第四節 穴を塞ぐ者たち
3体目と4体目のキャストが同時に二箇所から原子炉建屋に侵入した。詩織さんとイエネコ小隊が片方を捕捉して交戦開始。だがもう一方は1次冷却系の主配管に到着してしまった。それが何か理解しているのだろう、ディフェンダーはパイプを腕で叩きはじめた。
もちろん何重にも被覆と鋼鉄の外殻で保護されたパイプだ。そう簡単に破壊はできないが、しかし破られるのは時間の問題でもあった。破られれば冷却水が漏出する。
源三さんが回線に叫ぶ。
「1次系に振動!穴があきそうだ!誰でもいい、B-17バルブを閉めろ!冷却B系を切り離せ!」
すぐ近くにいた技術者の小林さんがバルブに走る。しかしバルブはキャストがいる先だ。キャストが振り回した腕が小林さんを捉えて吹き飛ばした。壁に叩きつけられた小林さんは動かなくなる。
そのそばにいた技術者の石川さんと河合さん。ここまで守ってきた炉を壊されたら今までの人生が全て無駄になってしまう。互いに目配せすると、二人はパイプ椅子を持って走り出した。
二人はキャストのそばでパイプ椅子を壁に叩きつけてキャスト注意を引く。どちらかにキャストは攻撃してくるだろうから、その隙にもう片方がバルブを締める。5秒もあればいい。攻撃して来ないならそのままバルブに行けばいい。
結局キャストは石川さんに向かい殴り飛ばす。その間に河合さんがバルブを閉鎖した。パイプの破壊に成功したキャストはそのまま河合さんを追いかけ腕を叩きつける。バルブが閉じてパイプが遮断されているために冷却水の大量喪失は防ぐ事ができたが二人とも助からなかった。到着したイエネコ小隊がディフェンダーを排除するが時既に遅し。
侵入したのが遠隔攻撃を持つアタッカーだったら石川さんも河合さんはバルブを閉める事もできなかっただろう。
源三さんが回線で私に伝え、それを念話で全部隊に中継する。
「一次系Bライン喪失。AラインとCラインで冷却を維持する。ライン一つでも維持は可能だが...」
その後は言われなくても分かる。予備がない状態は怖すぎる。もう後がないと思わなければ。
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その後も、侵入するキャストは増え続けた。幸いパイプの破断には至っていないが損傷は小さくない。パイプに取り付いているキャストをイエネコ部隊や祥子さんが排除して、その後を源三さんの指示で走り回っている技術者が応急パッチやハンドトーチで補修していく。必要に応じて補助ポンプを起動したり、計器が死んだところではパイプに耳をあてて損傷箇所を探り当てる。祥子さんは建屋内を縦横に走り回って技術者に向かうキャストを撃退している。
人がいない所に侵入してきたキャストは詩織さんがウォータージェットで刻んでいく。建物の中という近距離条件なら、タメが不要で360度周囲を瞬時に攻撃できる詩織マリンペアは最強だった。
しかし契約者がいない場所でキャストとかち合ってしまう技術者も少なからずいた。契約者ではない人間にはタマの索敵情報が届かない。少しずつ職員が倒れていく。その度に制御室の源三さんの前に貼られた職員配置図から名前に横線が引かれていく。涙が滲むが、こらえてマイクに指示を出し続ける。
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そんな混戦の中、詩織さんが消火用水槽の水を使い切った。これ以上は使用済み燃料棒プールを使うしかない。しかし使いすぎれば燃料棒が露出してしまう。
「うーん、仕方ないか。よし、使っていい水量を常に伝え続けるから、それを越えないようにしてくれよ?たのむよ本当に」
「もーまんたい」
「あとな、プールの水の放射線レベルは低めだが人体には有害だからな!触るなよ!使ったら極力回収してプールに戻せ。できないなら使うな。どうだ?」
「もーもーまんたい」
「ほんとに分かってんのかよ...」
まあ危険でも使うしか無いよね。源三さんの寿命がまた縮んでしまうのが私には心配だ。
...疑問なんだけど、なんで閉鎖されてるプールから水を抜いたり戻したりできるんだろう。不思議だ。でもまあ荒木さんとかレラさんとかが起こしてる現象に比べれば今更か。考えるのをやめよう。
新たな水源を確保した詩織さんとマリン。ひと気がない所に侵入してきたキャストを詩織さんが放射能入りのウォータージェットで刻んでいく。散らばった水滴は回収されて消えて行く。触るくらいじゃすぐには大した害にならないとは言え、人間にかけたくはない。それは詩織さんも理解してくれているようだった。




