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王子様と赤ずきん  作者: かおる
3章
36/37

③−10 海辺の別荘

【ご注意】

 今回の話の中で、優美と隆夫は限度を超えたスキンシップをします。

 Web版はどなたが見るか分からないので最大限配慮が必要ですし、話の方向を変えることも考えたのですけど。

 物語を終わらせるのに、どうしても必要。

 なのでお読みになる方は、もろもろご了承の上で読み進めて下さい。

 子どもの頃、一度だけ来たんだ。まだ言葉もしゃべれないぐらい幼かったオレは、両親に連れられて、波の音がする部屋にしばらく滞在した。

 開け放たれた窓。揺れ動くカーテン。カモメの声。

 父と母はベッドの上で、抱き合っていた。


 夢か現実かよく分からない記憶。

 五条にそれとなく、そういう場所がないかたずねた。海の近くで、居間と寝室と台所がワンフロアにある小さな家。

 綾瀬家所有ではないが、父個人が持つ別宅として、それは確かに存在すると。

 オレはいつしか、夢に見るようになったんだ。その部屋で、礼央れおと抱き合うことを。

 今でも。


「広い」

 彼女は部屋に入って最初に、そうつぶやいた。

 日中とは言え冬なので、記憶と同じに窓を開けることはできない。暖房は、ここへ来たときすでについていた。

「別荘なんでしょ。お掃除はちゃんとしてあるのね。管理してる人がいるの?」

 九歳の少女は振り返り、オレにたずねた。

「近くに別の、もっと大きな別荘があって。そこの管理人が、ついでにここも手入れしてくれてるよ」

「このサンドイッチも」

 ソファの前にある透明天板のテーブルには、二人分の昼食が置かれていた。

「うん。五条に電話して、五条から管理人に頼んでもらった」

 つまりオレがここを使ったことは、父たちの耳に入る。確実に。

「おいしそう。食べていい?」

「ああ、一緒に食べよう」

 冷蔵庫を開けると、お茶やジュースなどの飲み物が用意されていた。ポットにはお湯、棚には紅茶のティーバッグ。

「ふんわりしてる、このパン。カツも衣がさくさく」

 優美ユウミは料理長の腕に満足したようだ。

 オレはダージリンに口をつけた。あまり食欲はなかった。

「シャワーを浴びてくるな」

「うん……」

 立ち上がったオレの隣で、優美は緊張しているようだった。


 少し窓を開けて、寄せては返す波の音を聴いた。潮の香りがする、あのときと同じだ。

 見下ろせば白い砂浜。思い出す、オレはその浜で遊んだことがあった。そばでは父と母が見守ってくれていて。

(ここは“家”なのか、屋敷じゃなく)

 バスルームのドアが開く音がして、オレは振り返った。

 ベッドとソファの向こう、バスタオルで体を隠している優美。

「ガウンはぶかぶかで着られなかった」と、苦笑する。

「おいで」

 彼女は床の上をはだしで走ってきた。

 途中はらりと布が落ち、オレは彼女のすべてを初めて目にする。

 抱きついてきた彼女をオレはしっかりと受け止めた。

「見た?」

「うん」

 さわったことはあったから、形は知っていたんだ。

「男の子みたいでしょ」

 優美は恥ずかしそうに。

「かわいいよ」

 オレは優美を、ベッドの中で愛した。


        *


 わたしたちが今日、何をしたか、具体を言葉にするのは控えようと思う。

 ただ隆夫さんはわたしに苦痛を与えることはしなかったし、わたしのことを大切に扱ってくれた。それだけは真実。


 お布団の中で寝息を立てている彼をそのままにして、わたしは床に足をつけ、着てきた服をもう一度着た。

 ポットのお湯はまだ残っている。背伸びをして棚を開け、アールグレイの箱を取った。

(お母さんに連絡しないと)

 こういうことがあったとき、必ず知らせるよう言われている。

 わたしはソファのそばに置いたバッグから、短文メッセージを送れる通信機を取り出す。

『今日、隆夫さんと結ばれた』

 正確には、体と体の結合はしていない。でも心と心は結ばれたんだ。わたしたちはもう戻れないところまで来た、互いのすべてを見せ合って。

(決意の表れ。お互い、この人にすると決めた。愛情の証明)

 隆夫さんはわたしの体を拒絶せず、受け入れてくれた。だからわたしも、彼を体ごと愛した。

 世間一般の基準で考えれば、わたしたちは間違っている。早すぎるんだ、こういうことをするのは。まだ、親に保護されている身分で。

 カップからティーバッグを引き上げていると、お母さんから返信が来た。

『そう、よかったわね。体は何ともない?』

 聞かれたことに返事をする。『大丈夫。痛いことは何もしていないの』

 これでたぶん察してくれる。

「おいし……」

 幸せなんだ、今。

 隆夫さんは、愛をいっぱいくれた。

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