第24話:仕様外動作の自壊。
「……あら。カウントダウン、終了ですわね」
アイアンの観測デッキで、私は手にしたティーカップをソーサーに戻した。
モニターの中、王太子の駆る魔導巨砲『ジャッジメント』の砲身が、不気味な七色の光を発しながら膨張あがっている。
それは魔力が正しく収束している輝きではない。行き場を失ったエネルギーが、脆弱な回路を内側から焼き切り、装甲を溶解させている断末魔の光よ。
「店長、くる。……臨界点突破。……構造維持限界、マイナス三秒。……さよなら。」
リタが無機質な声でカウントを刻む。
次の瞬間、アイアンの巨大な指先から放たれた超高周波が、兵器の最も脆い「接合部」を優しく叩いた。
――パキンッ。
静かな、けれど決定的な亀裂音が戦場に響き渡った。
「な、なんだ!? 何が起きた! 聖女、もっと出力を上げろ! 撃て! 早く撃たんかぁぁ!」
「無理です、エドワード様ぁ! 愛が……私の愛が、逆流してきますわぁぁっ!」
聖女の悲鳴と共に、禁忌兵器の安全弁が次々と吹き飛んだ。
私が検収を拒否した際、ハッキリ言ったはずよ。「魔力の同期プロトコルが未完成だ」と。
それを無視して、無理やり聖女の高出力を流し込んだ結果が、この全システム停止からの自壊よ。
ドガァァァァァァァァァンッ!!!
轟音と共に、王国の誇る『ジャッジメント』が大爆発を起こした。
破壊の光はアイアンへ届くことなく、その場にいた騎士団と王太子を、目も開けられないほどの衝撃波で飲み込んだわ。
「ぎゃあああッ! 熱い、熱いぞ! なぜだ、なぜ私の兵器が、私を攻撃するんだぁぁ!」
爆風に吹き飛ばされ、泥まみれになって雪原を転がるエドワード。
黄金の鎧は煤け、自慢の金髪は熱で縮れ、かつての威厳など欠片も残っていない無様なログに成り果てていた。
「……あら。自分の足元が燃えているのに、まだ理由が分かりませんの? 仕様書を読まず、保守点検を怠り、現場の声を無視した……その全ての累積エラーが、今、貴方の目の前で爆発しただけですわ」
アイアンの拡声スピーカーを通じて、私の冷徹な声が戦場に響き渡る。
逃げ惑う騎士たち、腰を抜かす聖女。彼らが信じていた「奇跡の力」は、物理法則という名の冷徹な正論の前に、無惨に砕け散ったのよ。
(……ふふ。未完成品を本番環境で無理やり動かせば、こうなるのは必然。
エンジニアを軽視し、感情論で現場を回そうとした管理者の末路として、これ以上の教育的指導はありませんわね)
「ヴィンセント。残務処理をお願い。泥まみれの騎士さんたちを、アイアンの高圧洗浄で街道の果てまで押し流してちょうだい。汚れは不具合の元ですからね」
「了解っす、店長! 根こそぎピカピカにしてやりますよ!」
アイアンの指先から、超音速の氷水が噴射される。
爆発の熱で意識を失いかけていた兵士たちは、容赦ない冷却洗浄によって体温を奪われ、文字通り泥人形のように転がっていった。
「エドワード様ぁ! 待ってください、私を置いていかないでぇ!」
聖女が泣き叫びながら、這いつくばって逃げる王太子の足を掴む。
だが、恐怖で思考停止したエドワードは、その手を冷酷に蹴り飛ばした。
「うるさい! 全ては貴様の祈りが足りないせいだ! この無能な女め! 離せ、私は王都へ戻るんだ!」
(あらあら。醜いリソースの食い合いですわね。
責任をなすりつけ合い、互いをデリートしようとする……。そんな腐った運営では、国という巨大なシステムを維持できるはずがありませんわ)
私は、アイアンの操縦桿からそっと手を離した。
戦場には、もはや私を脅かすプロセスは存在しない。
残されたのは、真っ白な雪原に刻まれた、王都の完全敗北の記録だけ。
「リタ。王都の状況は?」
「……最悪。……禁忌兵器の爆発で、王都に繋がる魔力ラインも道連れに焼き切れた。……王都は今、本当の完全停止に入った。」
「ふふ。……いいわ。再起動の準備を始めましょうか」
アイアンが「ゴゴッ」と、新しい時代の幕開けを予感させるように、誇らしく重低音を響かせた。
王宮が自滅し、民衆が絶望する今こそ、私が温めてきた新国家建設を、一気に実装する時ですわ。




