きっかけと集約の不死存在
本来の名前を取り戻し、人間の子どものような姿になったかみしゃまがこんしまちゃんに尋ねる。
「あらためて、キミはどこに向かいたい? ……今はだれと会いたい?」
「全部の世界に行きたいし……みんなに会いたい気もします」
ミズキと一緒に鍾乳洞を歩きつつ、こんしまちゃんが考える。
現在、世界合体によって複数の異世界が再編されている状態。
世界と世界のあいだに存在するこの境界空洞をのぞけば、今や世界は4つだけ。
第1の世界を構成するのは「勇者魔王のいる世界」「闇のマンガ家がいた世界」「背中にコブのある世界」「墓かぶりのいる世界」であり――。
第2の世界は「面食いのいる世界」「宇宙使いの魔女がいる世界」を、第3の世界は「精霊人種のいる世界」「バロメッツのある世界」を合体させてできている。
第4の世界は「シマッタ王のいる世界」だけど、そこだけはまだ別の世界と合体していない。
でもこんしまちゃんはちょっと気になった。
「あの……かみしゃまは『背中にコブのある世界』に似ているけれど人の背中にコブはない……って感じの世界を知りませんか。実はわたし……そこに住んでいたんです……」
世界消滅をもくろむナビゲーターをとめることが今のこんしまちゃんの目標になっているとはいえ、もともと彼女の目的は再転生をくり返してもといた世界に帰ることだった。
境界空洞がこんしまちゃんのもといた世界にも関係しているのなら、かみしゃまがその世界に続く切れ目を発見している可能性がある。
が、かみしゃまは宙に浮いたまま首を横に振る。
「ごめんね。ボクにもその世界は感知できない」
「……そうですか」
「ま、あんましょげんなよこんしまちゃん」
ミズキが照れながら励ましてくれた。
「てめえの名前を見つけられたんなら、てめえの故郷だって見つけられるだろ」
「ありがとう……ミズキちゃん」
肩を落としていたこんしまちゃんが、少し元気になる。
「なぐさめてくれたんだね……」
「ち、ちげえっての。クリっ。んなことより、どこに行きてえかクリ野郎にさっさと言っとけよ」
「うん……」
というわけでこんしまちゃんは、シマッタ王のいる世界に行きたいとかみしゃまに頼んだ。
「もともとタベモノという概念が存在しない世界です……そこに続く切れ目がどこにあるか分かりますか」
「もちろんだよ~。それも、ビュウビュウ風の吹く宇宙じゃなくて、安全な星の1つに出られるから安心して。ほら、こっちなのだ」
かみしゃまは前方の壁面に近づき、消えた。
こんしまちゃんとミズキも同じ場所に突っ込んだ。
* *
こんしまちゃんたちは電車に乗ってシマッタ王のもとに向かう。
初めての電車にミズキはすごく興奮していた。
「クリ不思議だな、どうなってんだこの箱!」
それぞれの世界にはそれぞれの文明がある。
ミズキの生きていた精霊人種の世界からすれば、電車という機構は神秘そのもの。
その神秘をミズキは好意的に受け入れている。
また、それは電車の乗客にも言えた。
水の服を着ているミズキやかみしゃまを初めて見たはずなのに、みんなは彼女たちを変だと思っていないようだった。
もともとこの世界にはたくさんの星があり、人々はそれぞれで異なる文明や文化を築いている――だから自分とは違う存在と初めて会ってもそれは非常識なことじゃないのだ。
ともあれ電車から降り、こんしまちゃんたちはたまごのかたちをした店に入った。
そこでは店主とシマッタ王が待っていた。
駅長の姿ではなくなっているこんしまちゃんはあらためて名乗る。
「シマッタ王……店主さん。わたしはこんしまちゃんです……ナビゲーターさんの追跡から戻ってきました」
で、今までのことをかいつまんで話した。
「……と、こんな感じです。とくに店主さんには悪いことをしました……」
まだ割れたままの店の窓をちらりと見る。
「あの窓もそうですが……燃料が切れたポッドは置いてきてしまいましたし……ポッドの代わりに差し出した駅長帽子も取り返せなかった始末……ごめんなさい」
「いやいや気にしないでいい」
店主はニヤリとしながら肩をすくめる。
