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境界空洞

 トレンチコートの少女は塔(とう)から下(お)りて仲間のみんなを一箇所(いっかしょ)に集めた。

 そこでタベモノビッグバン計画の打ち切りを提案した。


 ほかの星の人たちにとってタベモノは危険かもしれないから安全性の確認が急務と説明すると、みんなは納得(なっとく)してくれた。


 塔のてっぺんに置かれていたタベモノの詰(つ)まった小型ポッドもすべて地上の倉庫に移されることになる。


「――あたしも、タベモノをブラックホールに撃(う)ち込(こ)む計画は取りやめます。生産方法がしるされた文書も処理(しょり)しません。いえ、今(いま)思えばその文書は厳重(げんじゅう)に保管されていて当然なわけですし、あたし1人がどうにかできるわけもなかったですね。本当にあたしは……ずさんで幼稚(ようち)な計画を立てていたものです」


 ひととおりの作業が終了(しゅうりょう)したあと、こんしまちゃんに少女が言う。


「そういえばあなたにはタベモノビッグバンをとめるかどうか判断を仰(あお)いでいましたが、結局あたしたちのほうでいろいろ話を進めてしまいました。そこも、すみません」

「……いいんですよ」


「そしてあなたに感謝します。駅長さんの言葉を伝えたところ、パパとママも少しだけ元気になってくれました」

「そうですか……わたしもあなたと会えてよかったです」


 そのあとこんしまちゃんは駅長さんを死なせてしまった路地に行(い)き、その魂(たましい)に謝(あやま)った。


* *


 円筒形(えんとうけい)のポッドに乗ってこんしまちゃんは銀色の星をあとにする。


 で、もっとも近い星に着陸。

 そこに、帽子(ぼうし)と引き換(か)えにポッドを譲(ゆず)ってくれた店があるのだ。


(今のナビゲーターさんは帽子の姿をとっている。逃(に)げたりしてないよね……?)


 ポッドから出て、大きなたまごのかたちをした店に入(はい)る。

 建物のなかには店主だけでなく、数人の護衛を連れた金髪(きんぱつ)の若い女性もいた。


「チマッタ王……!」


 こんしまちゃんは思わずこうべを垂れた。


(よし、「ちまった」が決まった……! 店主さんは両手に帽子のナビゲーターさんを持っている……だから「しまった」と不用意に言うわけにはいかない)


 なおシマッタ王によると店主はこの星で一番(いちばん)えらいらしく、かつシマッタ王の友達であるそうだ。


 あいさつしたあと、店主の勧(すす)めに応じてこんしまちゃんはイスに座(すわ)った。


「王もこちらにいらしていたのですね……」

「君がチマッタステーションから離(はな)れたと聞いてな。なにかあると思ったのだ」


 シマッタ王もきちんと「ちまった」と発音している。


「しかも駅長組合からタベモノビッグバンなるものについての情報も流れてきた。だからわたしは君の目撃(もくげき)証言(しょうげん)を追ってここまで足を運んだ。ほかの星に対して国交を断絶している銀色の立方体の星がタベモノビッグバンの原因なのだろう? これからわたしもチマッタ・ヤラカシターという素性(すじょう)を隠(かく)してそこに乗り込(こ)むつもりである!」

「もちろんあとで正式に調査(ちょうさ)していただきますが……タベモノビッグバン計画自体は打ち切られたとわたしからは報告しておきます」


 こんしまちゃんは先ほどの星で起こったことを話(はな)した。

 死んだ駅長についても素直(すなお)に明かす。そうしないとあの少女が説得された理由が分からなくなってしまうから。


 あいづちを打ちながらシマッタ王はこんしまちゃんの報告を聞いた。


「ふむふむ。話が本当であれば当面の心配は要(い)らなくなるか。もちろん君が進言してくれたとおり事実の調査はするし、タベモノへの警戒(けいかい)もおこたらないようにする」


 銀色の星からタベモノが発射(はっしゃ)されずとも、異世界と合体すればこの世界にもタベモノが流入する。シマッタ王はそちらの意味でも「警戒」という言葉を口(くち)にしているのだ。


「無論、北半球の民主派やほかの星とも協力しながら」


 表情をゆるめるシマッタ王。


「とにかく君には礼を言わねばな。タベモノビッグバンをとめてくれてありがとう」

「もったいないお言葉です……チマッタ王。……実際にタベモノビッグバンをやめる決断をしたのは、あの星の人たちなのですから」

「ふふ、そうか」


 ついで無帽(むぼう)のこんしまちゃんを見つめる。


「ときに店主から聞いたぞ。ポッドを購入(こうにゅう)するために、しゃべる帽子を手放したそうだな」

「駅長はクビでしょうか……?」


「いいや、君はタベモノビッグバンを阻止(そし)すべく銀色の星に急いでいたのだろう? であれば責(せ)めることもできまい」

「寛大(かんだい)なご判断に感謝します……それと、まだ報告したいことが」


 また異世界同士が合体したことをこんしまちゃんはシマッタ王に伝えた。

 その話に驚(おどろ)く店主の横で、王はうなずく。


「なるほど、アルベスどのはナビゲーターを出し抜(ぬ)くことに成功したと。本当に傑物(けつぶつ)だな。わたしのほうでもアルベスどのの提案に応じて世界合体の意思統一(とういつ)を進めているから、近いうちに正式な同盟(どうめい)を締結(ていけつ)することも可能だろう」

