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『花咲く旅路のごとく』タクヤとゆかいな仲間たち ―道なきぞこの道だけど でもこんなに上手に歩いてるー  作者: もとき未明


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3.28 暖簾の向こうの聖域

monogatary.com 2026年3月28日のお題『僕らの秘密基地』について投稿したものです。



「今日はちょっと、ええとこ連れていきますよ」


 そう言い出したのは佐藤やった。

 仕事終わり、いつもの流れで立ち飲みに行こうとしたところを、ぐいっと方向を変えられる。

「また新規開拓か?」

 俺が聞くと、佐藤は少しだけ得意げに笑う。

「まあ、そんなとこです」

「ハズしたら許さんで」

 若杉が横から茶々を入れる。

「大丈夫ですって。今回はちゃんと“静かに飲めるとこ”なんで」


 その一言に、俺はなんとなく引っかかる。

「静かに、ってなんやねん」

「行けばわかります」

 佐藤はそれ以上説明せんと、ずんずん歩いていく。


 気づけば、見慣れん路地に入っていた。

「……お初天神のこんな裏路地まで来たのは初めてや」

 俺がそう言うと、佐藤が振り返る。

「でしょ?」

 ネオンはあるけど、騒がしさは少ない。

 人通りも、いつものエリアより落ち着いてる気がする。

 しばらく歩いた先に、小さな立ち飲み屋があった。

 暖簾も控えめで、知らんかったら通り過ぎるレベルや。

「ここです」

「渋っ……」

 若杉が思わず声を漏らす。


 中に入ると、カウンターだけの狭い店。

 客もまばらで、放っといてくれそうな空気やった。

「ええやん、ここ」

 俺が言うと、佐藤が満足そうにうなずく。

「でしょ?」

 ビールを頼んで、三人で軽く乾杯する。


 ――なんやろな、この感じ。


 いつもの店より、ちょっとだけ距離が近い。

「……最近、この三人で飲んでると、だいたい乱入してきますからね」

 佐藤がぽつりと言う。

「乱入?」

 俺が聞き返すと、若杉がすぐに笑う。

「ミサキさんかナミさんやろ」

「そうです」

 佐藤は苦笑いする。

「タイミングおかしいんですよ、あの二人。なんであんなピンポイントで来るんですかね」

「知らんわ。嗅ぎつけてんちゃうか」

「GPSでも付いてるんですかね、俺ら」

 くだらんこと言いながら、三人で笑う。

「佐藤は、あの二人苦手か?」

 俺が聞くと、佐藤は少しだけ考えてから首を振った。

「苦手ってわけじゃないですけど……」

「けど?」

「たまには、こういうのもええじゃないですか。男だけで、気ぃ使わんと飲める感じ」

 グラスを傾けながら、そう言う。

 若杉も「わかるっす」と頷く。

「なんか、変に気ぃ張りますもんね。あの人ら来ると」

「誰がや」

「いや、全員っすよ」

 ……たしかに。


 ミサキもナミも、別に嫌なわけやない。

 むしろおもろいし、場も回る。


 けど――


「まあ、たしかに」

 俺もグラスを置いて言う。

「こういう“逃げ場”が一個くらいあってもええか」

 佐藤が少しだけ嬉しそうに笑う。

「でしょ?」

「隠れ家ってやつやな」

 若杉が言う。

「秘密基地っすよ、これ」

 その言葉に、三人でちょっとだけ笑う。

「ええな、それ」

 俺が言うと、佐藤がうなずく。

「ここは、三人だけの場所ってことで」

「ルール決めるか?」

 若杉が乗ってくる。

「女連れ込み禁止、とか」

「それはさすがに言い過ぎやろ」

 俺がツッコむと、佐藤も笑う。

「まあでも、しばらくは内緒にしときましょう」

「せやな」


 グラスをもう一度軽く合わせる。

 カラン、と小さな音が鳴る。


 店の空気も、時間の流れも、ちょうどええ。



 ――これは、ええとこ見つけてもうたかもしれん。



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