第27話:アイアン、王都の残骸を再構築
「……さて。ゴミの分別は終わりましたわ。次は、この不毛な大地を耕し、新しい世界を立ち上げますわよ」
アイアンの観測デッキ。私は、エドワードが膝を突き、雪に埋もれていく崩壊した王宮を見下ろしながら、冷徹に次の工程表を広げた。
あとに残されたのは、凍てついた石材と、機能不全を起こした魔導回路の残骸……。
けれど、一流のエンジニアである私にとって、これらはただの廃棄物ではありません。
新しい時代を築くための、最高の再生素材なのです。
「ヴィンセント! アイアンの腕を解体モードへ切り替えて。王宮の残骸を根こそぎ粉砕し、土台の石材として再利用してちょうだい」
「了解っす、店長! 壊して造る、これこそ職人の快感だぜ!」
「……ふふ。……鉄筋と石材、私が選別しておくわ。……不純物は、一粒残らず排除よ。」
アイアンが「ゴゴッ」と、主の野望に応えるように重低音を響かせた。
巨大な重機腕が、かつて権威の象徴だった王都の城壁を、まるで積み木を崩すように物理的に解体していく。
バリバリ、という石材の砕ける音が、古い世界の終焉を告げる鎮魂歌のように響き渡ったわ。
(……ふふ。感情で塗り固められた歴史なんて、物理的な質量の前には無力ですわね。
大事なのは、過去を懐かしむことではなく、その残骸からどれだけの価値を抽出できるか……。
これこそが、私の提唱する合理的統治の基本ですわ)
アイアンの背中から、移住してきた何千人もの職人たちが身を乗り出して、その光景を眺めていた。
彼らの瞳には、恐怖ではなく、かつて自分たちを虐げた旧システムが、新しく美しい資材へと生まれ変わっていくことへの、静かな熱狂が宿っている。
「ラモン、フランカ。基礎工事の準備はいいかしら?」
「……はい、店長! アイアンが砕いた石材に、私が精製した魔導セメントを流し込みます! これで、千年経っても劣化しない土台が完成しますよ!」
「あらあら。下水処理の配管も、私が完璧にレイアウトしておきましたわ。ふふ、不潔な過去はすべて土の下へデリートして差し上げますわね」
アイアンの巨大な足が、雪原を力強く踏み固めていく。
そこに、解体された王宮の石材が敷き詰められ、魔法と物理法則が融合した、かつてないほど強固な拠点が姿を現し始めた。
中心に据えられるのは、王座ではなく、全てのインフラを制御する中央管制室。
そこから、温かな熱と、透き通った水と、永遠の光が、網の目のようにデプロイされていく。
「……店長、第一層のコンクリート打設、完了。……魔導ネットワークの疎通確認も正常。……新世界の基本OS、立ち上がった。」
リタの報告を聞きながら、私はアイアンの肩から、新しく生まれ変わった大地を見渡した。
かつて私を「ゴミ山」へ追放した者たちは、いまや更地になったこの場所で、雪を凌ぐためのテントさえ持っていない。
王太子だったエドワードは、自分が捨てた「ガラクタ磨き」が、そのガラクタで自分の家を丸ごと呑み込み、全く別の怪物に変えてしまったことを、震えながら見ているしかなかった。
「……リゼ……あれは、私の……私の王都……」
「いいえ、エドワード様。それはもう、貴方のディレクトリではありませんわ。
これは私の制作物。……無能な運営者が入り込む余地のない、完璧な論理性に支配された世界ですわ」
私は、アイアンの操縦席で、新しい国の初期化を完了させた。
吹雪はやみ、雲の間から差し込む月光が、アイアンの銀色に磨かれた装甲と、新しく敷かれた舗装道路を白く照らし出す。
「さあ、皆さん。テスト・ランは終了よ。
次はいよいよ、全ユーザー……いえ、全住民へ向けて、この国の本番リリースを執り行いますわ」
アイアンが、主の言葉に呼応するように、夜空の果てまで届く祝砲を放った。
工作令嬢による、物理的な再構築の果て。
新しい国家『アイアン・ワークス』の産声が、静寂の荒野に力強く響き渡ったのだ。