「アンタのおかげでなかなか楽しませてもらった。だから別に賠償しろとか言ったりしないよ。それと……ポッドは電気で動かせるから覚えておくといい」
「ありがとうございます……」
ていねいにこんしまちゃんは頭を下げた。
ここでシマッタ王がうなずき、口をひらく。
「それにしても境界空洞の存在が分かったのは収穫だな、こんしまちゃん。世界合体を待つことなくアルベスどのたちと顔を合わせて話すことができそうだ」
「はい……シマッタ王」
「ところで君の後ろにいる2人はだれかな。紹介してくれると助かるんだが」
「しまった……忘れてました」
慌ててかみしゃまとミズキを紹介するこんしまちゃん。
それを聞いたシマッタ王は気持ちよく笑った。
「よろしく、かみしゃま、ミズキ。わたしは誇り高きヤラカシター家第48代目当主シマッタ・ヤラカシターだ!」
「なんて名前だ。……いやもちろん、いい意味で。ともかく、よろしく」
ミズキはシマッタ王の立派な名前に圧倒されているようだった。
けれど、かみしゃまは動じていない。
「ボクからもよろしく。キミのことはアルベスたちと話したときに聞いていたけれど、こうして会話するのは初めてだね、シマッタ」
「……そのとおりだな、わたしもうれしいよ。ただ、君には――いや、あなたには普通とは違う雰囲気が感じられる」
ストレートに言うシマッタ王。
「教えてほしい。あなたの正体はいったいなんなのだ」
「本当の名前は『たっまし』さ。そしてボクを定義づけるなら、『きっかけと集約の不死存在』とでも言うべきかな」
「失礼。もう少し詳しく」
「少なくとも例の境界空洞によってつながっているすべての異世界はボクをきっかけとして発生しているのだ。ボクは『たっまし』の言葉どおりあらゆる魂の始原となっている」
かみしゃまの話によると、こんな経緯があったらしい。
もともと世界は「たっまし」だけで完結していた。
でもあるとき「たっまし」が反転して「しまった」という言葉が漏れた。
うっかり「たっまし」が崩れ、「たましい」が生まれた。
その魂が膨張し、精霊と人間のいる最初の世界を形成する運びとなる。
安定したその世界においても魂は反転し、一部が世界外へとうっかり転がり落ちてしまった。
それがコウモリのぬいぐるみの世界となり、その世界からさまざまな別の魂ひいては世界が転がり落ちた。
コウモリたちのいた世界が世界同士をつなげる境界空洞になっているのは、そこからさまざまな世界が派生したからである。
そして本来の力を取り戻した「たっまし」は、自分をきっかけとして生まれ落ちたすべての魂の存在を感知する。
あらゆる魂が例外なく、きっかけとしての「たっまし」に引き寄せられているから、かみしゃまことたっまし自身がそれを否応なしに感じ取っているのだ。
「ボクは魂の集約地点でもある」
「……ふむ。話してくれて感謝する、かみしゃま」
「クリイミフすぎんだろ」
シマッタ王がお礼を述べたあと、ミズキがもっともなことを言った。
かみしゃまは苦笑してこの場にいるみんなに目を向けなおす。
「ともかくボクこそすべての世界の根幹に関わっている超すごい不死存在だってことだよ。ただしそれぞれの魂に優劣はないから、感知した魂を個体ごとに弁別することはできない。でもボクの名前である『たっまし』の反転であり、かつ『魂』の反転でもある『しまった』が言葉にされたときも、ボクはその事実を感知できる。このボクと縁の深い言葉だからこそ、『しまった』のほうがボクに生まれたことを知らせてくれるって感じかな」
「なるほど……それでかみしゃまは本当の力を取り戻そうと思ったんですね……」
こんしまちゃんがポンと手をたたいた。
「ナビゲーターさんはより多くの『しまった』を求めている……だったら、かみしゃまの感知した大量の『しまった』をたどることでナビゲーターさん自身を発見できる可能性が高まる……!」
「そういうことだよー。だけど、ナビゲーターらしき魂はこの世界にはいないようだね。ナビゲーターのしまったには邪悪なものが含まれているっぽいから、近くにいれば確実に分かるんだけど」
「ではいったんアルベスどのがいる世界に行くのはどうだ」
シマッタ王が提案した。
