第六節 連携
タマが原子炉で何か悪巧みしてるかもしれない、というのは今のところ検証不可能なのでとりあえず保留って事になった。
そんなこんなしてるうちに、海側では荒木さんの砦のようなものが完成した。
発電所は敦賀市街地から突き出した半島の先端にある。これの東・北・西を三重の壁で囲んでいる。それぞれの壁は高さ3メートル程度だがそれぞれの間には深さ5メートル・幅10メートルくらいの堀がある。サーチャーは飛べるので意味がないが、アタッカーとディフェンダーはこれで足止めできる。
それぞれの壁は50メートルくらいの間隔でギザギザになっており、陸側の凹部には丁度ディフェンダー一体分の幅の通路があけてある。通過するキャストを一体ずつ撃破しやすいようにするのと、キャストが積み重なって壁を超えるのを防ぐためだ。
色々戦術を検討した結果、役割分担は次のようになった。
まず荒木・チビペアは、昔「ふげん」という実験炉があったあたりの海側の小高い山に陣地を作り、ここからそれぞれの壁のメンテナンスを行う。チビは攻撃力自体は普通のネコなので、1小隊が援護につく。
詩織さんは移動砲台。発電所南の桟橋付近からふげんまでと、埋立地から壁の裏まで荒木さんが二本の水路を掘って、そこに流れ込む水を使って水流攻撃をする。水だけでも高威力だが、そこに泥とか砂とか混ぜ込んだ攻撃は埋立地のコンクリートの地面に楽々穴を穿つほどの凶悪なものになっている。ウォータージェットとかウォーターカッターとか言うらしい。なんだか格好いいぞ。衝撃波みたいにエネルギーそのものを飛ばす訳ではないので燃費も良いらしい。火薬の爆発を爆弾として直接伝えるよりも、その爆発で弾を飛ばしたほうが少ない火薬で済む、って事だね。
ナディムさんは遊撃。速度を活かして手薄になった箇所からキャストを引き剥がしたり、囮となって詩織さんの前にキャストをおびき出したり。危険な役割だがライムのスピードなら可能だろう。目の前で動かれたら見えないもん。
レラさんは撹乱。その気象因子で遠くのキャストを霧で包んだり、吹雪を呼んだりしていっぺんにキャストが殺到してこないよう行動阻害。
そして敦賀が誇る10あるイエネコ小隊は、3小隊を敦賀市側に配置して後方警戒。5小隊はチビの作った壁の隙間を抜けてくるキャストの破壊するために各所に分散。1小隊は荒木さんの援護。残り1小隊で発電所敷地内で待機。壁を抜けて来てしまったキャストがいた場合の迎撃要員だ。
で、私とタマは建屋の屋上で祥子さんと待機。全体の状況を逐一各員に知らせる役目。さてさて。
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詩織さんとレラさんが到着してから一週間。北から大規模なキャストの群れが攻めて来た。その数おおよそ300体。フォージはいない。丁度良い前哨戦だ。
まずレラさんが遠方のキャスト群を足止め。少しずつ漏れてきたキャストをナディムさんが叩いて行く。この時点ではまだ土壁には到達していない。
ここで詩織さんの欠点が露呈した。強力な水流攻撃だが、射程距離が想定より短い。水としては100メートルは届くのだけど、破壊力を保ってるのは30メートルくらいまでだった。実弾とかレーザーとかと異なり所詮は水。空気にはすぐに負けてしまう、という事のようだった。
それでもナディムさんが逃したキャストが近づいて来れば詩織さん無双だった。相手アタッカーの衝撃波が有効になる範囲の外から一方的に屠っていく。レラさんも吹雪を雹の塊にしてぶつけている。ディフェンダーとかには対してあまり効いていないが、サーチャーなどはイチコロだった。
そして。この布陣の欠点も見えてきた。ナディムさん・詩織さん・レラさんは強力だが、やはり東西に長い陣地の全てはカバーしきれていない。いきおい漏れたキャストの対処は満永さん以下イエネコ小隊の役割になる。しかし300体ともなると撃ち漏らしが出始めた。何体か防衛戦を突破して発電所敷地に入りこんでしまう。
敷地内に展開しているイエネコ小隊は、これを難なく撃破した。したが、もっとキャストが多かったらどうなっていたか分からない。
結果としてこの日の戦闘は発電所側の勝利ではあったが、問題点も沢山見えた戦いだった。
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翌日。
いつもの発電所の会議室。もともとの敦賀契約者の小隊長と隊員全員、応援の荒木さん以下ナディムさん、詩織さん、レラさん、祥子さん、そして私。
重苦しい雰囲気だった。前回のキャスト300体を撃退こそしたものの、敷地への侵入を許してしまった。仮にキャストが倍の600体だったら。フォージ本体が来ていたら。
あと最後の方はナディムさんのスタミナが尽きかけていたのも問題だった。やはり一人で遊撃というのは無理がある。前衛の強化は必須だった。
満永さんがホワイトボードに課題を書いていく。
「問題点を整理すると、1つ目は前衛の火力と持久力の不足。2つ目は突破された際の建屋防衛戦力の不足」
小隊長の一人が発言する。
「まず、市側の小隊は全て引き上げてもいいと思う。キャストが皆無という訳では無いが、今回の規模からすれば誤差だ」
まわりも「うんうん」と同意している。確かに3小隊は多すぎたかもしれない。満永さんが引き継ぐ。
「確かにその通りですね。では南側3小隊のうち1小隊を壁の防衛に追加、2小隊を敷地内に追加配備、状況に応じて建屋内も受持ち、という感じでしょうか。建屋に侵入されてしまった場合の人手も要りますし。考えたくは無いですが」
荒木さんが渋い顔で手を挙げた。
「それでも火力不足だろう。俺とチビも下に降りる。今回あまり壁は破壊されなかったからな、それなら補修で待機してるよりも前線に出て土壁で攻撃したほうがいいだろう。そうすれば援護の小隊も攻撃に回せる」
「うーん。それはちょっと賭けですねえ。最初のうちは壁の補修に専念したほうが良いと思います。でももし火力が不足してきたら前線に出てもらう、って所でどうですか」
満永さんは渋い顔だが反対もできない様子。この人数でも戦力不足。会議室が暗い。
「あのー」
レラさんが手を挙げた。
「さっき大陸のオオヤマネコから連絡があったよ。フォージ本体と思われる歪みが北朝鮮あたりから海上に出たんだって。キャストの大群も一緒。おおよそ1,000体くらいみたい」
せん!
「あと、援軍がこっちに二人ほど向かってて明日には到着するって言ってる。どんな猫かは分からないけど」
「ありがたい!ですけど二人ですか...」
「二匹とも強い猫だって」




