がり。その向こうには夕焼けが見えていた。




