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『花咲く旅路のごとく』タクヤとゆかいな仲間たち ―道なきぞこの道だけど でもこんなに上手に歩いてるー  作者: もとき未明


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3.27 風の守護者と黒歴史

monogatary.com 2026年3月27日のお題『黒歴史ファイル』について投稿したものです。



 タクヤ、三十三歳。

 大阪歴十年。いまだに大阪弁は練習中。

 ひとり暮らしだが、この静けさも、そろそろ終わるかもしれない。


 ――週末、ミサキの実家に行く。


 そのための準備、らしい。

 余計な地雷を踏まんようにと、ミサキがノートパソコンを持ってきた。

「で、この不気味な名前のファイルを見るのか?」

 俺はテーブルの上のノートパソコンを指さして言った。

 画面には、見慣れんフォルダが一つ。


 ――黒歴史ファイル。


「ウチの過去、ちょっと知っといたほうがええやろ? 実家で何が出てきても、動じへんようにな」

 俺が眉をひそめると、ミサキは楽しそうに笑う。

 カチ、とミサキがクリックする。

 ――ゴクリ。と喉が鳴る。

 最初に出てきたのは写真やった。

 山。草原。青空。

 その真ん中で、裸足の子どもが全力で走ってる。

「……誰やこれ」

 思わず聞くと、ミサキがあっさり言う。

「ウチやで」

「ハイジやん」

 反射やった。

「ほら言うた」

 ミサキが即座にツッコむ。

「言うやろこれは。なんで裸足なん?」

 俺が聞くと、ミサキは当然みたいな顔で答える。

「靴、邪魔やってん」

「文明否定してるやん……」


 次の写真に切り替わる。

 木の上に登って、枝の上でドヤ顔してる同じ子ども。

「サル期やな」

 俺が言うと、ミサキは少しだけむっとした顔をする。

「元気やったんや」

「今も元気やけど、方向性が違うねん」


 さらに動画が再生される。

 小学生くらいのミサキが、手作りのマントを翻しながら叫んでいた。

『我こそは――風の守護者!』

「……ちょっと待ってくれ」

 俺が思わず手を上げると、ミサキが眉を上げる。

「なに?」

「今の、もう一回見せて」

「絶対イヤや」

 俺が再生バーに手を伸ばした瞬間、ミサキがその手を軽く叩いた。

「それ以上は有料や」

「金取るんかい」

「黒歴史は資産やからな」

「言い切るなぁ……」

 俺は苦笑しながら、画面から目を離してミサキを見る。


「これ、実家で出てきたらどうすんねん」

「そのときは一緒に笑えばええやん」

 ミサキはあっさり言う。

「いや、笑えるレベルかどうかやねん」

「タクヤにもあるやろ?」

 そう言って、ミサキがじっとこっちを見る。

「……まあ、なくはないけど」

「例えば?」

 間髪入れずに来る。

「いや、それは言わん」

「ほらな。人のこと言われへんやろ?」

「ぐうの音も出ぇへん……」


 少しだけ沈黙が落ちる。


 画面には、無邪気に笑ってる昔のミサキ。

 今より日焼けしてて、無防備で――でも、どこか面影はそのままや。

「……ええやん」

 気づいたら、俺はそう言ってた。

「なにが?」

 ミサキが不思議そうに聞く。

「なんか、ちゃんと繋がってる感じするわ。今のミサキと」

 俺がそう言うと、ミサキは少しだけ目を細めた。

「まあな。だいぶ削ぎ落としてきたけど」

「まだ残ってるで、風の守護者」

「それは消しとく」

 カチ、とミサキがフォルダを閉じる。

「ほんで?」

 ミサキが俺を見る。

「ん?」

「タクヤの黒歴史は?」

「……ない」

「ある顔してるで」

「ないって」

「じゃあ、実家で聞いたろ」

「やめてくれ」

 即答してもうた。

 ミサキがくすっと笑う。

「ほらな」

「ほらなやないねん」

 パソコンはもう静かや。

 けど、その中身は消えへんのやろうなと思う。


「黒歴史ごと、連れてってもらうわ」

「覚悟できてるやん」

「できてへんけどな」

 それでも、まあええかと思う。


 裸足で走ってた過去も、

 風の守護者やった時代も、


 全部ひっくるめて、今のミサキや。



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