「境界空洞を通って、わたしも連れて行ってもらえると助かる――」
「――失礼します」
このとき店内に、新たな2人が現れた。
こんしまちゃんが転生したことのある、駅長と大臣であった。
ちなみに駅長は、再就職したほうの駅長である。
彼女は帽子をかぶりなおしていた。予備の帽子があったようだ。
「まずはわたしから。駅長組合全体で協力しつつ、それぞれの星に対して『タベモノ』なるものに充分注意するよう呼びかけました」
続いて大臣がシマッタ王の前に進み出る。
「つい先ほど、例の件について最高権力者の許可が下りました。これで異世界同士を合体させることができるようになったわけです。かつ、異世界との交渉はシマッタ王に任せるとのこと」
「報告、ご苦労」
2人へと、シマッタ王がねぎらいの言葉をかけた。
それからアルベスのいる世界に移動することになったけど、その前にこんしまちゃんは駅長と大臣に話しかけた。
「本当のことを言います……わたしはあなたたちに乗り移っていたことがあります」
とはいえ、そのときのことすべてが本人の記憶から欠落するわけじゃない。
記憶は自然に補完され、あくまで本人は本人の意思で動いたことになる。それは、背中にコブのある世界でペタ子と再会した時点で判明したことだ。
駅長と大臣は静かにほほえむ。
普通ならなにを言っているのか首をかしげるところだが、不思議と2人はこんしまちゃんの言を受け入れていた。かつて魂が重なり合ったからこその反応なのだろう。
「――そうなのかもしれませんね。わたしたちも、なんか自分にしては大胆な行動をとった記憶がありますから」
シマッタ王と協力して「しまったの行進」をおこなったり、この世界に危機が迫っていると王に訴えたりしたことを思い出しているようだ。
「でもわたしたちは、あのとき大胆に振る舞えてよかったと思っています。自分のためにも、世界のためにも……だからあなたが乗り移っていたことが本当だとしても、責めたりなんかしませんよ」
ついでいたずらっぽく付け加える。
「ただしお礼は言いません。わたしたちは、わたしたち自身の意思で選択をしたのですから」
「はい……!」
ありがとうと言われるよりも、よほどうれしい言葉だった。
これまで転生したすべての魂はこんしまちゃんがあやつっていたわけではなくて、むしろこんしまちゃんを導いてくれていたんじゃないかとも思う。
こんしまちゃんがみんなの願いをかなえてやっていたんじゃない。
みんなは、自分で願いをかなえるところをこんしまちゃんに見せつけていただけなんじゃないかと。
本来、魂はとっても力強いものなんだなあとこんしまちゃんは感動していた。
そして、その反転である「しまった」も例外じゃないはずだ……。
* *
境界空洞を抜け、こんしまちゃんとかみしゃま、ミズキ、シマッタ王がアルベスと対面した。
色あせた紫の大地で事情を聞いたあと、アルベスがプリプリしてかみしゃまをにらむ。
「キサマ……なぜ前に話したときに境界空洞のことを言わなかった」
「言えなかったんだ、アルベス」
けおされることなくかみしゃまが言葉を返した。
「異世界間でリモート会議をしたとき、ボクはキミと初対面だったんだよ。キミが信用にあたいするか分からない時点でホイホイ秘密を明かすわけがない」
逆に言えば、ここで明かしたということはアルベスを信用したということ。
「でも黙っていたのは謝る、ごめん」
「……ふん。まあいい。オレは寛大だから許してやる。シマッタも連れてきてくれたしな」
アルベスが頭部の墓石をなで、息をつく。
「とにかくナビゲーターを追い詰める素地が整ってきたわけだ。この状況をさらに詰めようではないか」
あえてアルベスはこんしまちゃんをじっと見つめ、縮れた紫色の髪をゆらした。
「では、ナビゲーターの捜索と世界合体のタイミングを計ること以外でオレたちがやらねばならないことはなにか分かるかこんしまちゃん」
「もちろん分かっています……アルベスさま」
こんしまちゃんは堂々と答える。
「今こそ、勇者魔王を確保しましょう」
* *
☆今週のしまったポイント:1ポイント(合計37ポイント)
次回「ビームでもサンダーでもなくテレパシー」に続く!?




