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猫と少女と原子炉と宙と  作者: ぽんた7
第二部 共闘
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第二節 対馬の壁

 次の日から私と祥子さんの習熟訓練が始まった。

 タマの探知とキャストの行動予測は100人以上いる敦賀の契約者の中でもダントツの性能だったみたい。小隊の間でタマの取り合いになったが、結局遊撃隊としてそのまま満永さんの下につく事になった。


 祥子さんはと言えば、それはもう丹波でのうっぷんを晴らすように暴れ回った。最初は満永さんもどこか探査系が不足している小隊に彼女を配属するつもりだったらしいけど、


「藤堂さん。聞いてもいい?」


「いいわよ? なあに?」


「どこが探査系なの?」


「これでも丹波やったら一番サーチできたんよ。なので探査系」


「うん、なるほど? うちのアタッカーの中でも上位の攻撃力だけどね?」


 満永さん、遠い目をしている。


「これは遊撃として動くユキ君の護衛をしてもらうのが一番良さそうだね。他の小隊は割とアタッカー足りてるからね」


「なんか悪意を感じる気がするけど了解よ。ユキちゃん今後もよろ」


「はい、宜しくです」


 タマは攻撃できる手数が少ないから、祥子さんに援護してもらえるのはとても心強い。


---


 午後になって、発電所の前にある入江に設置された桟橋に、一隻の帆船が入ってきた。もう日本に動力船は動いていない。軽油もガソリンも燃料はすぐに腐ってしまってもう残っていないからだ。


 降りてきたのは浅黒い肌をした背の高い中年の男性。短い茶色の髪の毛にごつごつした指先。足元を茶色いブチの猫が一緒に歩いている。大きさは普通のイエネコくらい、頭と尻尾は縞模様だ。ちょっと短足かな?


 入港の知らせを聞いて満永さんが港に降りてきた。待機中の私とタマだったが、タマが珍しく起きて港の方を向いていたので頼んで同行させてもらっていた。


「対馬から来た、荒木だ。こいつは契約猫のチビ。発電所を守るために契約者を集めていると連絡があったが正しいか?」


 満永さんが満面の笑みで頷く。


「ようこそ敦賀原子力発電所へ。私はここの契約者を束ねさせていただいてる満永と申します」


「あまり詳しい話は聞いていないんだ。意識合わせさせてもらっていいか?...ところでこの子は?」


 満永さんの後ろにいる私とタマを見て尋ねる荒木さん。


「ああ、この子はユキ君とタマ君。なんだか猫が帆船に反応したみたいで付いて来たんだ」


「ずいぶん老猫だな。まあいい、話のできる所に案内してくれ」


 会議室に移動して荒木さんと満永さんが向き合う。私は少し離れたテーブルにタマを乗せ、自分も座る。


「さて荒木さんでしたっけ。連絡があったと先ほどおっしゃってましたが、対馬に連絡員が行く予定は無かったはずなんですが?」


「連絡員? それは知らないな。対馬には太陽光発電で生きてる光ファイバーが福岡まで通っていてな。そこから情報が伝わってきた。まだ生きてる海底ケーブルも多いからな、世界中に伝わってると思うぞ」


「なんと。しぶとく残ってるインフラもあるんですね。敦賀では市外への通信ケーブルは全て切れてるみたいなんですよ。そこまで伝わってるとは知りませんでした」


「他にも何人かここを目指してるみたいだぞ。大陸からも来るような話も聞いた」


 なんだか大きな話になっている。タマはと言うと、チビをじっと見つめている。チビも見つめ返している。何か意思疎通してるような雰囲気が軽い同期から伝わってくる。


 荒木さんも二匹に気づいたようで、


「なんだチビ、その婆ちゃんが気になるのか?」


 と尋ねる。私は「なんかお話してるみたいですよ」と言うと、


「ほう。わからないけど何だろうな。まあ放っとくか。満永さん、とりあえず発電所周りの地形を調べさせてくれ」


「? それはどういう?」


 意図を測りかねてるような満永さん。


「このチビはツシマヤマネコでな。地脈を操作する因子を持ってるんだ。まあ簡単な地形操作だな」


「? 聞いた事ない能力ですね」


「要は防壁を作ったり落とし穴を掘ったりできる感じだ。対馬みたいな閉環境だと役に立つんだよ。今や対馬はちょっとした要塞だぜ」


 すごい。そんな力があるんだ。感心する私の横でずっとタマはチビちゃんとお話中。


「わかりました。普段なら原子炉のオリエンテーションとかあるんですが、屋外専用の能力という事なら不要かもしれませんね。そうしたらユキさん、藤堂さんを連れて荒木さんについて行ってください」


「え、私ですか」


「ええ。タマ君とチビさんが何を話し合ってるのか気になりますし。私も行きます」


「...わかりました。祥子さん呼んできます」


---


 満永さん・荒木さん・祥子さん・私の4人は発電所を出ると、東側の海岸に沿って歩き出した。

 しばらく歩くと舗装路が終わり、獣道みたいな道が海沿いに続くが、すぐに行き止まりとなった。左に上への階段が伸びる。看板があって、「立石岬灯台登り口、400m」とある。


