4.5 予想どおりのイレギュラー
monogatary.com 2026年4月5日のお題『やっぱりね』について投稿したものです。
若杉三十一歳。
最近、やっと本命の彼女ができた。
同じ職場の、同じシステムエンジニア。
――のはずだが。
相変わらず忙しく、まともに会話できていない。
「若杉主任、配属出ましたよ」
ナミさんの声に、椅子を回す。
今回は、ちょっと違った。
「あの子、どうなりました?」
「噂のあの子?」
ナミさんは、少し含みを持たせて笑った。
「うちに来るって」
「……ですよね」
若杉は、軽くため息をつく。
「なんとなく、そんな気はしてました」
「私も」
「で」
ナミさんが続ける。
「配属先は、若杉主任のチーム」
「……あー」
天井を見上げる。
「来ましたね」
「来ましたね」
どこか他人事みたいに、繰り返す。
「主任なら大丈夫そうだしね」
「なんでですか」
「嫌いじゃなさそうだったから」
「……それ、言われましたね前も」
「言ったかも」
しれっと返され、若杉は頭をかいた。
「……めんどくさいのは間違いないですけど。
でも、あの子なりにちゃんと考えてるんすよ。
だから……雑には扱えんというか」
ナミさんが、少しだけ目を細める。
「やっぱりね。でも、楽しみなんでしょ?」
「……まあ、何しでかすか分からんすけど、それが意外と外れてないんで」
ナミさんが頷く。
フロアのざわめきの中、その会話だけがゆるい。
「チーム、ちょっとぐらいバグったほうが面白くなりそうですし」
「やめて!」
「いや、良い意味っすよ」
二人で笑う。
その空気が、少しだけ心地いい。
けど。
「若杉主任、この件もいいですか!」
「ナミさん、レビューお願いします!」
すぐに現実が割り込んでくる。
目を合わせて、また少し笑う。
その一瞬だけ、距離が近くなる。
すぐに、それぞれの仕事へ戻る。
席に座り、キーボードに手を置く。
(さて、どうなるか)
想定内の、少しだけ想定外。
面倒で、楽しみな変化。
――悪くない。
若杉は、静かにコードを叩き始めた。




