③−10 海辺の別荘
【ご注意】
今回の話の中で、優美と隆夫は限度を超えたスキンシップをします。
Web版はどなたが見るか分からないので最大限配慮が必要ですし、話の方向を変えることも考えたのですけど。
物語を終わらせるのに、どうしても必要。
なのでお読みになる方は、もろもろご了承の上で読み進めて下さい。
子どもの頃、一度だけ来たんだ。まだ言葉もしゃべれないぐらい幼かったオレは、両親に連れられて、波の音がする部屋にしばらく滞在した。
開け放たれた窓。揺れ動くカーテン。カモメの声。
父と母はベッドの上で、抱き合っていた。
夢か現実かよく分からない記憶。
五条にそれとなく、そういう場所がないかたずねた。海の近くで、居間と寝室と台所がワンフロアにある小さな家。
綾瀬家所有ではないが、父個人が持つ別宅として、それは確かに存在すると。
オレはいつしか、夢に見るようになったんだ。その部屋で、礼央と抱き合うことを。
今でも。
「広い」
彼女は部屋に入って最初に、そう呟いた。
日中とは言え冬なので、記憶と同じに窓を開けることはできない。暖房は、ここへ来たときすでについていた。
「別荘なんでしょ。お掃除はちゃんとしてあるのね。管理してる人がいるの?」
九歳の少女は振り返り、オレにたずねた。
「近くに別の、もっと大きな別荘があって。そこの管理人が、ついでにここも手入れしてくれてるよ」
「このサンドイッチも」
ソファの前にある透明天板のテーブルには、二人分の昼食が置かれていた。
「うん。五条に電話して、五条から管理人に頼んでもらった」
つまりオレがここを使ったことは、父たちの耳に入る。確実に。
「おいしそう。食べていい?」
「ああ、一緒に食べよう」
冷蔵庫を開けると、お茶やジュースなどの飲み物が用意されていた。ポットにはお湯、棚には紅茶のティーバッグ。
「ふんわりしてる、このパン。カツも衣がさくさく」
優美は料理長の腕に満足したようだ。
オレはダージリンに口をつけた。あまり食欲はなかった。
「シャワーを浴びてくるな」
「うん……」
立ち上がったオレの隣で、優美は緊張しているようだった。
少し窓を開けて、寄せては返す波の音を聴いた。潮の香りがする、あのときと同じだ。
見下ろせば白い砂浜。思い出す、オレはその浜で遊んだことがあった。そばでは父と母が見守ってくれていて。
(ここは“家”なのか、屋敷じゃなく)
バスルームのドアが開く音がして、オレは振り返った。
ベッドとソファの向こう、バスタオルで体を隠している優美。
「ガウンはぶかぶかで着られなかった」と、苦笑する。
「おいで」
彼女は床の上をはだしで走ってきた。
途中はらりと布が落ち、オレは彼女のすべてを初めて目にする。
抱きついてきた彼女をオレはしっかりと受け止めた。
「見た?」
「うん」
さわったことはあったから、形は知っていたんだ。
「男の子みたいでしょ」
優美は恥ずかしそうに。
「かわいいよ」
オレは優美を、ベッドの中で愛した。
*
わたしたちが今日、何をしたか、具体を言葉にするのは控えようと思う。
ただ隆夫さんはわたしに苦痛を与えることはしなかったし、わたしのことを大切に扱ってくれた。それだけは真実。
お布団の中で寝息を立てている彼をそのままにして、わたしは床に足をつけ、着てきた服をもう一度着た。
ポットのお湯はまだ残っている。背伸びをして棚を開け、アールグレイの箱を取った。
(お母さんに連絡しないと)
こういうことがあったとき、必ず知らせるよう言われている。
わたしはソファのそばに置いたバッグから、短文メッセージを送れる通信機を取り出す。
『今日、隆夫さんと結ばれた』
正確には、体と体の結合はしていない。でも心と心は結ばれたんだ。わたしたちはもう戻れないところまで来た、互いのすべてを見せ合って。
(決意の表れ。お互い、この人にすると決めた。愛情の証明)
隆夫さんはわたしの体を拒絶せず、受け入れてくれた。だからわたしも、彼を体ごと愛した。
世間一般の基準で考えれば、わたしたちは間違っている。早すぎるんだ、こういうことをするのは。まだ、親に保護されている身分で。
カップからティーバッグを引き上げていると、お母さんから返信が来た。
『そう、よかったわね。体は何ともない?』
聞かれたことに返事をする。『大丈夫。痛いことは何もしていないの』
これでたぶん察してくれる。
「おいし……」
幸せなんだ、今。
隆夫さんは、愛をいっぱいくれた。




