第28話:新国家『アイアン・ワークス』建国宣言。
「……ふふ。ようやく、本番環境の準備が整いましたわね」
アイアンの最上層、新しく増設された中央管制室。
私は、磨き上げられたクリスタルの窓から、眼下に広がる真っ白な大地を見渡した。
そこには、かつて「無能な王宮」が鎮座していた場所はない。
代わりに、アイアンが物理的に解体し、再構築した強固な石畳と、夜空を貫くような魔導の街灯が、幾何学的な模様を描いて輝いている。
「店長、全セクターへの給電確認。……電圧、安定。……温水供給、正常。……全住民の幸福度、計測限界を突破。」
リタが無機質な声で、建国の成功ログを読み上げる。
アイアンの背中と、その周囲に広がる新市街には、いまや数万人の移住者がひしめき、誰もが「温かさ」と「清潔さ」という麻薬に酔いしれていたわ。
私は、アイアンの全拡声システムを起動し、マイクを手に取った。
(……あら。女王なんて古臭いロール、私には似合いませんわ。
私が欲しいのは、誰からも邪魔されず、最高の効率で世界を保守点検し続ける権利だけ。
この国の名前は、血筋や領土ではなく、一つの機能として定義させていただきますわ)
「――親愛なる、私の共同作業者たちよ」
私の声が、アイアンの咆哮を思わせる重厚な音圧で、荒野の果てまで響き渡った。
作業の手を止め、祈るようにアイアンを見上げる元職人たち。
そして、瓦礫の陰で震えながら、自分たちの居場所がどこにもないことを悟ったエドワードたち。
「本日、この場所をもって、旧王国『エストラード』の全プロセスを終了させますわ。
これより立ち上がるのは、感情や伝統というバグを排除した、論理と技術の結晶。
新国家――『アイアン・ワークス』。私はその最高執行責任者として、ここに建国を宣言いたします」
ドォォォォォンッ!! と、アイアンの肩部から色鮮やかな魔導火花が打ち上げられた。
それは祝祭の合図であると同時に、旧時代の強制終了を告げる音。
「この国において、貴賎や血統という隠しパラメータは存在しません。
評価基準はただ一つ。この世界をより美しく、より効率的に最適化できる能力があるかどうか。
有能な者には、最高の設備と、温かい食事を約束しましょう」
「「「リゼ様! アイアン・ワークス万歳!!」」」
民衆の地鳴りのような歓声が、アイアンを揺らす。
(……ふふ。見てくださいな、エドワード。
貴方が『専門用語が多すぎる』と捨てた私の言葉が、いまや新しい国の憲法になりましたわ。
貴方の愛した『聖女の奇跡』は、私の作った『全自動洗濯機』の便利さにさえ勝てなかった……。それが現実ですのよ)
ふと視線を落とせば、街の外周で、ボロ布を纏ったエドワードと聖女が、門番のヴィンセントに追い払われているのが見えたわ。
「……頼む、中に入れてくれ! 私は王太子だぞ! パンを、一切れでいいから……!」
「……ああ、私の愛……。私の愛で、お腹が膨れないのはなぜなのぉぉっ!」
ヴィンセントは、鼻を鳴らして巨大な盾で道を塞いだ。
「悪いな、元王太子さん。ここは実力主義の国だ。
『祈り』しか能がない無能な居候を入れる枠なんて、うちのデータベースには存在しねぇんだよ。
……あっちのゴミ捨て場なら、まだ前の王宮の瓦礫が残ってるぜ? せいぜいそれを磨いて凌ぎな」
冷たく閉ざされる重厚な鉄門。
エドワードは、自分がかつて「ゴミ山」へ追放したリゼ様が、いまや自分を「ゴミ」として物理的に除外した現実を、絶望と共に噛み締めていた。
「……さあ、リタ。フランカ。お祝いの準備をなさい。
カツサンドは一万食。アイアンの排熱をフルに使って、最高の品質で提供するのよ」
「了解。……今夜はサーバー、パンクさせちゃうわよ。」
「ふふ。……不衛生な過去とは、これでお別れですわね」
アイアンが「ゴゴッ」と、新しい時代の起動を祝うように、力強く重低音を響かせた。
吹雪はやみ、朝陽がアイアンのテフロン装甲を黄金色に染め上げていく。
工作令嬢による、物理的な新世界構築。
バグのない、完璧にメンテナンスされた未来が、今まさに稼働を開始したのだ。




