現実なくして虚構なし
宇宙ダムのある世界でこんしまちゃんは、魔女の隣にいる男の子に話しかけた。
「メーユくん……」
「あんた、なんでオレの名前知ってんだ」
「しまった」
あたふたするこんしまちゃん。
でもメーユはあきれたように笑った。
「なんてね。もうキランから全部聞いてるっつうの」
「キラン……?」
「恥ずかしながらわたしの名前です」
宇宙使いの魔女が顔を赤らめている。
彼女の名前に驚いているこんしまちゃんにメーユが続ける。
「こんしまちゃんはいろんな人に転生することができて、オレんなかにも入ったことがあるんだってな。いつぞやの臍帯者のなかにも、初めて宇宙ショーに成功したキランのなかにも入ってたって聞いてるぜ」
「ごめんね……メーユくん。きみをだましている感じにもなっちゃってたね……」
「気にすることねえっての。そんなの大したことないんだからさ」
キラキラと目をうるませる。
「こんしまちゃんはウチの母ちゃんやキランみたいに宇宙を滝のように落とせねえだろ」
「そうだね……できない」
「じゃあ、やっぱり大したことねえわ! だから沈んでんじゃねえよっ」
「ありがとうメーユくん……」
こんしまちゃんは目線の高さを合わせてほほえんだ。
そのあと、以前転生したことのある狩人の息子と臍帯者がいないかあたりを見回すこんしまちゃんだったけど、2人の姿は見つからなかった。
* *
こんしまちゃん、かみしゃま、シマッタ王がアルベスのいる墓かぶりの世界に戻る。
ミズキは宇宙ダムに興味を持ち、メーユとも仲よくなっていたのでいったんそっちの世界に残してきた。
アルベスのそばにミカと闇のマンガ家が立っているが、犯罪者として取り調べを受けている勇者はこの場にはいない。
報告を受けたアルベスが、紫色のイスに座ったまま足を組む。
「そうか。シマッタ王の世界が面食いと宇宙ダムの世界に結合したのだな」
「これで残る世界は、境界空洞をのぞいて3つだ」
シマッタ王がうなずいた。
あらためて、ナビゲーターを追い詰めるための策をみんなで話し合う。
計画の骨子は、すでにシマッタ王とアルベスが決めていたことだ。
その作戦でいこうとかみしゃまも同意した。
「これまで、ボクはナビゲーターのものとおぼしき『しまった』を感知できなかった。つまりナビゲーターはボクやミズキのもといた世界にいるということ。今からボクもそっちに行こう。ちょっとだけなら世界観的に矛盾が出ることもないだろうし」
それから、作戦に参加するこんしまちゃんと闇のマンガ家に声をかける。
あんまり大人数で押しかけるとナビゲーターに察知される可能性がある。
また、つよつよ主人公を連れていけばナビゲーターが全力で逃げるだろうからミカもお留守番だ。
空間の切れ目に入るために紫の大地を移動する。
道中、こんしまちゃんは懐かしい顔を見た。
ミカと同じ十字のお墓をかぶったシュライクお父さんと、赤ん坊をかかえたメイお母さんである。
赤ん坊も立派な十字のお墓をかぶったまま目をあけていた。
さらに、直方体のお墓を帽子にしている少女が指をポキポキ鳴らしながら口笛を吹いている。
指の音でリズムを取りつつ、口笛を赤ん坊に聞かせているのだ。
立ち止まり、遠目に様子をうかがうこんしまちゃん。
アルベスが後ろから小声でつぶやく。
「キサマは暴力を用いることなくオレに影響を与え、グレイブ・キャップとグレイブ・ハットの関係を変えるきっかけとなった」
十字のお墓がキャップ側であり、直方体のお墓がハット側である。
「ミカの体を借りているときは、殺しのない殺し合いについてずいぶん理屈をこねくりまわしてくれたな。だがそのときに伝えたとおり、オレは説得されはしなかった。分かっているとは思うが、心は理屈で動くものじゃねえ。それこそオレのような偉大な王なら話は別だが、凡百の者たちはそうもいかない。大団円という虚構じみた結末があるとすれば、それは薄っぺらな理屈ではなく確固とした現実の先に存するはずだ」
「心に刻みます……アルベスさま」
こんしまちゃんは、アルベスに心の奥底を見抜かれているような気がした。
* *
精霊人種の世界に入ったかみしゃまは、体にまとった炎や水を震わせた。
「捉えたよ」
緑の風を飛ばし、こんしまちゃんと闇のマンガ家の体をふわりと持ち上げる。
そのまま、水の粒をつけた小麦畑を越えてぐんぐん進んだ。
到着したのは、赤茶色の不毛の大地。
そこに、幅10メートル以上の大きなくぼみがあった。
中央にはコウモリの翼を生やしたナビゲーター……キマイラ町娘さんが立っている。
「わざわざそっちから思い出の場所にやって来るとは感慨深いですね、こんしまちゃん」
キマイラ町娘さんがいるのは、バロメッツに転生していたこんしまちゃんが巨大オオカミに食べられた場所である。
ついで、こんしまちゃん以外の2人にも目を向けた。
「かみしゃまと……おや、闇のマンガ家も一緒じゃないですかー。さては打ち切り続きでマンガ家クビになっちゃったんですね」
「いえ、今は大ヒットを飛ばしています」
闇のマンガ家は頭のハチマキを巻きなおした。
「マンガ家ならどんな逆境のなかでも自分の力でマンガを完成させるべき――っていう、あなたの言葉にも励まされましたよ」
「あっそ。追い詰められている今のワタシにも刺さりますね」
話しながらも、キマイラ町娘さんはかみしゃまのほうを警戒していた。
案の定かみしゃまが体当たりを仕掛ける。
外見は子どもだが、風圧だけであたりの土がひっくり返る。
キマイラ町娘さんは間一髪で突進をかわした。
瞬間、黒くて太い線が地面に浮き出た。
マンガのコマのような図形ができ、そのなかに町娘さんが吸い込まれる。
続けてこんしまちゃんもコマのなかに飛び込んだ。
だれもいない、高校の教室に着地する。
以前にもお世話になった打ち切りマンガの風景に似ているけれど、それは闇のマンガ家の画風のせい。
正確には別のマンガの世界である。
机を挟んだ真正面にキマイラ町娘さんの金髪と青眼があった。
「シマッタ、闇のマンガ家の仕業ですね」
町娘さんとこんしまちゃんそれぞれの隣には手鏡が浮いており、計2つの鏡面が青緑の光を放っている。
「しかもヘイトシグナルの設定を再利用するとは。赤くなったら本人が消えるヤツじゃないですか。まずい……っ」
しかし町娘さんはうつむいたあと、急に笑いだした。
「なんてねっ」
机に両手を置き、困惑するこんしまちゃんに向かって前かがみになる。
「すでに知ってましたよ。始めからこんしまちゃんたちがワタシをマンガの世界に引きずり込もうとしてたって」
「……ありえない」
「こういうところは察しが悪いですねー。そもそもワタシが子ども状態のかみしゃまをかみしゃまと呼んだ時点で気づかなきゃ。ワタシはチョウの姿のかみしゃましか見ていなかったはずなんですよ」
「……し」
いつものヤツがこぼれそうになったので、こんしまちゃんはとっさに口を押さえた。
* *
☆今週のしまったポイント:1ポイント(合計29ポイント)
次回「打ち切り」に続く!?




