第四節 冬が来る前に
秋が終わろうとしていた。
タマの食べる量はどんどん減っていった。あれほど好物だった小魚をふやかしたものも、匂いを嗅ぐだけで口を付けない日が増えた。水は飲んでいるが、ねこまんまは残す日が多い。
お気に入りだったじいちゃんの場所へも登れなくなった。晴れた日は代わりに私がタマを抱いてビール箱に連れていく。そこがじいちゃんがいた場所なのはまだ憶えているのだろう。機嫌が良さそうに丸くなっていた。
庭のパトロールもしなくなった。塀の上にも登れなくなって久しい。日が暮れれば私がタマを抱いて部屋に戻って布団に寝かせる。もう私の布団は敷きっぱなしだ。お気に入りの箱に入る事はもう無かった。
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ある日、村でかつて契約者だった老婆に話を聞く機会があった。彼女はかつて契約していた猫が病気で死ぬのを看取った経験があった。
「猫に何か出来ましたか?」
彼女は首を横に振った。
「何も。ただそばにいたんよ。猫はそれでいいんだよ。何かしてほしいなんて猫は思わん。何かしてあげたいなんてのは人間の思い上がりやな」
「怖くなかったですか?」
「そりゃあ怖かったさ。自分の半身を失うんだ。でもな、猫はそんなこと感じてなかった。猫は未来を見ないんだ。今が全て。何故とは考えん。来るものは来るものとして受け入れる。死を恐れん。先の事を怖がるのは人間だけやね」




