掃きだめ町娘
町娘さんの背中からコウモリの翼が生える。
「もともと闇のマンガ家がいたこの世界は、迷える魂を受け入れる場所なんですよ。闇のマンガ家もこんしまちゃんもワタシも迷っていました。そしてそのかたちは……本人の魂にもっとも近い形態となるんです」
「あ……」
こんしまちゃんは自分の見た目が変化していることに気づいた。
すでに駅長のこんしまちゃんではなくなっている。いつの間にか高校のパーカー制服を着用していた。
対する町娘さんの頭に、駅長帽子がふってくる。
「前にこんしまちゃんがこの世界に転生したのは、これからどうすべきか迷っている自分の魂そのものに呼ばれたからです。だからそのときワタシは今週のしまったポイントのことや世界を合体させるメリットについて教え、あなたに道を示してあげたんですよ」
帽子を斜めにかぶった町娘さんの手元に大きな縫い針のような杖が出現する。
さらに姿見が後背に現れ、町娘さんの後ろの景色を隠した。
目を丸くするこんしまちゃんに、町娘さんが笑いかける。
「言ったでしょ、ここは迷える魂を受け入れる場所だって」
不思議なことにどこからともなく、まだまだいろいろ現れる。
燃えている毛皮が外套のようにその肩にかかる。
羊のモコモコの毛が町娘さんの左右の太ももに輪っかとなって引っかかる。
「さっきからワタシに装備されているものがなにか分かりますかねー」
「きれいな町娘さん、コウモリのぬいぐるみ、帽子、宇宙使いの魔女さんの杖、鏡、燃えるハムスター、バロメッツの羊……もしかして……今までの世界でナビゲーターさんが変身していたものをもとにしているの……?」
「察しがいいじゃありませんか」
アユに似た魚が空中に姿を見せ、姿見の鏡面にぽちゃりと入って波紋を作る。
「墓かぶりの世界では湖面で会話しましたっけ。だから鏡が湖のようになってアユもそこで跳ねることができるわけです」
町娘さんの頭に、ウサギの耳まで生えてきた。
「かわいいお耳もあるわけですねー」
「それが……ナビゲーターさんの魂のかたちってこと……?」
「というか、ワタシってばいろんなものに変身するせいで魂が迷子になっちゃってるんですよ。コウモリのぬいぐるみの世界で生きていたときは、まあ町娘さんのポジションでした。だから魂のベースは町娘さんなんです。けれど変身を重ねるにつれ、魂の形態がゆがんだんですよ~」
毛皮に穴があき、そこに翼を通す町娘さん。
「ここはいわば、ワタシのパーツの掃きだめでもあるんです。捨て置いたワタシの魂のカケラたちが迷った挙げ句にここに来て、ワタシへと引き寄せられていると言ったところでしょうか」
「……だけど、仮面がないよ。面食いの世界で変身してたよね……」
「必要ないですよ、だって……」
杖の先端をこんしまちゃんに向ける。
「仮面ならすでにかぶってたんですから」
先端を小さく振る。
すると、こんしまちゃんの背面になにかがぶつかった。
どうやら白い壁のようだ。
壁面に貼り付いたこんしまちゃんの両腕が水平に伸び、両脚がひらく。
「……しまった。これ、闇のマンガ家さんの……っ」
「そう。前にワタシを拘束した壁を利用させてもらいました。ワタシは変身して脱出できましたが、こんしまちゃんにはそれができない。ちなみに、転生をねらって舌を噛もうとしても無駄ですよ。闇のマンガ家がグロ表現を規制しているため、そういうこともできないようになっているんですわー」
「そんな……っ」
目の前のトランポリンのゆかには破れた穴があるけれど、そこに落ちることすらできない。
町娘さんは杖を振り上げる。
その動きに合わせ、こんしまちゃんのくっついている白い壁が浮き上がった。
こんしまちゃんは空間の切れ目に押し込められ、再び鍾乳洞の世界――境界空洞に戻ってしまった。
「しまった……あ!」
「はい元気なシマッタどうもですっ。おこぼれとはいえ、あなたの産するシマッタはなんて美味なことか!」
「も、もう言わないから……っ」
「果たしてそんな強がりをいつまで口にできますかね」
左太ももに引っかかっているモコモコの羊の毛を外し、それを輪投げの要領で投げる町娘さん。
モコモコは瞬時にして大きくなり、こんしまちゃんを取り囲んだ。
それだけでなく、さらに広がって彼女を繭のなかに閉じ込める。
「待って……出して、ここから……!」
「いい鳴き声ですねこんしまちゃん。あなたにできるのは、ワナにかかったことを後悔しながら『シマッタ』とくり返すことだけ。まさにしまった工場。モコモコの繭がしまったで満たされ、外側がしまったの内圧でパンパンにはち切れそうになったところでワタシは一気にしまったを食らいつくしましょう!」
ウサギ耳をパタパタさせて町娘さんが高笑いする。
「こんしまちゃんを完全攻略したので、もはやワタシに敵はありません。今のワタシはただのナビゲーターではなく、アルティメットナビゲーターです! 町娘あらためキマイラ町娘ですよ! あははははっ!」
「ふーん。だったらボクがもっといい名前つけてあげよっか?」
「やだなー、これよりいい名前なんてないですよ~。……って何者!」
こんしまちゃんのものではない声を聞き、町娘さん――否、キマイラ町娘さんが振り返る。
そこに、チョウのかたちをした炎が浮いていた。
「今はキミ……ハムスターの毛皮を背中にまとっているんだねー」
「……な、なんでこんなところに」
キマイラ町娘さんがとっさに後退する。
「かみしゃまがッ!」
「いや、いてもいいでしょ。だってボク、かみしゃまなんだし」
チョウのような炎は、炎人種たちのいる世界でみんなの名前を隠していた、とっても偉い「かみしゃま」であった。
そして、その世界でこんしまちゃんが出会った人物(?)はもう1人いる――。
……「彼女」は死角から、こんしまちゃんの入ったモコモコに接近してスパリと割った。
水の服をまとった女の子が水をカッターみたいにあやつって繭を切断したのだ。
かみしゃまがキマイラ町娘さんをけん制しているあいだに女の子はこんしまちゃんの制服をつかみ、くっついている壁ごと引きずり出す。
「今のてめえは炎をまとっていないとはいえ、そのクリ間抜けな雰囲気はこんしまちゃん以外にありえねえ」
「クリありがとう……」
こんしまちゃんは壁に拘束されたまま深く息を吸い、その女の子にお礼を言う。
「ミズキちゃん、久しぶり……助けてくれたんだね」
「別に。ウチはクリ野郎のかみしゃまについてきただけだっつの。あー、クリだるっ」
「は……はあっ!?」
キマイラ町娘さんがじだんだを踏む。
「ちょ、あなた……なにしてくれちゃってんですか。せっかくのしまった工場が」
「なめてんのかこのクリアマッ!」
相変わらずミズキはかなり口が悪い。
でも……その口の悪さに今のこんしまちゃんは救われていた。
「こいつには、ウチと見つけた『こんしまちゃん』って間抜けな名前が1番お似合いなんだよ。断じてしまった工場なんかじゃねえ分かったかクリの掃きだめ町娘っ!」
* *
☆今週のしまったポイント:2ポイント(合計32ポイント)
次回「宝箱って奪われるもんじゃないの?」に続く!?




