↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/52

宝箱って奪われるもんじゃないの?

「こ、このクリ(・)ガキ~っ!」


 モコモコの繭(まゆ)からこんしまちゃんを解放したミズキに対し、キマイラ町娘(まちむすめ)さんが激昂(げきこう)する。


 ――と思いきや、両腕(りょううで)を振(ふ)って深呼吸した。


「ふー、シマッタ。……ワタシとしたことが人の口癖(くちぐせ)を口(くち)にしてしまいました。シマッタひとすじなのに浮気(うわき)してはいけませんね」


 さっきまでこんしまちゃんを捕(と)らえていたモコモコが縮み、飛翔(ひしょう)した。

 輪っかの形状に戻(もど)り、キマイラ町娘さんの左太ももに再びハマる。


「じゃ、また逃(に)げますか。ずっとこんしまちゃんと追いかけっこするのも退屈(たいくつ)ですので、もうすぐ決着をつけてやりますけど」

「その前にボクから逃げられるかな?」


 炎(ほのお)のチョウの姿をしたかみしゃまが、キマイラ町娘さんの眼前に立ちはだかる。

 火の粉(こ)が散り、分裂(ぶんれつ)し、町娘さんを取り囲む。


 しかしキマイラ町娘さんは後退。

 後ろに浮(う)く姿見(すがたみ)の鏡面に体を沈(しず)ませた。


 波紋(はもん)と共に町娘さんが鏡のなかに消える。

 かみしゃまも続こうとしたけれど、姿見は瞬時(しゅんじ)に霧散(むさん)した。


「自己に付属する鏡そのものを空間の切れ目にしたのか」


 ついでかみしゃまは、こんしまちゃんに貼(は)り付いた白い壁(かべ)に体当(たいあ)たりし、コナゴナにした。


 こんしまちゃんはかみしゃまとミズキにあらためて感謝を伝える。


「クリクリありがとうございました……」

「どういたしましてさっ」


 気さくにかみしゃまが返事をする。


「でもクリクリって?」

「しまった……意味が通りませんね」


「……やっぱその口癖(くちぐせ)は、こんしまちゃんだな」


 ミズキが水でできた服をパシャリと言わせる。


「てめえの魂(たましい)がいろんな世界を渡(わた)り歩いているっつう話も、いよいよ信じるしかなくなっちまったってわけだ。そういやあぐりには、いろんな姿になってるとも言ってたよな。今の姿もその1つってことか」

「そうだよ、ミズキちゃん……」


 こんしまちゃんは制服の裾(すそ)をつかんだ。

 そして、さっき名前の出て来たキツネ耳の女の子のことを心配する。


「ところであぐりちゃんは……?」

「あぐりは、つながっちまった2つの世界の人たちを結び付けるのに奔走(ほんそう)してる。ネオ・バロメッツを管理しながら巨大生物(きょだいせいぶつ)にも対処(たいしょ)しなきゃなんねえけど、みんなで力(ちから)を合わせてなんとかやってるっつーの」

「……だ、だいじょうぶかな。あぐりちゃん……」


 もともと、あぐりはバロメッツの世界で迫害(はくがい)されていた。

 だから巨大ブタのエサにもなっていたのだ。


 そのあぐりが、もとの世界の人とうまく交渉(こうしょう)できるのかこんしまちゃんは不安だった。

 しかしミズキが水を飛ばしてこんしまちゃんの手を小さく濡(ぬ)らした。


「心配してるみてえだな。だけどウチら精霊(せいれい)の血を引くみんなで、向こうのヤツらに忠告しといた。あぐりをひどい目に遭(あ)わせたらひどい目に遭わせるぞってな。そして……バロメッツから生まれてくるいろんな耳を生やした人たちもウチらは見つけたが、向こうのヤツらがそいつらをぞんざいにあつかっているようだったから、2度とそんなことすんなってしっかり言い聞かせといた!」


「ミズキちゃん……ありがとうっ」

「な、なんでてめえが礼を言うんだよ。感謝されるにしても、あぐりたちのために尽力(じんりょく)したのはウチだけじゃねえ。いろんな人種のヤツらが向こうのヤツらに言ったんだ。いろんな耳が生えていたって別にいいじゃないかってな」

「そう、みんなが……本当によかった」


「あの~、キミたち。そろそろいいかな?」


 盛(も)り上(あ)がっているところに、かみしゃまが遠慮(えんりょ)がちに声をかける。


「ナビゲーターがどこの世界に行(い)ったのか分からない以上すぐに追うことはできないけど、ちょっと今のうちにやっておきたいことがあるんだよー」

「……前にウチも見ていた炎をまとったハムスターがナビゲーターだったんだよな。で、今はさっきのクリ金髪(きんぱつ)に姿を変えているわけかよ」


「じゃ、じゃあわたしが今週のしまったポイントを消費してそれぞれの世界を閲覧(えつらん)して捜(さが)したほうがいいでしょうか……」

「いや、その前にミズキにあるものを見つけてもらいたいのだっ!」


 かみしゃまがチョウの姿のまま胸をそらした。


「そもそもこんしまちゃんはツッコんでくれなかったけど、どうしてボクとミズキがこの消滅(しょうめつ)した世界に来たと思う?」

「しまった……わたし、ツッコむのを忘れてた」

「だからセルフツッコミさ。……もともと、ボクはこんしまちゃんを助けようとしてたわけじゃない。ボク自身の名前を一緒(いっしょ)に発見してほしくて、ミズキを連れてきたんだよ」


