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王子様と赤ずきん  作者: かおる
3章
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39/47

③−13 隆夫と礼央

『王子様と赤ずきん』

隆夫と雄二/優美が結ばれるまでの物語としては、今回で終わりです。


次から〈4章 月と猫〉に入っていきます。

 ――優美さんがごく一般的な普通の子どもなら許さなかった。そのことは覚えておきなさい。

 重みのある父の言葉。オレを牽制けんせいするための。

 だけど、父は優美をどういうふうに捉えているんだろう。

“ごく一般的な普通の子ども”でないとは、体のことか、あるいはそれ以外か。

 そんなことを考えながら歩いている間に、目的の林に着いた。

「隆夫くん」

 ベンチから立ち上がる執事見習い。

「勤務時間中にすまない」

「早めの昼休憩にしたから大丈夫だよ」

 今日は礼央と約束をしていたんだ。


 松にかえで小楢こなら……。ここにはいろいろな木が植わっている。以前は暖炉を使っていたから、まきが必要だったんだ。

 リスやムササビなど小動物も生息する。渡り鳥が旅の途中で、羽を休ませる場所でもある。

 そのときバサバサと何かが飛び立つ音が聞こえて、見上げると、交差する枝々の隙間から澄んだ冬空が見えた。

「はい」

「ありがとう」

 礼央が水筒から注いでくれたお茶は、湯気が立つほど温かかった。

「よくここで遊んだよね。どんぐりを集めたり、落ち葉の上に寝そべったり」

「その下に冬眠してる虫がいるんだぞって言ったら、慌てて起き上がったよな、礼央」

 無邪気だった昔のことを思い出し、オレは笑った。

「みの虫ぐらいなら平気なんだけどね。それ以外はちょっと」

 言いながら、礼央は足元に広がる枯れ葉のじゅうたんに目をやった。

 オレはカップになっているふたに口をつける。うまいほうじ茶だった。

「話って、優美お嬢様のこと?」

「ああ」

 飲み干した後で、ふたを返した。

「優美だけを愛すると決めた。だからおまえのことはもう」

「そう、よかった。やっと気持ちが固まったんだね。安心したよ」

 すがすがしいほどの笑顔。そこにはさびしさの欠片かけらもない。

「オレは、本当に愛されてないんだな、おまえに」

「そんなことない。愛してるよ、隆夫くんのこと」

 礼央は金の鎖の先にある物を服の中から出し、りんごを開いて見せた。

 そこには幼かった頃の、オレと礼央。

「……」

 現実の礼央も笑っていた。

「“友達として”だろ、愛してるなんて」

「友達じゃない、ぼくと隆夫くんは」

「……そうだったな」

 わきまえないと、と言っていた。オレがまだこの屋敷のおぼっちゃんだった頃。

 礼央はロケットを閉じてジャケットの中に戻した。

「夢があったんだ。いつか隆夫くんが、この家の当主様になって、ぼくは執事としてきみを支える。そのためにも学校でがんばってたし、今も修業しゅぎょうしてる」

「次の当主はたぶんアキだ。決定じゃないらしいけど」

 オレじゃないことだけ確定。

 礼央は、黙ってうなずいた。

「新しい当主様にも、誠意を尽くして仕えるよ、それが誰であれ。でも、きみが帰ってくるのを待ってる。おかえりって言ってあげたいんだ、隆夫くんに」

 瞳がうるんでいるように見えた。目の錯覚か。

「……」

「……」

 しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはオレだった。

「オレは、父さんの真似はしたくないから、生涯愛すると決めた人しか愛さない。おまえのことは好きだったけど忘れる」

「うん、それでいい。いや、それがいい」

 礼央は目元を手の甲で拭った。

「愛してるんだ、きみのこと」


 枠が違う気がした、何となくだけど。

 オレはもっと小さい枠で礼央を求めていたんだ。そばにいてほしかったし、オレのことを好きでいてほしかった。

 でも礼央は、オレのことを、もっと大きい枠で捉えている。オレが常にそこにいるわけじゃなくても、オレが他の誰かを愛そうと、それでも愛してると言う。

 次元が違うのかもしれない。ファンタジー小説でいうなら、高次元生命体。

 いや、それでも礼央は人間だ。神じゃない。傷つきもする。



 門まで続く二百メートルの並木道を歩いていたとき、かばんの中で通信機が鳴り出した。

 届いたメッセージを確認する。優美からだ。

『お話は終わった? 外で待ってる』


 オレは全速力で門まで走った。

 外に出ると、黒い車体のタクシーが停まっていた。

 息を切らしていると、後ろのドアが自動で開いた。オレはそこに乗り込む。

「出して下さい」

「はい」

 水色の着物姿の美人が、運転手に指示する。車は調布の街を走り始めた。

「なんでその格好?」

 白椿しろつばきにうぐいす。早春のイメージ。

 帯紐おびひもは金色。着物に合うコサージュも後ろ髪に付けてる。

 小公女セーラじゃないけど、小さな貴婦人といった感じ。

「あなたのご実家を訪れるんだもの。外までだとしても、きちんとした格好じゃないとね」

 なるほど礼儀か。でもそれだけじゃない気がした。

たもとが短い。いわゆる晴れ着じゃないな」

 女性の着物のことは、夜会のとき、母が教えてくれた。

「これは訪問着よ。未婚じゃないもの」

 その目がオレを真っ直ぐ見ていた。覚悟を決めているのは彼女も同じ。

「……そうだな」

 後部座席の白いシートの上で、互いの手を握り合う。

 オレは優美と、優美はオレと、一生一緒に生きていくんだ。

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