「頼(たの)もしい限りです……」

「そしてこんしまちゃん」


 シマッタ王は店主の両手に握(にぎ)られた帽子に視線をやった。


「この帽子こそが、異世界同士を合体させてそれをまとめて消滅(しょうめつ)させようとしているナビゲーターだな」

「はい……どうして分かったんです」


「こんしまちゃんによると、相手は『ちまった』を養分にして力(ちから)を行使するとのことだった。君はチマッタステーションにいるときは『ちまった箝口令(かんこうれい)』を誘発(ゆうはつ)し、さらに現在もわたしを『チマッタ王』と呼んでいる。店主はこの駅長帽子がしゃべるって言うし……それらを考え合わせたら、君がかぶっていたこの帽子こそが『ちまった』を食(く)らおうとしている元凶(げんきょう)であると推理するのは難しくない」


 冷たい目と共に、シマッタ王が帽子に近づく。


「君自身に、なにか弁明はあるかな」

「ふーんだ! 気に食(く)わないなら燃やせばいいでしょっ!」


 店主の両手のなかで、ナビゲーターがす(・)ね(・)た(・)ような声を出す。


「すでにワタシは世界を合体させまくってさんざん迷惑(めいわく)をかけていますからねー。さっさと始末しないとあなたたちの世界も同じ被害(ひがい)に遭(あ)いますよ」

「たとえ燃やしても……あなたは転生(てんせい)するんじゃないの……? 魂の反転である『ちまった』を好むあなただから……」


 こんしまちゃんが指摘(してき)した。

 対する帽子姿のナビゲーターはクラウン部分をしおれさせる。


「ひどいですね、こんしまちゃん。長いあいだ旅をしてきた仲じゃないですか。せめて『わたしの大切なナビゲーターさんのいのちを奪(うば)わないで……きっとナビゲーターさんにもなにか事情があるんだよ』とか言ってかばってくれたらうれしかったんですけど~」

「……できれば、そう言いたいよ」

「シマッタなあ。なんにせよ、もう逃げられそうにないです。こりゃ燃やされずに幽閉(ゆうへい)されて詰(つ)みですかね……」


 しょんぼりとした口調(くちょう)になった。

 ――と思ったら急に身をねじり、はじかれたように店主の両手から脱出(だっしゅつ)する。


「なんてねっ」

「させない……」


 とっさにこんしまちゃんはイスから立って帽子をつかもうとしたものの、帽子はねじれたまま空中を高速で飛び、店の窓を破って外(そと)に逃げた。


「しまった」


 シマッタ王と店主にこれからナビゲーターを追跡(ついせき)すると伝えてから、こんしまちゃんは店の外に出て自分のポッドに乗る。


 すぐに飛び、風の吹(ふ)き荒(あ)れる宇宙を突(つ)っ切る。


 じきに、前方に帽子を捉(とら)えた。

 その帽子が急に消える。


(……どこに行(い)ったの)


 あたりに星はない。

 帽子の消えた座標にこんしまちゃんが近づくと、空間に切れ目のようなものがあるのが分かった。


 思いきってポッドをそこに突(つ)っ込ませる。

 するとトンネルのように、切れ目を通り抜けることができた。


 その先にあったのは――。


 妙(みょう)に明るい鍾乳洞(しょうにゅうどう)。


(ここは、ナビゲーターさんが本性(ほんしょう)を現した世界……)


 しかしこんしまちゃんは意外にも驚いていなかった。

 ポッドを飛行機のように操作し、洞窟(どうくつ)を飛ぶ帽子との距離(きょり)を縮める。


 スピーカーをオンにして会話を交(か)わす。


「そういうこと……ナビゲーターさんは、ここを利用してたんだね」

「なんのことです、こんしまちゃんっ」


「とぼけなくていいよ……そもそも最初から異世界のあいだには、世界同士をつなげる時空間があったんだよね……?」

「……むっ」


「ヒントは3つあった……。1つ、異世界と言ってもわたしが移動できる時点で世界同士は完全に隔絶(かくぜつ)されているわけじゃない……だったら異世界同士をつなげる『なにか』があるはず。2つ、転生するわたしに、ナビゲーターさんは転生することなく毎回ついてきていたよね……つまり転生なしに移動する手段がどこかになくちゃいけなかった」


「そ、そんなの憶測(おくそく)でしょう」

「……3つ、異世界同士は同じ時間軸(じかんじく)を共有している……。わたしがある世界から別の世界に転生してまたもとの世界に帰ったとき、もとの世界ではちょうど別の世界で過(す)ごしたぶんの時間が経過した状態になっているよね……?」


 あのトレンチコートの少女とも半年ぶりに会ったわけだけど、その半年という時間は異世界を転々としていたこんしまちゃんの過ごした時間とほぼ一致(いっち)していた。


「もし本当の意味で完全に違う世界同士なら、これは不自然……むしろ時間軸が異(こと)なるなら転生するごとに過去や未来にも行(い)きそうなものだよね。でもそういうズレがわたしの転生には1度もなかった……だから」


 スピードアップする帽子に対して、こんしまちゃんのポッドもさらにスピードを上げる。


「異世界が複数ある状況(じょうきょう)でも実はその境界には空洞(くうどう)みたいなものがあって……それがすべての異世界に同じ時間軸を与(あた)えていると推測することは可能だった」

「こんしまちゃん……ッ!」

「あなたはこの『境界空洞』を利用して移動を重ねている……」


 帽子の前方に回り込み、ポッドがその進路をふさぐ。


「わたしに知られたからには、もう逃げ場はないよ……!」


* *


☆今週のしまったポイント:1ポイント(合計29ポイント)

次回「最後につながる場所はここ」に続く!?

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