「言ってる意味が分かんねえな」


 ミズキが大きく首をかしげる。


「すでにてめえには、かみしゃまっていうクリみてえな名前があんだろが」

「そこを矛盾(むじゅん)と思わなかったかな」

「あん?」

「話(はな)したことがあるよね。1億年前、精霊には名前がなくて人間には名前があったんだって。だけどボクはその時点で名前を持っていた。『かみしゃま』という名前をね。永遠(えいえん)不滅(ふめつ)の存在なのに、まるで人間みたいじゃないか」


 確かに、人間ではないはずのかみしゃまに「かみしゃま」という名前が与(あた)えられていたのは、世界観的に矛盾であった。


「ボクは精霊と人間とのあいだに産まれた子どもの両側面(りょうそくめん)を大切にするために名前を隠(かく)すことを思い付いた。でも、そもそもこの折衷案(せっちゅうあん)を提示できたのは最初からボク自身がボクの本当の名前を隠していたからなんだよ。だってボクの本当の名前がさらされたら、当のボクが名前を持つ人間的なものに格落ちしちゃうもん。でもみんなに認識してもらうためにダミーの名前は必要だった。それが『かみしゃま』ってわけ」

「なら……かみしゃまの本当の名前は見つけないほうがいいんじゃないんですか」

「今まではそうだったんだよ、こんしまちゃん。でもいろんな世界が危機におちいっている以上、ボクも本当の名前を――ひいては本当の力(ちから)を取り戻(もど)さなくちゃいけない」


 名前と本来の力が結び付いているのは、なんか神話的である。


「あと、名前を人間的なものとして隠すことのない世界と混(ま)ざったことで、精霊人種の暮らす世界の在り方が変わった。そうなった今、ボクが名前を持っても即座(そくざ)に人間的なものに落ちるわけじゃなくなった……というのも大きいかな」

「じゃあなんでわざわざウチと一緒(いっしょ)に来たんだよ。てめえだけで名前とご対面すりゃいいだろ」


「ミズキ……ボクの名前はだれかに見てもらわないといけないんだ。だってボク1人だけが認識した名前はウソかもしれないから。キミという証人がいてこそ、ボクの本当の名前は本当になるんだよ」

「なに言ってんだか意味不明だっつの」

「ともかく一緒に見てほしいってことだよー。この際だからこんしまちゃんも付き合ってほしいな。……おや」


 かみしゃまの羽がパタパタ動く。


「見つけた。実は火の粉をあたりに飛ばして洞窟内(どうくつない)を探(さぐ)っていたんだ」


 そう言って奥(おく)に向かうかみしゃまに、こんしまちゃんとミズキがついていく。


 背中を見せつつ、かみしゃまが話を続ける。


「ではなぜここで名前を見つけようとしているのか? ボクがみんなの名前を、この世界に続く空間の切れ目に隠していたからさ。かみしゃまとしてボクは、世界と世界をつなぐゲートに気づいていたんだよ」

「もしかして……」


 こんしまちゃんが小さく手をたたいた。


「わたしとミズキちゃんの名前が隠れていた滝(たき)の裏の洞窟(どうくつ)も……実はこの鍾乳洞(しょうにゅうどう)の世界に続いていたんですか」

「そういうこと。ただしみんなが異世界に迷(まよ)わないよう、利用したゲートの先はいつも閉鎖(へいさ)された行(い)き止(ど)まりにしてたんだ」


「……なんかやっぱクリ意味(いみ)分からんわ」


 肩(かた)を持ち上げ、かぶりを振るミズキ。


「洞窟んなかの箱に入(はい)ってたこんしまちゃんの名前はともかく、ウチの名前はかみしゃまが変形して出て来た紙に書かれてたじゃねえか」

「ボクそのものも空間の切れ目をいくつか内包しててね。あのときはそこからミズキの名前をポロリしたのさっ」

「クリ嫌(いや)な言い方すんなよ……理屈(りくつ)は分かったけど。ようは、ここを名前の倉庫にしてたってわけだ」


「といってもかみしゃま……」


 こんしまちゃんが疑問点をぶつける。


「あなたは少なくとも1億年前の時点でこの世界にご自身の名前を隠したんですよね……」

「そだよー」


「でもこの世界に関しては……宇宙使いの魔女(まじょ)さんのご先祖(せんぞ)さまが今週のしまったポイントを消費して1度消滅(しょうめつ)させています……そのとき、かみしゃまのお名前も一緒(いっしょ)に消滅しちゃったんじゃないんでしょうか……」

