宇宙を食べる者がいて、なにも食べない者もいる
こんしまちゃん、かみしゃま、ミズキ、ミカは再びポッドに乗り込み、勇者を連れてアルベスやシマッタ王のもとに戻ってきた。
そこは紫の大地。
対ナビゲーター用の作戦を考えていた2人のそばには、闇のマンガ家もいた。
アルベスはこんしまちゃんやミカをねぎらったあと、勇者に目を向ける。
「ぶっ飛ばされておきながらピンピンしているとはタフなやつだな。ともあれ、来たからには協力してもらうぞ」
「……あなたはアルベスさんでしたか。はい、もちろん協力します。そして、この場にいるみなさんに謝ります。すみませんでした」
勇者はていねいに頭を下げた。
その後、心配そうにアルベスを見返す。
「あなたの墓の下敷きになったみんなはどうなりました」
「そいつらならすでに復活させた。無論、この墓かぶりの世界を強制的にくっつけたあとにこんしまちゃんたちが蹴散らした魔王軍の手当ても済んでいる」
「それはありがとうございます」
「オレが寛大で助かったな。――と言いたいところだが、実は背中にコブのある世界の裁判所が勇者魔王であるキサマに執行猶予をつけてくれたのだ」
すでに判決が出ていることは驚きだけど、思い出してみれば闇のマンガ家が出廷したときもかなりハイスピードな裁判がおこなわれた。だから、まあそんなものなのかなと思いつつこんしまちゃんは2人の話を聞いていた。
「実際、人的被害は出ていなかったからキサマの罪も軽くなったというわけさ」
「……それで、いいんでしょうか」
「ほかの世界に攻撃を仕掛けたキサマがなにか文句を言える立場か? 黙って判決を受け入れろ」
「はい……」
勇者は、まだ気持ちの整理ができていないようだ。
しかしアルベスはなぐさめたりせず、それ以上の言葉をかけなかった。
ここでシマッタ王がこんしまちゃんに視線をやる。
「頼みがある。宇宙使いの魔女と話をさせてほしい」
「画面越しに話すんですか……?」
首をかしげるこんしまちゃん。
「それとも、境界空洞を通って直接魔女さんの世界に……?」
「ならボクが空間の切れ目に案内するよ~」
かみしゃまが元気に手を挙げる。
でも礼を言ったのち、シマッタ王はかぶりを振った。
「今回はこの世界にとどまった状態で会話がしたい。これはわたしの勘だが……向こうは今、異世界人を警戒していると思う」
「……分かりました、シマッタ王」
こんしまちゃんは以前にやった異世界間リモート会議のときのように2ポイント支払い、この世界と宇宙使いの魔女の世界の様子をそれぞれ地面に映した。
そのうえでアルベスに頼み、この世界を映す画面に墓石を落としてもらう。
追加で10ポイント払い、魔女の世界にその画面を転生させた。
これで異世界間における会話が可能になる。
シマッタ王が、画面に映った宇宙使いの魔女に声をかけた。
「聞こえているか、わたしはシマッタだ」
『初めまして。シマッタさまのことは聞き及んでいます。……アルベスさまもお久しぶりです。コンポテさんも』
魔女はミカのことをこんしまちゃんと思ったみたいだけど、当のこんしまちゃんがその認識を修正した。
今の自分はミカの体に転生していないと説明する。
さらに、以前はチョウだったかみしゃまが今は子どもの姿になっていることにも言及した。
魔女の隣には男の子のメーユもいた。
『え、どうなってんだ。これすげえな!』
「あ、そっちのやつもそう思うのかよ。クリヤベえよな」
同じく興奮しているミズキが応じた。
とはいえ画面は永遠に表示されるわけじゃないので、シマッタ王が魔女に話題を切り出す。
「率直に尋ねる。あなたのいる世界では、世界合体の許可がまだ下りていないのではないか」
『慧眼ですね、シマッタさま』
深刻そうに魔女が答えた。
『実はそうなんです。どうしてか分かりますか、こんしまちゃん?』
「わ、わたし……?」
いきなり話を振られて内心あせったこんしまちゃんだったが、冷静に自分の意見を述べてみる。
「みんなシャイだから……?」
『少し違います』
「しまった」
