③−12 呼び出し
年末。成績表を見せに戻るよう言われて、オレは屋敷の門をくぐった。本当の用件はそれじゃないと知りながら。
古い紙のにおいがする父の書斎。棚の間を抜け、一番遠い角まで行くと、東向きの窓を背に父が待っていた。
「おかえり」
「ただいま戻りました」
オレは肩から提げたかばんの中から、目的の物を取って机に置いた。
父はしばらく、そのカード紙を眺めていた。後期中間の点数だけが記された表。
「ふむ。まあ悪くはない」
どの科目も平均レベル。悪くはないが、良くもなかった。
「学校の方はどうだね」
「よくしていただいています、クラスメートにも部活の仲間にも」
「それはよかった。先月あった大会の様子は、録画を見せてもらったよ。応援に行けなくて残念だった」
後から聞いたが、父はその日、コンピューターソフトの会社との商談のため、渡米していたそうだ。
「数学は他より得意なようだな」
父は再び成績表に目を落とす。
「嫌いじゃないです」
場所を替え、オレたちは背の低い長机に移った。
燻した香りのするお茶を、父は淹れてくれた。
「ときに、例の家に優美さんを連れていったそうだな」
本題。今日オレはこの件で問いつめられる。
「小さい頃に一度――複数回だったかもしれませんが――家族三人で行きましたよね。浜で遊んだ記憶があります」
窓辺に立ったとき思い出した。物心つく前と、少し大きくなってから、合わせて二回は父の別宅を訪れた気がする。
「はて、そうだったかな。高台の別荘へ避暑に行ったときじゃないか、砂遊びをしたのは」
「あ……」
言われてみれば。
「だが、おまえが覚えているということは、ワシは確かに連れていったのだろう、あの家に」
父は静かに紅茶を飲む。オレは緊張からか、あまり口をつけられなかった。
「僕と優美が何をしたかは、お耳に入っていますか」
見ていたわけでなくても。夏でもないのに、昼間にシャワーを使った形跡があれば、想像はつくはず。
「和義くんから」
ドキッとする。オレはあの人との約束を破った。
「お礼を言われた。娘を受け入れてくれたことに対して、だそうだ」
「……」
オレは顔を赤らめて俯いた。
「代わりに謝っておいたがね」
「すみません」
しばしの沈黙の後、父は口を開く。
「欲望のままに、行為に及んだのではない。あくまで娘のためだった――和義くんはそう解釈している。だが理由がどうあれ、彼との約束を反故にしたのは事実。それ以前に、未熟な子どもとそういった関係になる――これは責めを負うべきことだ。分かっているな?」
「はい」
オレは顔を上げた。父は穏やかな表情だった。
「外にはこの情報を漏らさん。あくまで敷地内で起きたことだ。優美さんの秘密を守るためにもな」
隠蔽。後味は決してよくない。
「おまえなりに意味のあることだったんだろう?」
父は思いの外やさしかった。
「はい。覚悟を決めるために。オレは生涯、優美だけを愛すると」
「冷めるぞ」
言われて、オレはカップを口へ運んだ。
「優美さんがごく一般的な普通の子どもなら許さなかった。そのことは覚えておきなさい」




