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『花咲く旅路のごとく』タクヤとゆかいな仲間たち ―道なきぞこの道だけど でもこんなに上手に歩いてるー  作者: もとき未明


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4.8 噂は酒のつまみ

monogatary.com 2026年4月8日のお題『社内ゴシップ記者』について投稿したものです。



 お初天神の裏手。

 路地裏の、小さな立ち飲み屋。

 最近見つけた、居心地のいい“秘密基地”だ。


「ここ、ほんま当たりや」


 タクヤがグラスを揺らす。


「でしょ? 市場調査は大事ですから」

 佐藤が軽く胸を張る。

「さすが経理」

「それは関係ない」

 いつもの調子で軽口を叩きながら、三人で肩を並べる。

 仕事終わりの、ちょうどいい距離感。


 その空気の中で。

「そういえば――」

 佐藤が、ふと思い出したように言った。

「若杉とこの新人、いましたよね」

「……各務原?」

 若杉がグラスを口に運びながら答える。

「そう。カガリン」

 一拍置いて。

「面白おかしく、噂になってますよ」

 ぴたり、と動きが止まる。

「……なんっすか、それ」

「いやあ、なんかこう――」

「主任と新人が、やたら距離近いとか」

「ナミさん含めて三角関係だとか」

「なんでやねん。速攻、否定するわ」

 間髪入れずにツッコむ。

 タクヤが笑いながら口を挟む。

「おるなあ、事実をちょっと混ぜて、あと全部想像で膨らますやつ」

「いや、作られすぎでしょ今回」

 若杉は額を押さえる。

「距離近いって言われても、あいつ距離感バグってるだけやし」

「バグってるんや」

「バグってる」


 グラスが空いて、もう一杯。

 少しずつ、場が温まっていく。

 若杉はグラスを傾けながら、少しだけ考える。

「……別に、ええですけどね」

「お、余裕や」

「いや、否定して回るほうがめんどくさいですし」

「たしかに」

「それに」

 一拍置く。

「あいつ……カガリンは、たぶん気にしないですよ。“へえ”ぐらいで終わりそう」

「想像つくわ」

 佐藤が頷く。

「ナミさんは?」

 タクヤが聞く。

「……あの人も、気にせんやろな。むしろ、“そう見えるんや”って分析しそう」

「それはそれで怖いわ」

 また笑いが起きる。

 グラスが触れて、音が鳴る。


 外では夜が深くなっている。

「結局」

 若杉がぽつりと言う。

「好きにさせといたらええんですよ」

「達観してるやん」

「いやもう、疲れるんで」

「大人やなあ」

「そういうことにしといてください」

 肩の力を抜く。


 噂は勝手に流れて、勝手に消える。

 追いかけても、きりがない。

 だったら。

「放っとくのが、一番楽です」

「正解や」

 タクヤが頷く。

「どうせまた、別のネタ出たらそっち行くしな」

「それもそうですね」

 佐藤が笑う。


 グラスを空ける。

 少しだけ酔いが回って、空気がやわらぐ。

 店の奥から、次の注文の声が飛ぶ。

 誰かの笑い声が重なる。


 そんな中で。

「……まあでも」

 若杉が、ぼそっと言う。

「ネタとしては、ちょっとおもろいっすけどね」

 主役の自覚があるのかないのか、若杉のぼやきに三人の笑いが弾ける。


 噂も、酒も。


 少しずつ、薄まっていけばいい。


 若杉はそう思いながら、次の一杯を喉に流し込んだ。



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