「おおっ、よく気がつくねこんしまちゃん。実はそうなんだ。当時、空間の切れ目を通過して見てみるとぬいぐるみのコウモリたちも消えていたからボクはとってもビックリしたんだよ。だから再度ボクの名前と共にみんなの名前も全部(ぜんぶ)隠しなおした次第(しだい)さ。名前を収めた箱もいちいちまた用意しなきゃいけなかったから大変だった。でもぐちぐち言うより前に、そういうものだと自分を納得(なっとく)させた」


「どうしてそこまでがんばれたんです……」

「だって、宝箱って奪(うば)われるもんじゃないの? だれにも顧(かえり)みられることもなく消えたからといってそれはそれ。かつ、ボクは奪ってほしくて名前入(い)りの宝箱を設置する。これから見つけられることになる宝箱は、とてもワクワクしているんだよ」


 ここで、かみしゃまの動きがとまる。

 前方の壁(かべ)に体当たりした。


 砕(くだ)けた壁の先には新たな空洞(くうどう)が広がっていた。

 その中央に置かれた直方体の箱にかみしゃまが近づく。


 ミズキがけげんな顔で指摘(してき)する。


「おい、なにクリ平然と近づいてんだ。宝の前にはそれを守る番人がいるんじゃなかったのか」

「番人は、ボクの名前を入(い)れたこの宝箱そのものさ」


 かみしゃまが羽(は)ばたいてミズキとこんしまちゃんを招(まね)く。


「ボクはだれかに本当の名前を見せるのを怖(こわ)がっていた。格落ちする可能性があるからね。よって宝箱は番人として、ボク以外の者にしかふたをあけることはできないぞと主張しているのだ」

「ウチを連れてきたのは、そういうことかよ」


 ミズキが前に出て、ふたに手をかける。


「いいんだな、あけて」

「うん。今こそボクの神秘(しんぴ)を奪ってほしい」

「ったく。クリキザな言い回ししやがって」


 こんしまちゃんも見守るなか、そっとふたを上げるミズキ。

 箱の中身は、やはり小さな白い紙だった。


 縦書きの黒い字で書かれていたのは――。


「たっまし」


 ミズキとこんしまちゃんは同時にその名を読み上げた。

 人の名前っぽくないし、そもそも言いづらいけど、かみしゃまの本当の名前とはそういうもんなのかもしんない。


 かみしゃまのチョウの体が膨張(ぼうちょう)する。


「2人ともありがとー。ボクも名前と共に本当の力(ちから)を取り戻(もど)せるよっ」


 かくしてかみしゃま(たっまし)の炎の姿が変化(へんか)を遂(と)げた。

 そこに現れたのは、ミズキよりも背の低い、人間の子どものように見(み)えるなにかだった。


 髪(かみ)はきれいで長いけど、男の子か女の子かは分からない。きっと、どちらでもあるのだろう。

 体の周辺に、炎・水・氷・緑の風(かぜ)・紫(むらさき)の雷(かみなり)をそれぞれ少しずつまとっている。


「でも、たっましって言いにくいよね? 呼ぶときはこれまでどおりかみしゃまかクリ野郎でいいよー」

「はい……って、たっましって魂(たましい)のこと……?」


 こんしまちゃんがハッとした。


「しまった……すぐに気づかなかった。ナビゲーターさんから聞いていたのに……。そして『たっまし』はわたしの口癖(くちぐせ)の反転でもある……」

「言われてみりゃあ……」


 ミズキも小声で「たっまし」と「しまった」を反復してうなずく。


「クリ野郎にしちゃ、ごたいそうな名前だわ」

「……ともかくかみしゃまの本当の名前は見つかったからナビゲーターさんの捜索(そうさく)をわたしは再開するね。かみしゃまとミズキちゃんはどうする……? もとの世界に戻る……?」


「いや、ボクはまだ戻らないでおくよ。すぐに帰ったら、世界観的に矛盾が出る可能性も一応(いちおう)あるからね~。てなわけで、こんしまちゃんについていこうかな」

「ならウチもそうしとく」


「うれしい……2人が来てくれると心強(こころづよ)いよ」


 ついでかみしゃまに「今はどこの世界に行(い)くつもりかな」と聞かれたこんしまちゃんだったけど、移動手段がないことに思い至(いた)る。


「しまった……この世界のどこに切れ目があるのか分かんなくなっちゃってる」

「だったらボクに任せるのだ!」


 かみしゃまがきびすを返し、箱のあった空洞から出る。

 一方(いっぽう)、ミズキは名前の書かれた紙をひらひらさせた。


 すると箱と紙が青く燃えた。

 細かい破片(はへん)となって見(み)えなくなった。


 以前(いぜん)見つけたこんしまちゃんとミズキの名前が書かれた紙2枚も同じように消えたのだと思われる。


 なにもなくなったことを見届けたあと、こんしまちゃんもかみしゃまに続いた。


「1度見つけられた宝は消えるんですね……」

「まあね」


 炎と水でできた羽を上下(じょうげ)させ、かみしゃまが宙に浮(う)く。


「しっかり奪われたあかしさ」


* *


☆今週のしまったポイント:4ポイント(合計36ポイント)

次回「きっかけと集約の不死存在」に続く!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。