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『花咲く旅路のごとく』タクヤとゆかいな仲間たち ―道なきぞこの道だけど でもこんなに上手に歩いてるー  作者: もとき未明


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4.1 インスタンス間の距離

monogatary.com 2026年4月1日のお題『新しいクラス』について投稿したものです。



 若杉三十一歳。

 最近、やっと本命の彼女ができた。

 同じ職場の、同じシステムエンジニア。

 毎日、顔を合わせられるのは利点――のはずだが。


 最近は、とにかく忙しすぎる。

 社内システムの統合と整理。

 過去の遺産を全部つなげ、まとめて、将来も回るようにしろ――という、無茶な号令。

 フレックスタイム制のはずが、前残業に後残業。

 同じ時間に会社にいるのに、ナミさんとまともに話す時間がない。


 ――ひどい!


 心の中でだけ叫ぶ。


 そんなとき。

「若杉主任、この設計、見てもらえます?」

 振り向くと、ナミさんが資料を持って立っていた。

(きた……! 久々の会話チャンスや!)

 久しぶりの接触イベント。

 ただし、当然のように――仕事。


「ああ、ナミさん。お疲れ様です。結合部分、担当でしたよね」

「そう。バラバラの時期に作られたシステムを、今さらくっつけろって話。無茶よね」

 苦笑しながら資料を渡してくる。

 若杉はそれを受け取りつつ、共有フォルダを開いた。


「……あれ?」

「どうかした?」

「これ……新しくクラス切ってます?」

「ええ」

 あっさり頷く。

「既存のまま繋ぐと、責務も命名もバラバラでしょ。だから一回まとめて、共通のクラスに整理したの」

 画面を指差しながら説明が続く。

「これで、パラメータ違いのインスタンスを作るだけで済むし、保守も楽になるはず」

「……すごいっすね」

 素直に感嘆が漏れる。

 バラバラだったものを、ひとつの枠にまとめる。

 違いは残したまま、扱いやすくする。


(……これ、ええこと言える流れちゃうか?)

 若杉は一瞬考えて、

「これって……」

「うん?」

「新しいクラス作るみたいに、チームも整理できたらいいっすよね」

 言った瞬間、少しだけ後悔する。

(何言ってんねん俺)

 ナミさんはきょとんとしたあと、ふっと笑った。

「無理でしょ」

「即答っすか」

「人は、そんなに素直に継承してくれないもの」

「たしかに……」

 妙に納得してしまう。

「しかも、変なところでオーバーライドするしね」

「やめてください、めっちゃ分かる」

 二人で小さく笑う。


 ――あ、今、ちょっといい感じやったんちゃうか?


 そう思ったのも束の間。


「若杉主任、こっちの件もいいですか!」

「すみません、この仕様どっちですか!」

 横から声が飛んでくる。

「……呼ばれてますね」

「……ですね」

 同時にため息。

「じゃあ、設計はあとでコメント入れときます」

「お願いします」

 あっさり仕事モードに戻るナミさん。


 その背中を見送りながら、若杉はぽつりとつぶやいた。

「……同じスコープには、おるはずなんやけどなあ」

 席に戻る。

 画面には、さっきのコード。

 きれいに整理されたクラス構造。

 誰が見ても分かりやすい設計。


 でも。


(距離は、自動では縮まらんか)

 マウスを握り直す。

 せめて。

 レビューコメントくらいは、丁寧に書こう。


 ――それが今の、自分にできる最適解や。


 そんなことを考えながら、若杉はまたキーボードを叩き始めた。



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