『あ、やっぱりコンポテさんですか』
あえて魔女がこんしまちゃんに質問したのは、「しまった」と言わせてこんしまちゃんの正体を確定させるためだったようだ。その「しまった」を聞いて、どこかメーユもそわそわしている。
そして魔女はシマッタ王に同じ質問をくり返した。
シマッタ王がすぐに返答する。
「あなたたちの世界が異世界との合体をためらっているのは、食生活の違いを恐れたからではないか」
「見抜きましたか」
宇宙使いの魔女によると、面食いのいた世界と合体したあと食文化の差異にみんなが戸惑っているとのこと。合体したてのころはあんまり気にしていなかったけど、こういう食生活の違いはじわりじわりと意識されていった。
もともと宇宙ダムのある世界では、臍帯者もそうでない人も宇宙を主食としていた。
が、面食いのいた世界では狩人がたくさんいて、肉や魚をもりもり食べる。
おまけに面食い自体は仮面を食すわけだ。
『今のところはなんとかうまくやれていますが、自分たちとはまったく違う食生活の人とこれ以上ふれ合うことになれば自分たちの常識が崩れてしまいそうで、とっても怖いんです』
「分かる」
『分かるんですか。そういえばシマッタさまの世界ではタベモノという概念がないそうですね』
「そうだ。だからわたしたちも異世界と合体するのは不安だ」
『タベモノを食べることを受け入れたんですか』
「というより、自分たちにとって安全かどうか確認できるまでタベモノを消費することはないと決めた。だれかがタベモノを食べるのならそれはそれでいい。でもだからといって自分たちまでがその常識を採用する必要はあるまい。相手に合わせることだけが、他者をみとめるすべではない」
かつてシマッタ王は「しまったの行進」を通して「基本的しまった権」を民主派にみとめさせたわけだが、「しまった」と聞かないで済む権利への理解も同時に示していた。
この経験から、共存とは同化を大前提にするとは限らないと結論づけたのではないだろうか。
「他者を肯定するというのは、相手と同じ行動をとることではなく、自分と相手のとる行動が違っていても同じであっても互いをみとめることではないか? 逆に言えば、自分たちをみとめてもらうときだって、相手の行動を無理に変える必要はないということだ」
『シマッタさまは』
メーユの顔をちらりと見て、魔女が息をつく。
『宇宙を食べる者たちや、へその緒から栄養を摂取する人たちを怖いとは思わないんですか』
「不思議だとは思う。だが怖いとは思わない」
『……はい』
「では逆に問うが、よそから見ればタベモノを持たないわたしたちをあなたたちは怖がるか」
『いえ、ただ仲よくやっていけるか不安なだけです』
「ならわたしたちとあなたたちは同じだ。やっていけるさ、互いに自分を押し付け合わずとも」
『……お話、ありがとうございました。シマッタさまから聞いたことを伝えたうえで、みんなともう1度話し合ってみます』
ここで画面が途切れた。
* *
そしてシマッタ王はかみしゃま、ミズキ、こんしまちゃんと共に境界空洞を抜け、宇宙ダムのある世界を訪れた。
「もう直接訪問しても、だいじょうぶだと思う」
そう語ったシマッタ王の前に宇宙使いの魔女たちと仮面をつけた人々が現れた。臍帯者もいる。
みんなでしっかり話し合い、この世界と別の世界とを合体させるのに同意したとシマッタ王に伝える。
それがこの世界のみんなの覚悟だった。
じきに宇宙ダムと面食いの世界が、ビュウビュウと風が吹く世界と合体した。
こんしまちゃんではなく、ナビゲーターが合体させたのだ。
ねらいは、食文化が特殊な世界同士をくっつけて混乱をさそうことだったのだろうが、そのもくろみは失敗に終わる。
あの風がわたしたちの宇宙であり、その向こうに星があるとシマッタ王は言った。
「知りませんでした、こういう宇宙もあるなんて」
宇宙使いの魔女は目を細め、斜め上に広がる新たな世界を目に入れた。
* *
☆今週のしまったポイント:-11ポイント(合計28ポイント)
次回「現実なくして虚構なし」に続く!?




