第七節 俺の炉
イーシャさんが代行者を食い止めている隙に、私はタマを抱えて制御室に走った。
「源三さん!」
「嬢ちゃん!何が起こってる!」
制御室に残っているのは源三さんの他には3人だけ。他の人は建屋各所の防衛に出ているのだ。危険極まりない任務。
「代行者が格納容器の前まで来ています。今、イーシャさんが食い止めている最中ですが長くは保ちません」
源三さんらは黙って聞いている。
「タマには、フォージのプログラミング言語を代行者に打ち込む能力があります。それで代行者を止められるかもしれません」
頷く源三さん。
「それがタマが原子炉と何かやってた事に繋がるんだな?」
「はい。タマが因子の振幅でフォージの言語で座標系の停止信号を作ります。ただこれの出力はごく小さいので、核反応の振動を増幅してフォージの言語搬送波の逆位相を作ります。それをタマの信号で変調して代行者に打ち込めば、代行者の座標系を崩せるとタマは踏んでいます」
もちろん私には私が何を言っているのか理解できてはいない。半分タマが話しているようなものだ。
源三さんには理解できたようだった。
「それで、どこまで出力を上げればいい?」
タマが少しだけ考え込む。
「70万キロワット相当」
源三が計器盤を見る。定格よりはかなり下だが、今の炉体には過酷な数値。損傷して閉鎖したBライン。応急修理したバルブ。残り二本の冷却ラインにかかる負荷。必死で暗算する。
「今想定される破断限界の107%って所だな。ぎりぎりまで冷却水を回して...3分。その辺りが限度だ」
「3分で終わらせます」と私/タマは答える。保証はない。タマの因子が3分保つかも、3分で代行者の座標系を崩せるかもわからない。しかしどっちにしてもイーシャさんだってそのくらいが限界だろう。
源三さんが立ち上がった。計器室の残る技術者たちに指示を出す。「各ライン、手動監視に切り替え。温度計と圧力計から目を離すな。レッドラインの手前で俺に叫べ。異常を感じたら──感じなくても、10秒ごとに声を出せ。お前たちの声が、俺の計器だ」技術者たちが各監視ポイントへ散る。
源三さんが改めてこちらを向く。「嬢ちゃんの猫に賭ける。なんとしても代行者を止めてくれ。俺の炉はそれまで絶対に止めない。任せろ」
私は頷く。タマを抱き上げる。タマの喉が、深く鳴り始めている。そのままイーシャさんの元に走り出す。




