ビームでもサンダーでもなくテレパシー
こんしまちゃんはかみしゃまやアルベスたちに説明する。
「勇者魔王はつよつよ主人公のわたしにぶっ飛ばされたあと……今は1人で『しまった。なんでこんなことになっちゃったんだろう』とくり返しているはずです。玉座から無理やり下ろされちゃったんですから……その後悔はひとしおかと」
「なるほど。その『しまった』をボクが感知すればいいってわけだね」
かみしゃまが手をたたく。
シマッタ王もうなずく。
「よし、こんしまちゃんとかみしゃまにその勇者魔王は任せる。わたしたちはナビゲーターを追い詰める作戦を考えよう、アルベスどの」
「そうするか。こちらから世界を合体させるにしても、シマッタの世界で意思統一がなされた今、あとは宇宙使いの魔女の承認待ちだけであるしな」
「アルベスどの。積極的な世界合体はこれ以上は危険では。ナビゲーターもこちらが勝手に合体させてくれると予想して、例の今週のしまったポイントを温存する戦略を立てているかもしれない」
キマイラ町娘になったナビゲーターは「もうすぐ決着をつけてやります」と言っていたけれど、このセリフ自体がブラフの可能性もある。
こんしまちゃんたちを焦らせて余計なポイントを消費させ、より有利に立ち回ろうとしているとも考えられる。
意外にもアルベスはシマッタ王の言を素直に聞き入れた。
「ああ。オレもこれからは積極的な世界合体をなすことはないと思っている。ただ、選択肢の1つとしては捨てない。そうであればナビゲーターも警戒して不用意に行動できなくなる。なによりこの世界合体への承認は各世界に住む人間の覚悟を見定める試金石。オレは世界合体の許可よりも、リスクを負ってでも世界を守るという覚悟がほしい」
「そうかシマッタ、それには気づかなかった。わたしは覚悟を持ってきたというわけか」
「このオレを満たすほどのものであるかは未知だがな」
シマッタ王とアルベスは静かに笑い合った。
ここでミズキが体を伸ばす。
「んじゃ、ウチもこんしまちゃんについてくかな」
「待て水の少女」
アルベスがミズキに声をかけた。
「勇者魔王は強敵だ。ゆえに『ヤツ』も連れて行け」
* *
かみしゃまの発生させた緑の風に乗って、こんしまちゃんとミズキとあと1人が上昇する。
空に浮かぶトランポリンの上に乗る。
そこに、燃料切れのポッドが放置されていた。
(ポッドは電気で動かせるんだよね……)
こんしまちゃんはかみしゃまに頼み、小規模レベルで紫の雷を流し込んでもらった。
するとポッドが再起動した。
興奮を隠しきれなかったのか、ミズキがさけぶ。
「おおっ、クリすげえ」
4人がなかに乗り込む。
けっこうきついけど、まあ操縦できないわけでは――。
「って、しまった。わたし、もう駅長さんじゃないから動かせない……」
「ではわたしにお任せを」
そんな頼もしい言葉を発したのは、こんしまちゃんが転生したことのあるつよつよ主人公である。
アルベスの命令により、こんしまちゃんたちに同行することになったのだ。
頭にお墓をかぶっているので存在感も申し分ない。
「初めてですが勘で動かしてみせます」
操縦桿とかをガチャガチャ倒すと、ポッドは浮き上がって宙を飛び始めた。
さすがのこんしまちゃんもおったまげた。
「なんてハイスペック……ともかく操縦ありがとうございます。さすがつよつよ主人公さん……」
「あの、わたしの名前はつよつよ主人公ではなくミカなんですが」
「しまった……すみませんでした、ミカさん」
慌てて謝るこんしまちゃん。
「以前、体を乗っ取ったようなかたちになっていたのも……なんて言えばいいか」
「気にしないでください。わたしはいつだって好きにやってきただけです。あなたの魂と重なるときがあったとしても、わたしの在り方は変わりません」
「やっぱりつよつよ主人公なんですね……素敵です……」
「ただ、アルベスさまが殺し合いを超える王の在り方を見つけたことはこんしまちゃんのおかげだと思っています。わたしはそのとき、明確にあなたの魂に後押しされていると感じていたのです。だからありがとうございました」
ミカは魂もつよつよのようだ。
ここでミズキが不思議そうに言う。
「そういやミカとかみしゃまがガチで戦ったらどっちが勝つんだ。クリ気になんぜ」
「ふふふ、結果は分かりきっているさ」
かみしゃまが自信満々に応じる。
「ボクが負ける」
「負けるのかよ……」
「不死存在ではあっても、別にボクは最強ではないからねー」
* *
かみしゃまのガイドに従ってポッドが進む。
海を越え、無人島に着陸した。
島の洞窟に勇者魔王がうずくまっていた。
最強の防御力を誇るマントを羽織った状態で、最強の攻撃力を持つ杖を両手でつかんでいる。
「シマッタシマッタシマッタ……」
うわごとのように「しまった」をくり返している。
