第二節 襲撃
キャストの群れが出現したのは、日の出からすぐ。明るいのは有利ではあるが、キャストの数が多かった。見た所おおよそ30体。
幸いフォージ本体はいない。もっとも世界的にフォージは滅多に現れない。地球には一体しかいないんじゃないか、と言われている。
キャストは爆撃などの大規模な広範囲攻撃を持たない。戦闘用ではなく作業機械なのではという見方をする人も多いようだが、しかし体高1mから2mほどの硬い体と長くて力の強い4本の腕と頑丈な4本の足は十分に脅威だった。
3種類の類型が確認されているが、どれも少なくとも小銃程度では傷もつかない。ディフェンダーと呼ばれている大型タイプはRPGでも穴すら空かない。
それに比べて明石の文明は今やナタや槍のような原始的なものだけだ。
契約者以外は避難を始めた。当面の目的地は比較的強固な建築物である旧市役所跡や旧明石城跡の城壁内など。
ユキはタマを抱いて母といっしょに市役所に向かう。タマはユキの腕の中でずっと唸り続けている。
キャストの先陣が浜に近づく。待機していた契約者3組が散開。互いの同期第2段階まで起動する。
契約者と猫との同期は3段階ある。
まず平常時はただの人間と猫だ。お互いの存在を感じる事はできるがそれだけ。
同期の第1段階は猫との感覚の共有。猫の視覚、嗅覚や聴覚を人間と共有、更に因子を借りて周囲を把握する。また因子を通じて近傍の他の契約者と会話ができるようになる。因子とは猫に発現している光の元となる力。詳細は全く判明していないがフォージのパルスによって発現したらしいので一旦そう呼ばれている。
第2段階は、猫の因子エネルギーを直接制御する事ができるようになる。この時点で体表の光が契約者にも広がり、物理攻撃に対する防壁が展開される。
また契約者は因子のエネルギーに振動波や熱線などの形と方向を与えて外界に放出する事ができ、これが攻撃として使える。
第3段階は契約者と猫との神経系の完全な融合。防御や攻撃は更に強力になるし反応速度も劇的に向上する。短時間なら飛ぶ事もできるようになる。
ただし体への負荷も高く長時間は使えない。この段階まで至れない契約者ペアも多い。
そのうちの一人、仁志が白猫・ムギの力を探知波として浜辺に放出する。ムギの力は索敵。広域での敵戦力の分布を探知して情報を他の契約者に通知する。
キャストは、アタッカーが16体、ディフェンダーが10体、サーチャーが2体、計28体。村始まって以来の大規模な襲撃だ。
まずディフェンダーが揃って前進してくる。その大きな4本の腕で物理的な障害を排除するのが役目。
ここで最年長である明夫とハチワレ・ゴマのペアが自身の力である因子の振動波を広域照射する。これによりキャストは通信を阻害されて連携が失われる。
そこを囲まれる心配の無くなった巌とチーズが敵陣に切り込み、収束した振動波による物理打撃で各個撃破、というのが村の契約者たちの基本戦術だ。
仁志と明夫も因子を巌のように攻撃にも使えるが、得意分野ではないので決定力には欠ける。つまり実質は巌だけが村のアタッカーであり、こういう多数による侵攻には弱い。
最初は防御が弱いアタッカーを減らしていく。アタッカーが前面にある口?のような開口部から放出する衝撃波は脅威ではあるが直線的だ。ムギの探知波によるアシストがあればそれほど脅威ではない。連携の乱れた各個体に背後から近寄り振動波を叩き込む。うまく行けば一撃、多くても2~3回の攻撃で撃破していく。
しかし連携が取れていないとはいえディフェンダーもサーチャーも周りにいる。それらもアタッカーほどではなくても攻撃はできる。ムギの目があるからこそそれらを無視して突っ込んで行けているのだ。
明夫・ゴマペアも、撹乱を行いつつ攻撃を手伝う。しかし彼らは単体で撃破するほどの攻撃力がない。敵が巌に集まるのを防ぐための陽動として立ち回る。
「ムギ被弾!」
ムギの出す探知波が数体のアタッカーに逆探知されていた。仁志・ムギペアにアタッカーが殺到する。巌と明夫が援護に向かうが間に合わない。
逃げながら探知を続けようとする仁志だが、途中でムギの集中力が切れて防壁が弱まったところにアタッカーの衝撃波がムギの後ろ足に直撃した。
意識を失って倒れるムギ。仁志とムギの同期が切れて無防備になった一人と一匹。仁志は倒れたムギを抱えて走って後退する。なんとか逃げられたようだ。
これで契約者たちは目を失った。
巌と明夫は、それでもなんとか前線を維持しようともがく。アタッカーは殲滅したものの、ディフェンダーとサーチャーはほぼそのまま残っている。探知なしで掃討するのはかなり厳しい。
明夫が巌に作戦変更を伝える。
「巌!一旦引いて立て直すで。駅まで下がりや!」
「...了解」
ペアの猫を少しでも休ませるべく二人は北に後退した。幸いディフェンダーは鈍足だ。時間は稼げる。
明夫・ゴマペアが敵を撹乱しながら駅に向かう。
ところが。ゴマによる敵の撹乱が裏目に出た。連携の取れていないディフェンダーのうち6体とサーチャー1体が進路を東に変えて市役所方向に進み始める。北にも東にも避難している村民がいる。迎撃する人数が足りない。
「私は駅で防衛する。巌は市役所へ回ったってくれ」
敵が少ない側とは言え攻撃力に欠ける明夫・ゴマペアには負担が重い話だ。しかしそれしかない。
一箇所ずつ集中して撃破するのが間違いなく最良だが、しかしそれでは片方は村民にたどり着いてしまうだろう。そんな片方を見捨てる判断なんて明夫には出来なかった。例え巌と共倒れして全滅の危険があったとしても。
「終わり次第、駅に戻ってや。それまでなんとか持ちこたえてみせるわ」
「...ご武運を」
「おう」
二人は進路を分ける。
駅まで後退した明夫・ゴマ。周囲にはまだ逃げ遅れている村民がいる。年配の人には走れない者も多い。彼らをかばうように前に出る。ディフェンダーが4体、サーチャーが1体迫る。
明夫とゴマは第3段階に同期を上げる。更に範囲を絞った振動波を放出、強力な行動阻害がキャスト全てに襲いかかり、歩みを遅らせる。
しかし停止はしていない。じりじりとキャストが駅に向かって進んでいく。駅を突破されたら明石城はすぐ目の前だ。巌が駆けつけるまで時間を稼がないといけない。
明夫は最大の同期でかかる負荷に脂汗を流しながら耐え続ける。心拍数も血圧も危険なレベルに上がっている。
鈍ったキャストが、鈍ったまま、じりじりと近づいてくる。
明夫はそれに合わせて少しずつ後退する。ゴマも後退する。
だがキャストの回復とゴマの消耗は明夫の想定より早かった。一体が撹乱を振り切って明夫に到達する。ゴマが明夫を庇って前に出る。障壁が砕け、振り抜かれたディフェンダーのアームがゴマを駅コンコースの壁に叩きつけた。
「ゴマ!」
明夫はゴマの上に覆い被さりかばう。その上にディフェンダーが殺到した。
撹乱が切れて自由になった残るディフェンダーとサーチャーが駅を越えて城に向かう。途中で建物や車の影に隠れている逃げ遅れの村民を処分しながら。