「ちょうどいい、登ってみるぞ」


「ええ~」祥子さんは嫌そうにしてる。


「たった400mですよ、頑張りましょう」


 4人と4匹でとても急な坂を登っていく。と行っても猫たちは人間の腕か肩に乗ってるだけだけど。

 頂上まで登ると一気に視界が開けた。


「うわあ!」


くすんだ白の小さな灯台があって、三方に海が見える。もっと草ぼうぼうかと思ったけどある程度除草されていた。満永さんは


「この灯台はまだ使えるんですよ。なので周辺整備はされています。ただここ数年はフォージを呼び寄せちゃう感じになってるので消灯しっぱなしですけどね」


 と教えてくれる。


 荒木さんは西を見て、「船で入ってくる時に見えたんだが、西に埋立地みたいなのがあるよな? あれは何だ?」


「あれは元々敦賀の商業炉として、3号機と4号機が建設されるはずだった土地です。中止になってそのまま放置ですけど」


 荒木さんは考え込む。


「大陸にキャストが集結しているって話があるが知ってるか?」


「え? いえ全然。初耳です」


 恐ろしい内容に祥子さんも私も身を固くする。


「いや確実な情報か分からないんだがな、元々インドとかネパールとかにキャストは多かったんだ。たぶん大型の猫科がいるからだろうって話なんだが。でキャストの通信を漠然とだが読める猫がいて、それによるとキャストを増やして日本に移動する準備をしてるとか」


「えらい話ですね。というかキャストの通信なんて傍受できるんですか」


「まあ俺も半信半疑だがな。でも嘘をつく理由もない。で大陸からわざわざ日本に来るんなら、目的地はたぶんここだよな、と思った訳さ」


「...」


 皆黙り込む。今だってほぼ毎日襲撃があるのに、大群?


「という事で、俺としてはこの崖の下から埋立地辺りまで城壁と堡塁を作ろうと思う」


「地形操作、ですか。そんな大規模に?」


「ああ。対馬はこれで周囲を囲って要塞化してる。壊されないようにわざと一部だけ解放しておいて、そこから入ってくるキャストを狙い撃ちする感じだな」


 何でも無い事のように荒木は言うが、それって凄い力だよね。


「まあ時間はそれなりにかかるから、今日から始める。できれば一人哨戒役で付いててくれると助かるな」


「ふむ、それじゃあ藤堂さんとユキさんはこのまま残ってもらいましょうか。私は戻ります」


 その時タマの同期が深くなる。他の猫も光が強くなった。私は報告を行う。


「西にある埋立地? ここから1.5kmほど先にキャスト出現。アタッカー4、ディフェンダー4、サーチャー1、なんか大きいの1。発電所に向かってます」


 荒木さんが感心したような目でタマを見ている。そこで何故に祥子さんがドヤ顔してるのだろうか。


「あれ? タマとチビちゃんが戦闘方法を提案しています」


 荒木さんが仰天する。


「なんだと? チビが? その猫と?」


「なんだか二人で相談してたみたいで」


「はあ!?」


 荒木が唖然とする。


「えーっと、埋立地の西端からここまでと、東端からここまでで二枚壁を作って、窄まった出口を作ってそこから出てくるキャストを一体ずつ破壊する、だそうです」


「マジかよ、あ、おいチビ何をする」


 荒木さんの右手が地面に手を突き光を放つ。猫が荒木さんに強制したっぽい。


 メリメリメリ!見る見るうちに土の壁が二枚、木々をなぎ倒しながら高さ3mくらいまでせり上がった。


 祥子さんと満永さんも初めて見るツシマヤマネコの能力に驚愕する。なんだこの土建屋な猫。凄すぎる。


 キャストは二匹の思惑通り灯台に殺到する。しかし最後は狭く一体くらいしか通れない。そこを祥子さんが打撃で破壊していく。


 途中でサーチャーが遅まきながら罠と気づいたようで、一旦海側に下がる命令を出したらしいが既に遅い。退路には別の壁ができていた。


 という感じでその場をほとんど動かずに退治できた。最後に残って浮いてたサーチャーはタマが撃墜。


 満永さんは呆然として二匹を見ている。


「...なんとも驚きですね。ツシマヤマネコの壁もとんでもなかったですが、まさか猫同士で戦術練るとか」


 荒木さんも自分の猫を見ながら、


「いやこんなの初めてだ。チビの同期感覚だと、そこの三毛猫がチビの能力を聞いて立案した感じだなあ」


 同期が解けた私もタマを撫でながら、


「タマが何かする時は私の頭に地図が浮かぶんですが、それには進路の予測も入ってて、その進路に沿って壁を作ったみたいです」


「ああ、だから壁を無理やり越えようってキャストがいなかったんだな。って地図が頭に浮かぶ!? 進路を予測!?」


 荒木さんがそう言うと一同黙り込む。本当にタマって猫なのか疑ってる。因子が長寿で変異するとこうなるのか?


「にぎゃー」


 タマが一鳴き。「あ、これはお腹すいた、ですね」


「そこは同期してなくても判るわね。私もお腹すいたわ。帰りましょ」と祥子さん。


 荒木さんも疲れた顔で答える。


「そうだな、ちょっと改めて地形図見て城壁どうするか検討する。戻ろう」


 灯台からの階段を皆で下っていく。満永さんが私に、


「ああユキさん、さっき索敵時に『大きいの』って言ってましたが、あれ正式名称は『ヒュージ』って言うんですよ」


「ひゅーじ?」


「巨大、って意味です」


「なるほど了解です」


「にゃー」


 タマ、律儀に返事しなくても良いのよ。お前私には冷たいくせにさ、外面はいいよね。



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