ナビゲーターが「しまった」を食べに来そうなものだけど、その気配はない。過度に反復されているため質が落ちてしまっているのだろう。
彼の前でしゃがむこんしまちゃん。
「勇者魔王さん……」
でも声をかけるだけじゃ勇者魔王のうわごとは終わらなかった。
「本当になんでこんなことになってしまったんだ。みんなが住みやすい世界を作っていこうって言ったのに、なにも実現できなかった。我は……俺はなにをしたかったんだ。結局コウモリくんの言いなりになってすべてを失ってしまった。いや違う。俺が調子に乗ったからだ。勇者魔王という立場におぼれた自業自得の末路だな……」
こんしまちゃんが目の前にいることに気づいていないのだろうか。
よって、強攻策に出るこんしまちゃん。
立ち上がり、両腕をぶらぶらさせる。ステップを踏む。
これは「しまった」と連呼しながら踊る「今週のしまった音頭」である。
洞窟の出入り口からのぞいているミズキたちは若干引いていた。
だがこのしまった音頭が功を奏し、勇者魔王が顔を上げる。
「この怒濤のしまったは……元魔王のこんしまちゃんか」
「やっほー……勇者」
音頭をやめ、こんしまちゃんが勇者魔王に笑いかける。
彼はぷいっと洞窟の奥に顔を向けた。
「俺は勇者でも魔王でもない。ただの遭難者だ」
「もう1度、世界のために戦わない……?」
「そんな気力は失せてしまったよ。これからどうしたらいいか、なにも分からないんだ。俺は勇者の器でも魔王の器でもなかったってことだ」
それから出入り口付近にいるミズキたちのほうにも目を向ける。
前に自分をぶっ飛ばしたつよつよ主人公のミカを見て、勇者魔王あらためただの遭難者は自嘲気味に笑った。
「そもそも俺に頼る意味もないだろう」
「いや、ある……」
こんしまちゃんが断言した。
「……あなたにしか使えない力が」
「そんなのない。俺はめちゃつよビームも覚えていない」
「ビームじゃないよ……」
「じゃあヤバすぎサンダー?」
「サンダーでもない……」
静かにかぶりを振って、その答えを教える。
「テレパシーだよ……」
「……確かにテレパシーはマイナスレベル500万で覚えたけど」
杖をぎゅっと握りなおし、ただの遭難者がこんしまちゃん以外のみんなにも問いかける。
「テレパシーくらい、俺じゃなくても使えるんじゃないの?」
「使えねえよ、クリ嫌味かてめえ」
「ボクもテレパシーは無理なのだ」
「わたしもさすがに口を介さずに意思伝達することはできませんね」
ミズキ・かみしゃま・ミカが正直に答えた。
ただの遭難者は目をぱちくりさせてこんしまちゃんを再び見つめる。
「でもテレパシーなんてなんの役にも立たないぜ」
「いいや……世界を救うためにも勇者さんの力が必要なの。一緒に来てほしい……」
「元魔王のセリフとは思えないんだけど。いや、それを言うなら今の俺の姿こそ元勇者とは思えないよな」
ただの遭難者はよろめきながら立った。
「分かった。どうせ俺はなにもかも失った身だ。だまされたと思ってついていくよ」
「ありがとう……」
「勘違いしないでほしい。別に俺は昔みたいな心を取り戻したわけじゃない。無気力になってしまったから、こんしまちゃんたちになんとなくついていくだけなんだ」
「それでも……助かるよ」
「こっちこそ、頼られたことはうれしかった。いや」
唇を噛み締め、彼がかぶりを振る。
「でも俺を頼っていいのか。俺はこんしまちゃんと敵対し、『死んでもらう』だのなんだの偉そうなこともたくさん言ったのに」
「いいんだよ……だって、元魔王だったときのわたしも……ものすごく偉そうにロールプレイしてたから」
「ロールプレイか。思えば俺たちのいた世界は、なにもかも芝居がかっていたような気がする。そういう世界が俺は嫌いじゃなかった」
ついで彼はミカに近寄り、マントと杖を差し出そうとした。
「この最強装備は、俺よりもあなたにふさわしいと思う」
「いえ、そんなことはありません」
ミカは柔らかい口調でことわった。
「わたしには似合いませんよ。なぜならわたしは、すでにお墓をかぶっています。あなたのほうが、絶対によく似合う」
「……ありがとうございます」
「あ、よかったらてめえ、ウチが洗ってやるからこっち来いよ」
「ありがとう」
ただの遭難者は生まれたままの姿になり、ミズキの水で身を清めた。
薄茶色の初期装備の上にマントを羽織りなおし、杖を持つ。
「もう1度、歩きなおしてみるよ。歩けるのは、少しだけかもしれないけれど」
ただの遭難者――ただの勇者は洞窟の外へと足を出し、光を受けた。
まだ濡れていた黒髪が、歩を進めるたび乾いていく。
* *
☆今週のしまったポイント:2ポイント(合計39ポイント)
次回「宇宙を食べる者がいて、なにも食べない者もいる」に続く!?




