第22話:王都の職人たちに移住の招待状を送る
「……さて。営業妨害は済みましたわ。次は、本格的な要塞化に取り掛かりますわよ」
アイアンの咆哮による余熱が冷めやらぬ観測デッキ。私は、プフがゴミ山から掘り出してきた特級防護鋼材の在庫リストにチェックを入れた。
先程の衝撃波で、王都の防衛意識はズタズタなはず。けれど、追い詰められた無能ほど、往々にして仕様外の行動に出るものですわ。
迎撃の準備を納期より一週間早く終わらせるのは、プロの現場監督として当然の嗜みです。
「ヴィンセント! その追加プレート、アイアンの胸部関節に合わせて溶接してもちょうだい。ラモン、貴方は衝撃吸収回路の再設計。――一分一秒を惜しんで動きなさいな」
「了解っす! 店長、これ一枚で城門くらいの厚みがありますよ! 溶接の火花が最高に眩しいぜ!」
「……ひいっ、また物理法則を無視した剛性。店長、これじゃ移動するホームセンターじゃなくて、移動する鋼の要塞ですよ!」
従業員たちが活気づく中、私はハンスを呼び寄せた。
彼はすでに、私の指示通り次のフェーズへの準備を整えている。
「ハンス。王都の進捗はどうかしら?」
「ええ。アイアン様の咆哮で、王宮の権威は完全に失墜しました。エドワード様は『呪いだ』と喚き散らしているようですが、民衆はもう気づいています。――王宮の祈りには、自分たちを救う出力がないことに」
「絶好の引き抜き時ね。……これを持っていきなさい」
私が手渡したのは、王宮が好むような金糸で縁取られた豪華なカードではない。
リゼ特製の、魔導体温計を内蔵した「移住の招待状」よ。
このカードが青く光っている間は、アイアンのビーコンを受信し、どんな吹雪の中でも迷わずここに辿り着けるよう設計してあります。
「これを、王都で燻っている腕利きの職人たちに配ってちょうだい。……内容はシンプルよ。『ここでは、二十四時間の適正温度と、清潔な工房、そして温かいカツサンドが約束されている』……とね」
ハンスが招待状の内容を読み、ゴクリと唾を呑み込んだ。
「……お嬢様。これ、招待状じゃなくて抗えない命令ですよ。この地獄のような王都で、これを見て拒める人間なんて、死人だけです」
(……ふふ。感情で訴えても人は動きませんわ。でも、『温かさ』と『食事』という、生存に不可欠なインフラを提示すれば、優秀な人材ほど合理的な判断を下すもの。王宮がプライドを守っている間に、私は国の土台をすべて奪い去ってあげますわ)
「ハンス。特に配管工と魔石研磨師を重点的に集めてちょうだい。私のアイアン、まだまだ拡張予定が余っていますのよ」
数日後。
漆黒に沈む王都の門からは、夜陰に乗じて、工具箱を抱えた男たちが一人、また一人と姿を消していった。
彼らが目指すのは、北の空に煌々と輝く、不沈の聖域。
アイアンの背中には、新しい居住区と工房が次々とビルドされ、さながら「動く国家」のような様相を呈し始めていたわ。
かつてゴミ溜めだったアイアンの甲板は、今や王都のどんな高級住宅街よりも清潔で、機能的で、そして温かい。
一方、王都の闇市。
「……おい、聞いたか? 北の森に現れた『光の城』では、焼きたての白いパンが食べ放題らしいぞ」
「ああ。あそこなら、凍えて死ぬ心配もない。聖女の祈りを待つより、俺はあの光を追いかけるぜ」
口コミによって広がる希望は、王宮の圧政というバグを次々と塗り替えていく。
「……さあ、準備は整いましたわ。王太子様。貴方の国から、動くものも、動かす知恵も、すべて消えた時……その王冠に何の価値があるか、お教えして差し上げますわ」
アイアンの胸部には、リゼが自ら溶接した強化装甲が鈍く輝いている。
主を侮辱した世界を解体し、再構築するための、冷徹な侵略者としての威容。
その時、リタがモニターを凝視した。
「店長。……王宮から、重い反応が出た。……あの商人が言ってた禁忌兵器、出撃準備に入ったわよ。」
「あら。ようやく動作テストのお時間かしら。いいですわ、迎え撃って差し上げましょう」
アイアンが、主の言葉に呼応するように「ゴゴッ」と重低音を響かせた。
工作令嬢による、物理的な構造改革の第ニフェーズが、今まさに幕を上げた。




