第四節 水の猫
大サーチャー(後にビッグサーチャーと呼称された。おんなじじゃん)は発電所の隣にある資料館に搬入された。その分析は続いている。どうやら手下に集めさせた情報をフォージに送る役割らしい、とのこと。
ん? という事は今までの襲撃は割と偶然で、まだ敦賀の詳細なデータはフォージ本体には伝わってないって事? あんな短時間じゃ市内の地図くらいだよね判るのは。
まあ詳しい事は頭の良い人達に任せるのが一番。
という事で、私たちはと言えば日々他の小隊と連携してキャストの襲撃を捌いていた。多くなってるとは言ってもまだ問題なく対処できる数だった。幸いデカサーチャーみたいなイレギュラーはその後まだ出てきていない。
日差しが強くなってきたある日、発電所の南を祥子さんと索敵(という名の散歩)してると、市街地のほうから女性が一人だけで歩いてきた。薄い青のワンピースに麦わら帽子。20才くらいかな? 後ろ手でゴロゴロと旅行用のピンク色のキャリーを引いている。背中にはリュック。その上に猫。
独特の模様の猫だ。ヒョウのような体のブチ、少し太い尻尾、大きめの耳、そして白く縁取られた目。大きさはイエネコと大差ないが、妙に存在感がある。
祥子さんが話しかける。
「あら、あなた契約者やね。発電所に合流って事でええのかしら?」
女性は黙って頷く。会話が続かない...
「えーっと。名前とか教えてもらえん? 一人なの?」
少し祥子さんの顔を見上げてから、小声で話し出す。
「相馬詩織。こっちはイリオモテヤマネコのマリン。西表島から来た」
「そう、よろしくね詩織。まずは食事とお風呂があるから一休みしていって。その後で発電所に案内するわ」
新しい契約者が来た時の手順は私たちの時と同じだ。つまり、風呂・食事・プリン。
宿舎から発電所に向かう詩織さんは、こころなしか顔つきがテカテカしていた。これはプリンに堕ちたな。同盟のお仲間ゲットかもしれない。
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会議室で例によって満永さんが迎えに出る。小隊長たちも半分ほど集合している。
「ようこそ敦賀原子力発電所へ。私はここの契約者の代表をさせてもらってる満永、と申します。防衛に参加して頂けるという事でよろしいですか?」
詩織さんは黙って頷く。相変わらず会話が続かない...
「えーっと、自己紹介お願いできますか? お一人で来られたんですか?」
なんか祥子さんの時と同じ会話してるな。
詩織さんは小声で話し出す。
「相馬詩織。こっちはイリオモテヤマネコのマリン。西表島から来た。船で」
「船ですか。西表からだと太平洋側を大阪まで? それはそれは遠い道のり大変でしたね。でも、いくら契約者でも一人きりなのは危なかったのでは?」
詩織さんはマリンの喉を掻く。
「マリンは水を操れる。太平洋は観光船をマリンの水流で走らせて、大阪からはゴムボートで川を遡って琵琶湖を通って直進してきた。早い。楽ちん」
「なんと。因子にそんな能力もあるんですか」
こくり。詩織さんは首を縦に少しだけ頷かせる。
「マリンは水に伝わる情報も読める。何か巨大なものが大陸から敦賀に向かっていた。発電所の事は聞いていたのでやってきた」
荒木さんやナディムさんの情報とも整合性が取れている。というか事態が進行してないかこれ。満永さんは渋い顔になる。
「うーん、そうですか。こちらで得てる内容を補強する情報、ありがとうございます。水の因子、という事は屋外専門という感じでしょうかね?」
「ううん。ここ、室内に沢山水を感じる。操って戦えるわ」
源三さんが慌てている。
「おいおい嬢ちゃん、それは冷却水と使用済み燃料棒のプールだよ。絶対使うなよ? 放射線漏れてみんな死ぬからな?使うなら外の淡水貯水槽のほうを使え」
ちょこん、と首をかしげる詩織さん。可愛い。
「あ、こりゃダメだ。満永、嬢ちゃん借りるぞ」
「ああー。はい、宜しくお願いいたします」
苦笑する満永さん。源三さんが詩織さんを引っ張って会議室を出ていく。いつものオリエンテーションだが少し苦労しそうな予感。がんばれ源三さん。




