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『花咲く旅路のごとく』タクヤとゆかいな仲間たち ―道なきぞこの道だけど でもこんなに上手に歩いてるー  作者: もとき未明


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4.6 モーニング・デッドロック

monogatary.com 2026年4月6日のお題『永遠のユートピア』について投稿したものです。



 各務原リン、二十二歳。

 今春から新社会人となったんやけど、朝にめっぽう弱い。


 目覚まし時計は三つ。

 一つ目は無視する前提。

 二つ目で現実を認識して、三つ目でようやく起きる――はずだった。


 しかし。


 今日は、冷え込んでいる。

 布団の中が、いつも以上に強敵になっている。

 もはや、史上最強の侵略者や。


「……」


 これは、あかん。


 体が理解している。

 ここは、安全圏だと。


 外は寒い。

 現実は厳しい。

 だが、この中は違う。

 すべてが許される空間。


「……」


 はっ。


 意識が堕ちていた。

 いや、違う。

 昇っていたんや。

 あの、やわらかくて、あたたかくて、何も考えなくていい場所へ。

 時間も責任も、全部ぼやける。


 ――朝の、このまどろみが一番好きだ。


 永遠に続いてほしい、と本気で思う。

「……」

 いけない。

 また、入り口が見えた。

 このままでは、本当に戻れなくなる。

 現実に。

 社会に。


 フレックスタイム制とはいえ、コアタイムに遅れたら、それはただの遅刻や。

 せっかく、あれだけ願って、あの部署に配属されたのに。

 ――システム開発部。

 フレックス。

 可変時間。

 理想の環境。

 それを、自分の寝坊で台無しにするのは――

「……アホや」

 布団の中で、つぶやく。


 分かっている。

 分かっているけど。

 それでも。

「……あと五分」

 願ってしまう。

 この楽園に、もう少しだけ滞在したいと。


 ああ。

 このまま時間が止まってしまえばいいのに。

 そう思った瞬間。

 アラームが、鳴る。

 三つ目。


 最終防衛ライン。

「……うるさ」

 手探りで止める。


 そして。


 ――起きない。


「……」


 静寂。

 ぬくもり。

 まどろみ。

 完璧な環境。


 意識が、再び溶けていく。

 これはもう、抗えない。

 自然の流れだ。

 逆らうほうが不自然だ。


(あと五分寝たほうが、合理的や)


 そう結論づけた瞬間。


 ――はっ。


 飛び起きる。

「……今、何時」

 スマホを見る。

「……」

 一瞬、思考が止まる。

 次の瞬間。


「……終わった」

 静かに言う。

 叫ばない。

 もう、その段階は過ぎている。

 状況を整理する。

 出発まで、あと十分。

 朝食――無理。

 化粧――最低限。

 移動――急げば間に合う可能性あり。


「……いける」

 そう判断した瞬間、体が動く。

 一気に、現実に引き戻される。

 服を着て、顔を洗って、髪を整えて。

 玄関を飛び出す。


 冷たい空気が、顔に刺さる。

「……寒っ」

 現実だ。

 間違いなく。


 走りながら思う。

 あの布団の中は、やっぱり楽園だった。

 戻りたい。

 できれば今すぐ。


 でも。

 今は、無理だ。

 電車に飛び乗る。

 息を整えながら、窓に映る自分を見る。

「……まあ」

 小さくつぶやく。

「また帰ればいいか」

 楽園は、消えたわけじゃない。

 ただ、時間制限があるだけだ。


 それなら、その時間をどう使うか――それだけの話だ。


「……夜まで、頑張るか」

 電車が揺れる。

 会社へ向かう。

 新しいクラス。

 新しいチーム。


 そして――


 たぶん、めんどくさい現実。

 でも。

 少しだけ。


 ほんの少しだけ。


「……まあ、悪くないかも」


 そう思いながら。

 各務原リンは、今日もぎりぎりで社会にログインした。



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