④−0 お城の美術館
4章副題は『月と猫』にしています。
隆夫と雄二の関係性が、3章までとは違ってくるので。
空高いところにある月が、子どもの猫を、ただやさしく見守る……というだけでなく、lunaticな性質もだんだん現れてくる、そんな意味の「月」です。
まだまだ子ども時代が続く雄二を好きになってしまった、先に大人になる隆夫の宿命。
そんな感じの『月と猫』です。
*作中お城について*
外観はノイシュヴァンシュタイン城で、内装は頭の中ではサンスーシ宮殿。
尖塔あるのでゴシック建築ですが、バロック建築にもしたかった。窓の上部がアーチ状とか。
そういうわけで、石段は円形です。
春は家の中より、外に出た方が暖かい。そよ風が気持ちいいんだ。
今日ぼくはバスに乗って、丘の上の美術館に来た。もちろん隆夫と一緒に。
「高校生と中学生、一人ずつ」
入館時、割引してもらうのに学生証を提示した。隆夫は中等教育科の、ぼくは自由科の。
片方があんまりちびだからか、受付の人は不思議そうにしていた。まあ、ぼくは年齢で言えば九歳なんだけど。
「行こうか」
「うん」
差し出された手を取って、ぼくは隆夫とお城の門をくぐった。
白壁に青い屋根の、尖塔のある建物。
明治の頃に、この国に出入りしていたヨーロッパの貴族が建てたんだ。大戦前後に引き払っちゃったけど。
それを戦後、綾瀬さんが買い取って、このまちのシンボルにした。だから欧立市っていう。
「この絵は、ここに住んでいた侯爵一家の……」
ガイドさんの説明を聞きながら、他のお客さんたちと一緒に、各部屋を回った。
天井が高い。それに広い。誰かさんちのお屋敷を思い出す。
お城の美術館と呼ばれるだけあって、ところどころに絵画や石膏像が置いてある。どれも当時、描かせたり作らせたりしたものなんだって。
「あ、ピアノだ」
ど真ん中に座ってるの。ふたを開けて鍵盤が見える状態だから分かったけど、そうでなければインテリアの一種かと思っただろう。全体に装飾がほどこされていて(蔦が描かれている)、黒じゃなく明るい色だし、調度品という感じ。
「こちらは演奏室です。侯爵はときどき、音楽家を呼んで、管弦楽を楽しまれたそうですよ」
噴水を見下ろす、円形の石階段に座って、ぼくらはお昼のお弁当を食べた。今朝、隆夫が作ってくれたんだ。
他の人たちも、芝生の上にシートを敷いて、ピクニックしてる。
自然豊かなお庭。侯爵は日本の草花が好きだったらしく、たんぽぽやすみれ、自生しているものは摘まずに置いていたそう。
「予約をしておけば、食堂でランチが食べられたんだな」
鶏肉のおだんごを口に入れながら、隆夫。
「そういうごちそうにも興味あるけど、隆夫のお料理だって負けてないよ」
菜っ葉とおじゃこのおにぎり、おいしいんだ♡
「遠足みたいだな、こうしてると」
隆夫は次に、チーズ入りの玉子焼きをお箸でつかんだ。
「景色もいいしね」
遠くの山々。桜が咲いているんだ、山肌がピンク色。
「中等教育科は、遠足ってないの?」
「春頃あるらしい。希望者は申し込む形で」
「全員参加じゃないんだ」
地域の小学校と違って。
「いつか一緒に行こう。雄二が中等科生になって、オレがそこで実習するようになったら」
笑顔の隆夫。お母さんとの約束なんだ、隆夫が欧立学園大の教育学部に進むっていうのは。ぼくの一番近くにいるために。
「隆夫はそれでいいの? 他に行きたい大学とか、ない?」
市外にはいくらでも選択肢がある。
「他は考えてないよ。病み上がりで刺激の強いところへは行きたくない――情けないと思われるかもしれないけど、オレは綾瀬の学校にいたい。守られている状態で」
「……」
ぼくはお魚のフライをお弁当箱に戻した。
「怖いの?」
「そりゃ」
正直な気持ち、隆夫の。
ぼくは……ぼくも、もうすぐ社会復帰の練習をする。学校じゃなく塾に通うんだけど。
「気負わなくていい。雄二のことはオレが守る」
隆夫がそう言うのは、ぼくが来週から行こうとしてるのが、欧立学園大附属の青葉クラブだからだ。
「やめて。何もしないで。ぼく一人で大丈夫だから」
拒絶に聞こえちゃったかな。ぼくはおそるおそる、隣の人の顔を見た。
お月様みたいに笑ってた。やさしい顔で。
「じゃあ何もしないよ。雄二が助けてって言うまでは」
「うん……」
ぼくには考えてることがあって。
ぼくの正体をばらされることがまたあったとしても、今度はちゃんと乗り切らないといけない。
あざみの小をやめたときみたいに、一旦休憩というわけにいかないんだ。塾を最後まで行って、その後は中学校に入る。
保険で中学課程は先に終わらせておくけど、人の中にいる経験はしないと。お父さんの会社を、ぼくがもらうから。
そのための作戦は一応考えてある。
「オレもがんばるよ、コネ使わないで大学に行けるように」
「隆夫……」
領主様の息子なんだ。彼が何をしようと、ぼくには止める権限がない。
でも正々堂々としていてほしい。ぼくらは年が離れたカップル、それだけでも罪なのだから。
「雄二もがんばれ。何もしないけど、見守ってる」
「うん」
ぼくは食べかけのおかずを口へ運んだ。




