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猫と少女と原子炉と宙と  作者: ぽんた7
第三部 決戦
17/33

第一節 光る海

 その朝の若狭湾は日本海としては例外的に穏やかだった。


 東の高い山々の向こうは既に明るくなっていて空は青くなり始めているが、まだ日光が届いていない湾の深い藍色との対比が美しい。小鳥たちが囀り始める。初夏の朝のすっきりした心地よさ。


 ...なんて感じられる心の余裕なんてある訳もなく。


 私は建屋屋上でタマを肩に乗せて北の水平線を見ている。浅く同期したタマからはフォージの接近が見えていた。タマの耳はずっと後ろに伏せられたままだ。小さな鼻がピクピク動く。タマと感覚を共有してる私には、フォージの匂いがここまで届いてるような気がした。


 契約者は全員決められた配置に付いている。

 前回の襲撃も含めて全員が多数相手の戦闘に慣れている。慣れてはいるが、さすがに今回のような4桁を超える敵襲は初めてだ。タマによって全員に共有されているフォージの気配に緊張を隠せない。泰然としてるのはクマールさんのトラ組とイーシャさんのユキヒョウ組くらいだろう。さすがと言うか。でっかい猫はやっぱり違う。


 あと泰然とではないが、飄々としているのが詩織さんのイリオモテヤマネココンビ。この人は未だに捉えどころが無いというか、性格が掴めない。生まれてこのかた緊張なんてした事無いんじゃないか、って思う。

 まあ私のような15才の小娘に把握されるような性格ってのもどうかって感じだが。でも発電所のほとんどの人は私に賛成してくれると思う。特に源三さん。


 満永さんたちイエネコ部隊は、半分が土壁に、もう半分弱が建屋周辺に散っている。さらに建屋周辺の各小隊は隊を半分に割ってなるべく多くの面積をカバーしようとしている。


 あっと言う間に時間は経過し、東の山々から太陽が顔を出し始めた。紺碧だった海が、沖合から素早く色を明るく変えていく。


 始まる。


 最初に海の異変に気づいたのはレラさんだった。ヌプリの気象探知が海面温度の不自然な上昇を検知。

 直後に海面が光りだした。

 水平線から半島の近くまで、海面の下を無数の発光体が移動していた。これまでのどの襲撃とも桁が違う、千を超えるキャストの大群。タマの索敵も意味が無かった。どこを見てもキャスト。


 同時に、海の遥か後方に空間の歪みが観測された。イーシャさん以外にも同期しているペアにはそれが見えた。フォージの代行者だ。空間そのものがぐんにゃり曲がっているような領域。その中心にいる存在の輪郭は、知覚しようとするだけで頭が割れそうになる。


 イーシャさんが各契約者に伝達する。


「代行者は最初は動かないはず。キャストの波で私たちを削ってから、自らタマとシェンの捕獲に来る。キャストの目的は私たちの殲滅ではなく、施設への侵入。一体でも冷却系に到達されたら私たちの負け、文明が終わる。タマとシェンを捕獲されても終わる」


 そう。代行者の勝利条件のほうが簡単だ。発電所には分が悪い。


「代行者は私とタマでなんとかする。キャストは任せた」


 なんとかする、と言われても私には想像もつかない。シェンはそれなりに強そうだけどラオフーには及ばないだろうし、タマの攻撃なんか大群には無いも同然。もしかしてタマが原子炉とお話してた事と関係あるんだろうか。もうイーシャさん説明少なすぎだよ。


 そして。ついにキャストの第一波が海岸に到達した。波打ち際が盛り上がり大小さまざまなキャストが上陸を開始する。白い胴体が連なる様はまるで腐った牛乳が泡立っているかのようだ。


 土壁のクマールさんとラオフーが立ち上がった。海を睨む。体が発光を始める。ナディムさんもその西で走り出せる体勢をとった。東では詩織さんが体の上に水球を生成する。ここからウニのトゲのようにジェットが伸びるのだ。


 陣地のレラさんが両手を空に掲げた。オオヤマネコのヌプリが天に咆哮する。北の空から、嵐が降りてくる。



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