第6話 女の機嫌と期限
宮島 : 同窓会どうだった? みんな来てた?
林 : ふふ……
松野 : あんた良くないわ
林 : なんでだよ
松野 : 結婚してないこと知って喜ぶとか
林 : 「ふふ……」しか言ってないだろ
宮島 : ということは
松野 : 「あいつらやっぱ結婚してなかったぜ、俺の言った通りだろ、どうだ、見たか、ふふ……」だろ
林 : 「みんな来てたよ! 楽しかったよ! ふふ……」かもしれないだろ
松野 : それならそう言えよ。なんだ、「ふふ……」って
林 : いやマジで喜んではいないよ。俺だって寂しい独身なんだから。ただ、美人は結婚遅れる説は立証されたなっていう
宮島 : 本当にみんな独身だったの? あの五人全員?
林 : そうなんだよ。今更善人ぶるつもりないけど、ちょっと罪悪感さえあったわ
松野 : うそつけ。よしって顔してたぞ。よし顔。
林 : なんだ「よし顔」って。人が結婚してないの聞いてよし顔とかないだろ
宮島 : 普通に聞いたらピュアだけどね
林 : ピュア?
宮島 : 「俺にもまだチャンスが!」
松野 : そうだよ。誰かとくっつけば良かったじゃん。野郎だらけの二次会なんか来てないで
林 : 奴らは金持ちにしか興味ねえよ
宮島 : この期に及んでひどい
林 : 実際そうだったんだって。なあ松野
松野 : たまたま仲の良いのが金持ちになってただけじゃね
林 : 違うね。明らかに稼いでそうなやつのとこばっか行ってたね。他の女子たちと「やあねえ」って言ってたもん
宮島 : 他の女子の証言あり?
林 : 証言まではしてないけど、「相変わらず分かりやすいなあ」って細田が言ってたのを俺は聞き逃さなかったぞ
宮島 : 秀才細田さん! カッコよかった。
林 : 細田が言ってると信憑性あるだろ
松野 : 全然知らなかった。それで、そこの会話に入ってったん?
林 : 細田はすぐ酒取りに行っちゃったけど、俺がすぐ入ってって、そこにいた女子たちに「やあねえ。ねえ?」って同意求めてみた
松野 : したら?
林 : 苦笑いしてたよ
松野 : 微妙なラインだな
林 : 確定だろう。みんなそう思ってたって
宮島 : 多分細田さんの発言は、男がいない前提で放たれたものだから、リン氏が来て戸惑ったのでは
林 : まあそんなとこだろうな
宮島 : 細田さんとか、西高神ファイブとか、みんなお変わりなく?
松野 : あんま変わんないかな? 横山はちょっと太ってたな
林 : 三十四歳って考えればキレイな方だろうけど、横山は確かにあれだったな
宮島 : 体型変わると印象変わるからね
林 : 男の場合は太るに加えて、ハゲるもあるからな
松野 : 二人くらいいっちゃってるのいたな
林 : 松野入れて? 入れないで?
松野 : 俺はまだセーフだろ!
林 : 髪型でうまくごまかしてるな
宮島 : その五人はリン氏から見てどうだった?
林 : そういう目線で見ちゃってたのもあるかもしんないけど、正直、必死には見えちゃったね。
宮島 : 必死?
松野 : 金持ちっていうか、イケメンとは常にいたな
林 : だろ? 悪いけど、下手くそなんだよ
宮島 : 下手とは
林 : そんな簡単には行きませんよと。なんつーのかな、「小手先で、できると思うなサラダの取り分け」みたいな
松野 : 標語か
林 : 無理だって即席じゃ。慣れてないもの。甘やかされて生きてきたんだから。
松野 : めっちゃ言うじゃん
林 : そこなんだよ松野くん
松野 : なんだよ
林 : 男が言うと「めっちゃ言う」「ひでえ」とかなるだろ?
松野 : なるね
林 : じゃあ男がよ? 母親にずっと甘やかされて生きてきたマザコンだったらどうよ。常にママがいないとだめって。
松野 : そりゃ女は嫌がるな
宮島 : 女子は絶対嫌がるよね。彼女の手料理を「母親の方が……」って言うの絶対タブーだって
林 : だろ? こっちはタブーだらけなんだよ。マザコンはキモいだの散々言われるけど、お前も男に甘やかされてきたから、なんにもできねえじゃんって言ったら一発アウトだろ?
松野 : 確かに言えないけど、みんなうっすら思ってはいるわな
林 : そうでしょう松野くん。あなたも洗脳されてるんですよ。目覚めろ!
松野 : あんたが変な宗教入ってんじゃねえのか
林 : だいたいあの上っ面イケメン衆だって、二十代の気が利く女子が世の中にたくさんいることくらい知ってんだからさ。合コンだのマッチングアプリだのも、してるんだろうしさ。
松野 : いいなあ独身
宮島 : でもそうすると、美人はどうすればいいんですか先生
林 : チヤホヤされても、それを自分の力だと信用しないことです。永遠でないことも知りなさい。受け身の生き方をやめ、能動的に生きることです。
松野 : でも、キレイな子は襲われたりするから危なくね。積極的すぎると。
林 : 危険なところには近寄らないことです。
松野 : そらそうだけど
林 : 能動的に生き、危険なところには近づかないって、みんな普通にしてることなんだよ。それをせず大人になれちゃうのは美人だけ。回りがなんでもしてくれるし、自分は特別って信じてるからクラブだのなんだのアホみたいに出入りして変な男にやられてひどいって泣いてんだよ。半分はお前にも原因あるだろって
松野 : ああ。なんか言ってたな。夜中電話かかってきたって
林 : そうだよ。先輩の家に呼ばれて行ったらそういうことされそうになって、結局口でしたって。「良い人だと信じてたのに」って泣いて電話してきて、バカかお前って。
宮島 : 友達の女の子?
林 : 大学のときのね。
松野 : その子も可愛かったん?
林 : 可愛かったね。どうせなら俺としろよな。
宮島 : そこまで言ったの?
林 : さすがに言わなかったけど。でもなんか腹立ってさ、そのクソ先輩も、そのクソに呼ばれて行くそいつにも。泣いて俺に電話してくるとこも全部。だから、お前が悪いってボロクソ言ったね。もうこいついいやと思って。
宮島 : 泣きっ面に蜂
松野 : ひでえ奴だ。ネットで炎上させよう
林 : 私が電話すれば誰かしら慰めてくれるだろうって考えも腹立たない? 本当に甘やかされて生きてきてるなって。
松野 : でもそこで優しくすれば付き合えたんじゃね
林 : 一瞬思ったけど、しなかったね。偉いだろ。性欲に勝ったんだぞ俺。これ人類初らしいよ。
松野 : なわけ
宮島 : 二次会もあったの?
林 : んー、なんか適当にバラけて。
松野 : ほとんど田崎の話だったけどな
宮島 : 田崎くん? なんで?
林 : ミヤジそろそろ寝なくていいのか
宮島 : ん――、ここはひとまず退散




